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マックの文弊録

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2009.05.20
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カテゴリ:小言こうべえ
◇ 5月20日(水曜日); 旧四月二十六日 乙丑(きのと うし): 大安

新型インフルエンザは既にわが国に上陸し、ヒトからヒトへの二次感染して兵庫県から大阪府に伝播し、つい最近滋賀県も犯した。関東地区ではこの文章を校正している今(木曜日)川崎と八王子に感染確認者が出たとの事だ。相手は電子顕微鏡レベルの小ささだ。必ず検疫や防疫ラインを突破してわが国でも流行を見るだろうとは、僕だけでなく大方の想像していたが、やはり、という感がある。今のところ関東地区での感染者は、渡航時にウィルスに感染したそうだから、まだこの地域ではヒトからヒトへの二次感染は見出されていない。

おかげでマスクはバカ売れだそうだ。僕自身も昨日処方薬を取りに行く友人に付き合って都内のドラッグストアに行った時に、マスクの棚がきれいに空っぽになっているのを目撃している。友人はその店の常連で、「×○さん、マスクいります?」と聞かれ、「いいえ。でも棚には無いよ。」と答えたら、「いや、このままだと完全に売切れてしまうので、お得意さんのために取って置いてあるんですよ。どうぞお持ちください。」と、無理やり一つ(5枚入りだそうだ)買わされたと苦笑していた。
この不況の中、マスクの製造販売業者には新型インフルエンザのわが国上陸は、まさに風邪ではなく神風の如きものだろう。ご同慶の至りというのは、余りに不謹慎ではあろうが、密かに神棚にお札を上げて感謝している業者もいるのではなかろうか。

今や日本中の注目の的になってしまった関西地区では、色々な催し物が中止の憂き目に会い、学校も休校になるなどして、街の雰囲気も良くないそうだ。毎年百万人ほどを集めて盛況な神戸祭りも急遽中止され、これを当て込んで屋台や出店の準備までしていた飲食店などは大打撃を被ったそうだ。日曜に全国に放映されている、「桂三枝の新婚さんいらっしゃい」という番組は、収録はするものの、収録会場へ来る客には全員にマスク着用を指示したのだそうだ。放映当日、カメラがパンして聴衆を映したら、さぞや異様な光景が出現するだろうと、何となく興味をそそられる。

僕は5月4日のブログ「新型インフルエンザとマスコミ」で長大な文章を書いた。その時に大いに批判したのは、これを筋道立てて報道しない、一般の人々を啓蒙とは言わないまでも啓発すらしようとしないマスコミの姿勢であった。この点は未だに変わっていない。

それで、ここで改めてこの新型インフルエンザについて書いてみようと思う。
無論医者でも医学者でも無い僕は素人であるけれど、しかるべき素材を与えられ(僕の場合は書物だったが)筋道立てて考える姿勢を持てば、個人として今の事態にどう対応すべきかについてヒントになるし、心の持ち様も変わる。そういう点で報道機関が相変わらず手抜きをしている以上、僅少な読者しかないこのブログであるとはいえ、いささかの役に立つかもしれないと思うからである。

5月4日のブログと重複するところもあるが、おさらいも兼ねて敢えて気にせず書いてみる。繰返しだが、これは僕が知り得た(ソースは全て信頼できるものだが)範囲の、背景知識として共有して無駄が無い(筈の)ものであり、自ずとその詳細さや範囲には限界もある。これによって何らかの行動を読者に示唆或いは教唆するものではないのは当たり前である。

● 先ずインフルエンザは三つの型に分類され、今回の新型インフルエンザはA型とされている。これは、季節性流行の原因ともなるが、周期的にパンデミックを起こす型である。B型は季節性流行を、C型は軽い風邪症状を起こすインフルエンザの事だ。

