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マックの文弊録

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2009.02.10
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◇ 2月10日(火曜日); 旧正月十六日 丙戌(ひのえ いぬ): 仏滅

少し前の事だが3日の節分の日に初めて恵方巻を食べた。
数年前から節分が近くなると、方々のコンビニで盛んに宣伝しているので知ってはいたが、買ったことは無かった。

節分の真夜中にその年の恵方に向かって海苔巻き一本を丸かじりする。食べ終わるまで一言も口をきいてはいけない。それが正統恵方巻作法らしい。
同じ時刻に方々で何人もが同じ方角を向いて海苔巻きを黙々と食べている図を想像すると、ちょっと怖いものがある。

恵方巻の由来は諸説あって、秀吉の時代に遡るとか、明治時代に始まったとか、いやいやもっと最近だとか色々だ。諸説ある中で、関西の色町で芸妓が恋の成就を願ったというのが個人的には一番好きだが、海苔屋が消費拡大を狙って始めたというのがどうも本当のところらしい。何れにしろ発祥の地は関西だ。関西商人が思い付き、後から色々な伝説をでっち上げて宣伝して回ったというなら、如何にもありそうな話だ。
どっちにしても僕にとっては、4~5年前に突如コンビニに現れたけったいな習慣だ。関東の大半の人にとっても同じだろう。

今年は近くのスーパーマーケットでも恵方巻セールというのをやっていて、見たら海苔巻の中味がトンカツとか海老フライなどと変わっている。それにおまけで「恵方磁石」が付いていたから、つい惹かれて衝動買いをしてしまったのだ。

おまけの「恵方磁石」には東西南北の他に十二支が書いてある。
北が「子」で、時計回りに丑寅卯・・・・と続く。つまり方位360度を12等分してあるのだ。
東洋の方位はこれを更に細かく分けて360度を24等分する。そして陰陽五行説だかなんだかを絡めて毎年の恵方が定まると共に、例えば「八白土星人の2月の恵方はこれ、凶方はこれ」などと導き出す。
更にこれにお日柄や何やらを勘案して、「今日は西へ行くのは避けて、買い物は吉。」などと行動の指針を決めていたのだから、思えば気が遠くなるような話だ。大前提の正誤是非を問わなければ、かなり精緻な理論だと思う。
だから陰陽博士や占い師などの専門家が盛えたのだろう。昔の日本人の、未知なるもの、不可知なる事に対する畏れや謙虚さは尊いと思うが、僕自身でこの理論を学んでみる気は全くしない。

さて今年の恵方は東北東よりやや東寄りで、これは万人に共通する。だから恵方巻を食べる時に向くべきはこの方角だし、穴八幡神社の一陽来復のお札もこの方角に向けて貼る。
正確に言うと、真東より北に12.5度振れた方角が天道といって、今年の恵方になるそうだ。
こうなると、正確に恵方を定めようとすれば、やはり方位磁石位が欲しくなる。

さて、その方位磁石だ。
地球上の方位は地球の自転軸を基に一方の極が北極点、他方が南極点と定めてある。
地球の中心部はコアと呼ばれ、融けた鉄が主成分だとされている。このコアが地球の自転によって緩やかに回転して電流が生じ、大まかに云えばこれが地球の磁場を作る。
地球の自転が原因だから、この電磁石の両極(N極とS極)の位置は、地軸の両極(北極点と南極点)と大体同じ位置になる。これを利用して方位を知る仕掛けが、おまけで貰った方位磁石だ。
磁石のN極はS極と引き合う性質を持っているから、細い針金状の永久磁石を中心で支えてバランスを取れば、磁石のS極は地球電磁石のN極の方向を向いて「北」を指す。

誰でも知っている理屈だが、実際の話はもっとややこしい。
大体が学問でも人間社会でも、理屈や理論が単純で綺麗でも(言い換えれば単純で綺麗だから理屈や理論なのだ)、それがそのまま現実や実際を説明することになったためしが無い。

地球が自転によって生じたコア電流による電磁石だといっても、その極は自転軸の極とはちゃんと一致しない。地球の中はごたまぜで複雑なはずだから、色々な事情で地球電磁石の軸がずれると考える方が自然だ。それで地磁気の極は磁北極・磁南極と呼んで、地軸の北極・南極とは区別する。現在の磁北極はカナダのバサースト島という島に在る。北極点からは1600キロ程も離れた地点だそうだ。だから方位磁石を頼りにドンドン北に行けば北極点ではなくバサースト島に行き着いてしまう。地磁気の軸の自転軸からのズレは、角度にして10.2度程になる。
地表面で測ったこのズレを偏角というが、日本付近ではこの偏角は西へ6~10度位にもなるのだ。この偏角も永年変化といってゆっくり変化する。

それだけではない。太陽の活動の影響で地球の磁場は時々刻々変化しているし、地下にある金属鉱脈などの影響を受けて、場所ごとにも一定していない。方位磁石の方は、小さくて軽い所為で近くに電気・電子製品があったりすると途端にその指す方向が大きくぶれてしまう。
もっと凄まじいのは、地球電磁石は時々N極とS極を逆転させてしまうということだ。
噴火して出てきた溶岩が冷えて固まる時に、その時の地球磁場の方向に従って岩石が磁化する。これはいわば地球磁場の化石だ。それを調べてみると、地球電磁石は過去数万年から数十万年ごとに、突然N極とS極をくるっと反転してきたことが分かっている。
そうなると、陰陽五行説による恵方や凶方などは一体どうなってしまうことか。
幸か不幸か歴史時代に入ってからはこんな事は起きていない。しかし、磁極反転の原因は未だはっきり解明されていないから、明日あたり磁極反転があるかもしれない。
・・・でも、少し考えてみれば、これは世界の磁石屋さんが大迷惑をこうむるだけで、方位学には影響はないかもしれない。

以前のこの稿にアナログ時計で方角を知る方法を書いた。その際に、人間が生きていく上ではそこそこの誤差など関係無いから、気にしないで大体のことさえ分かればいいのだと書いた。
結局方位磁石も同じなのだ。アウトドア用品店などに行くと、随分高級で「精密な」方位磁石を結構なお値段で売っているのを見かける。場所ごとの偏角の測定値は、毎年本になって出版されているが、そんなものを持ってハイキングに行かないし、第一ハイキングの最中に磁極反転が起こったらどうする?其処までの事はなくても、方位磁石の指す方向などは周囲に影響されがちで当てにはならない。

体が恵方にぴったり向くとその刹那、レーザービームのように良い運が体内に流れ込んで来るそうだ。だったら方位磁石で東から12.5度北へなどとやっているよりも、大まかに東の方角を向いたら、心を研ぎ澄ませてレーダーアンテナのように少しずつ体の向きを変えていけば良い。ある方角を向いたときに、ビビッと感じるものがあれば、それが恵方だ。
どうも、それが一番確かなようだ。
スーパーでおまけにもらった「恵方磁石」は結局、実用より話の種の為だった。

最後に、方位磁石についてのもう一つの余談。
磁極の偏角については上に書いたとおりだが、もう一つ伏角(俯角ともいう)というのもある。
磁針は磁極を指すのだから、方位磁石を持ってカナダの磁北極へ行ったらどうなるか。磁針は立ち上がってしまうだろう。逆に、磁極の中間点(「磁赤道」とでもいうべき場所)へ行けば、磁針は水平に寝て磁北極を指すだろう。
そうするとその中間地点ではどうなるか。北半球なら磁針は北方向に俯く事になる筈だ。この角度を伏角(俯角)といって、日本の京都辺りでのその値は約50度である。色々な細かい事をエイヤッと切り捨てた大まかな話である。

つまり方位磁石の磁針は斜め上下に傾いてしまう。それでは困るので、日本の方位磁石は南を指す方を少し重く作って、南北の磁針が水平になるようにしてあるそうだ。
これはつい最近知って感動した。

この伏角は「磁気緯度」によって異なるから、磁石屋さんでは何種類もの方位磁石を用意して、使われる土地々々で磁針がちゃんと水平になるようにしているのだそうだ。
今度磁気高緯度(低緯度でもいいけれど)の国に旅行することがあったら、その土地で売られている方位磁石を買ってきてコレクションにすると面白いと思う。






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最終更新日  2009.02.11 16:06:50
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