● 今回の新型ウィルスはH1N1型と云われている。このHとかNとか云うのは、ウィルスの表皮に存在するHAタンパク、NAタンパクの事で、HAタンパクには1~16の種類(サブタイプ)が、NAタンパクには1~9と9種類のサブタイプが存在する事が確認されている。HAもNAもそのウィルスの抗原性を規定する。抗原性というのは感染対象を選ぶ性質の事であり、例えばH1N1に対する抗体を持っている人にはこの型のウィルスは感染しない。
● 水鳥にはH16種、N9種全てのサブタイプが存在している事が確認されている。つまり水鳥には理論上144種類のインフルエンザウィルスを持っている。しかし、水鳥がインフルエンザで絶滅してしまわないのは、水鳥とインフルエンザウィルスの間には何らかの共生関係が維持されてきている所為だと考えられている。ウィルスとしては宿主(水鳥)を全滅させてしまっては自らも滅亡してしまい、元も子もないからだ。又トリ型インフルエンザウィルスは、以下に述べる感染のプロセスに必要な蛋白質同士の相性がヒトとの間では悪い所為で、ヒトには感染しないか、感染しにくいとされている。だから近くに水鳥が泳いでいても恐れる必要はさらさら無い。

● インフルエンザウィルスの感染は以下の段階を経て起こる。(1)先ずウィルスの対象細胞への進入、(2)進入したウィルスの細胞核への取り込み、(3)核内でのウィルス遺伝子の転写・複製、(4)複製ウィルス遺伝子の細胞外への遊離放出。この過程(4)以後(1)に戻り、これが繰返されると、罹患者は発病しウィルスの伝播者にもなるのだ。この患者が生き延びて平癒すると体内にはウィルスは無くなると共に、その(今回の場合H1N1型)ウィルスに対する抗体が形成される。従って同じ人が同じ型のウィルスに再度感染することはない。
● 上の(1)、つまりウィルスの細胞への進入段階で活動するのがHAタンパクである。ウィルスに触れた細胞はウィルスの吸着を阻止しようとするが、HAタンパクはこの抗体を中和し無力にする中和抗体の生産を促す働きを持っている。
● (2)の前提となる進入ウィルスの細胞内放出に際してもHAタンパクが活動する。進入ウィルスが細胞内に放出され(3)の細胞核に取り込まれるためには、細胞自身に存在するタンパク質分解酵素の働きが必要になるが、その際にこのタンパク質分解酵素とHAタンパクとの相性というものが影響する。HAタンパクは、相手がヒトの場合気道上皮細胞(要するに喉の粘膜のこと)に含まれている蛋白質分解酵素との相性が良い。この結果、ウィルスの遺伝子は細胞の核内に入り込む事ができる。だから、インフルエンザの症状としては喉の痛みや炎症、咳が普通に見られるのである。
● 少し細かくなるが、HAタンパクのアミノ酸にアルギニン(アミノ酸の一種)の繰返し配列が有ると、喉の粘膜だけでなく体の他の部位にある細胞に普通に存在しているタンパク質分解酵素の相性も良くなってしまう。こうなると感染細胞は一挙に増えてしまう。(強毒性ウィルス)
● (3)のウィルス遺伝子の転写複製の際には、ウィルス遺伝子の本体がRNAである所為で、「誤まり修正」の機構が働かない。これがウィルスが変異し新型ウィルスとなって出現する原動力となっている。
● (4)細胞外への子孫ウィルスの遊離放出にさいして働くのがNAタンパクである。NAタンパクは子孫ウィルスの細胞外放出を促進する。このNAタンパクの働きを妨害するのが抗ウィルス剤タミフルやリレンザである。つまり、タミフルもリレンザもウィルスを殺すのではなく、いわば細胞内に入り込んだ暴漢を封じ込めて外に出られなくするわけだ。

● ところでA型ウィルスは動物にもヒトにも感染する。ウィルス保有者の水鳥のほかには、ブタ、アザラシ、トラ、クジラなどがA型ウィルスに感染する。上に述べたように蛋白質同士の相性が有ってヒトとトリ、更にはアザラシ、トラ、クジラの相互間に無差別感染が起こるわけでは無い。しかしこの中でもブタはトリ型とヒト型のウィルスの両方に感受性を持っている、つまり感染する。つまりブタが両方のウィルスに感染した場合、ここでHAとNAタンパクにシャッフルが起こって抗原性が変化し、トリインフルエンザ由来のウィルスがヒトにも感染する能力を獲得する事がある。これを言い換えると、トリとヒトとブタが日常的に接する機会が多い環境では、新型インフルエンザが発生する可能性が高いということになる。つまり地域としてはアジアが新型インフルエンザの発生源となる事が多い。別の味方をすれば、これらが相互に近接して或いは入り混じって生活する所謂開発途上国が発生源になる可能性が高いということだ。今回の場合発生源はメキシコであるが、これは後者の事例に相当するといえるだろう。大元はメキシコの貧困地帯に発生したそうだが、お金がかかるため、体調不良を覚えても医者にかからず我慢してしまう人が多かった事も大量罹患の原因になったとも云われている。
● 有効な対抗策は、人間の移動や集合する機会を減らす事、又個々人としてはマスクの装着やうがい、手洗いの励行などである事はご存知の通りだが、もう一つはタミフルのような抗ウィルス剤を備蓄し、いざとなった場合には、国境を超えてこれらの薬剤を速やかに移送配布するロジスティクシステムの必要が生じる。この点では国際間の協力体制の確立が重要なポイントになる。
● 上述のようにHAタンパク内のアルギニン配列により、ウィルスの毒性が左右される。弱毒性の場合感染部位は喉の粘膜に限定されるが、強毒性の場合だとそれ以外の細胞にもウィルスは感染する。その結果、肺炎だけでなく心筋炎、脳炎、激しい下痢などの症状を起こすようになり、最後は出血を伴う多臓器不全にまでいたってしまう。今回発生初期の段階で患者の一部に下痢症状が見られたというので、専門家などが緊張したのはこのためだったのだ。
● 幸いにして今回のものを含め過去流行したインフルエンザは全て弱毒性であった。強毒性を示すHAタンパクのサブタイプはH5、H7だそうだが、そういう意味では今回がH1N1というサブタイプであったのは不幸中の幸いであった。
● 1997年以降アジア各地で蔓延が警戒されているトリインフルエンザはH5N1というサブタイプのウィルスによって引き起こされる。現在の新型ウィルスH1N1の流行がトリインフルエンザの流行地であるアジアに波及したらどうなるか?理屈で考えれば、H1N1とH5N1のシャッフリングでは、この2種類以外のウィルスは出来ない。従って若しそういうことが起こっても、現在の新型インフルエンザに対する対策をしっかりしておけば、両タイプのインフルエンザの混在によって新たに深刻な危機が生じる事はないといえるはずだ。しかし、新型インフルエンザのアジア開発途上国への流行拡大は大いに考えられる事なので、この辺に関する専門家や研究者の見解は是非にも聞いておきたいと思う。

最後に、ウィルスによる感染症は完全に防御する事はできない。(但しウィルス自体も世代を経るに連れ変化適応していくので、長期的には特定のウィルス感染症は根絶する事が出来る。)従って水鳥のように(とまでは云わないが)ウィルスとヒトとの共生を実現できれば、それにこした事はないといえる。具体的にはインフルエンザウィルスの毒性を全て弱毒性にする事ができれば、甚大な被害を被る恐れはなくなる(少なくとも非常に少なく出来る)訳だから、何とか折り合っていけるのではないか?こういう分野での研究はなされているのか、進んでいるのか、これは先行きの事を考えれば是非知っておきたいところだ。

更には、今回の発端にも見られるように、ウィルス感染は先進国より開発途上国に、富裕層より貧困層により大きな被害をもたらす。これを解決するためには、先進国と途上国間のエゴを越えた利害調整や、貧富の格差の解消が必要になるわけだが、これはインフルエンザ以前から世界中の多くの心ある人の宿願であっても、まだまだその糸口は見えそうにない。しかし、問題の根源はそういうところにもあるのだということは、常に忘れないようにしたいものである。






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最終更新日  2009.05.21 20:36:26
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