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マックの文弊録

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2009.06.16
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カテゴリ:よもやま話
◇ 6月16日(火曜日); 旧五月二十四日 壬辰(みずのえ たつ): 仏滅、下弦の月

電車の天井からぶら下がっている吊り広告に、「西武鉄道、社会人社員募集」というのがあった。募集職種は「駅係員」、「車掌」、「運転士」とある。この三つが順に矢印で結ばれているので、最初は駅係員で採用されても、順に車掌、運転士とキャリパスが用意されているらしい。
電車の運転士といえば男の子だったら一度は憧れた職業だ。大抵の男の子は、「宇宙飛行士」、「飛行機のパイロット」、そして「汽車や電車の運転士」になってみたいと思う頃が有る。小さい頃は宇宙飛行士で、大きくなるにつれてパイロットから運転士へと「小ぶりの夢」に進む。子供でも段々現実に目覚めてくるのかもしれない。
そして結局大半の男の子はごく普通のサラリーマンとして社会の中に自分の居所を見つける。

阿川大樹という小説家がいる。どれほどの人気作家かは良く知らない。しかし、僕は彼の子供時代を知っている。彼が小学校高学年時代、家が隣同士だったのだ。僕が中学から高校時代の頃だ。大樹氏のお母さんによれば僕は彼を科学の分野で薫陶してあげたそうだ。確かに、夏になると蝉取りや虫取りに連れ回したり、天体観測に誘ったり、星座や宇宙の話をしたりした記憶がある。しかし、それは薫陶というようなものではなく、僕にすれば単に年下の遊び相手の感覚だった。

彼はその後東京に戻り、最高学府の基礎科学科を出てIT分野の会社に勤めたが、その後転進して小説家としての道を歩んでいる。代表作は「覇権の標的」という経済小説で、これは教えられて僕も出版と同時に買って読んだ。

その阿川大樹著の「D列車で行こう」(2007年徳間書店)である。DはドリームのDだ。
日本の片田舎に国に見捨てられた鉄道がある。地方自治体が運営しているがご他聞に漏れず赤字経営で三年後には廃止される運命にある。そこで出会った男二人がこの鉄道の再建にチャレンジしようと思い立つのである。

一人は理科系出身ながら、当時の恋人との生活のためと割り切って銀行に勤め、ある程度の地位までは登り詰めたものの、定年予備軍の一人として、個人向け債権回収会社の役員に転出が決まっている。もう一人は建設省が国土交通省に統合される際にリストラされた元高級官僚。彼は役所を出された後天下りを繰返し、数年間に天下り先の会社の退職金で一財産作ったのだが、そんな生活が馬鹿馬鹿しくなって辞めた、いうならば悠々自適の身だ。妻を亡くし今は鉄道写真に凝っている、暇人の小金持ちだ。

その二人に30歳代の女性が参加する。この女性は元銀行マンの支店長時代の部下で、夜学でMBAを取得した才媛だが、男社会の銀行の世界に嫌気がさして、二人の中年男の夢に合流してしまう。

要するに、「夢」に飢えた団塊の世代の男二人とキャリアウーマンの三人組が、「ただの田舎」にある廃線間近の鉄道にほれ込んでしまい、その事業の再建にチャレンジするという話なのだ。

この鉄道会社は既に合理化によってコストを限界にまで切り詰めてしまっているので、再建のためには収入を増やすしかない。しかし何しろ沿線は「ただの田舎」で観光客を呼べるような名所もないし温泉も出ない。定番の「うらぶれテーマパーク」もない。沿線の住民は車の普及で鉄道離れが進み、乗客は年寄りか中高生ばかりだ。おまけに経営母体の町も既に議会で廃線を決めてしまっているので、鉄道の存続には腰が引けている。

しかし、オジサンたちはめげない。ウェブを利用したロングテール・マーケティングの手法を駆使して、あの手この手のアイデアで仕掛けをする。
沿線の小学校で絵画コンクールを催し、入賞作品を駅舎に展示して、作者の生徒だけではなく親や親類も乗客にしようとする。
模型作りの感覚でログハウスを建てられ、お手軽な別荘感覚を味わえる施設を作って「週末田舎人願望」を乗客として招致しようとする。
楽器メーカーをスポンサーにして何でもありの音楽祭を開催する。
芸大の学生のために沿線に巨大キャンバスを用意して「沿線名所」を創出する。

これらのアイデアに共通するのは、「人の褌で相撲をとる」という、徹底した低コストと省力の思想だ。それに鉄道を移動するための「手段」としてではなく、電車に乗る事自体を楽しい「目的」にしてしまうという事だ。
三人でアイデアを出し、オジサン二人が営業や渉外を、MBAウーマンが理論武装と計画化を担当する。

そして究極の活性化手段は、誰もが子供時代に憧れた「本物の電車を運転する」という夢を叶えるということなのだ。定年退職したオジサン(つまり団塊の世代だ)には随分魅力的な企画で、運転士候補の応募はすぐにあったし、ちゃんとした正規の訓練や研修も始まる。しかしこの企画の実現までには役所の規制や町の動きが鈍いなど色々な障害があって、それらを乗り越えながら物語は大団円に向かうのだ。

団塊の世代の資産総額は85兆円と云われる。この世代は言い換えれば「こだわり」の世代である。つまり、キャベツや発泡酒を買うのには10円でも惜しむ代わりに、自分の好きなもの、趣味の分野にはこだわりを持って結構な投資をする。
狭山湖周辺のオオタカ観察家のオジサンたちは、百万円近い望遠レンズを搭載した、これも数十万はする高級デジカメで放列を敷いているし、僕の友人にもオーディオシステムに数百万円もの投資をして悦に入っているのが幾人かいる。
自分史や小説・随筆集を自費出版すると、やはり2~3百万円はかかるそうだが、これが大流行で出版社の美味しいビジネスになっているそうだ。
オジサンがマニアックなスポーツカーを買って走り回るのも同じだ。

その85兆円を掬い上げるのは、在来型の巨大ビジネスではない。やはりロングテールビジネス、つまりは「団塊世代のオタク」をターゲットにしたビジネスだ。それを実現できるのはインターネットだ。そう考えるとアイデアと企画次第で僕にも出来るように思える。

作家阿川大樹氏の意図とはいささか異なるような気がするけれど、僕はこの物語を読んで触発され随分勇気付けられた。

さて、そういう本を読んだ後で西武鉄道の吊り広告を目にしたので、「おぉ西武も中々やるじゃないの!」と思ったのだ。「ひょっとして、西武の人事担当はあの本を読んだのかな?」とすら思った。
「これってあの本のパクリじゃないか?」と、そう思いながらもちょっとウキウキした。
しかし、良く見てみると募集対象は30歳くらいまでとあって、定年後の団塊世代は対象になっていないのだ。
まぁ、世の中は実際にはそんなものだ。






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最終更新日  2009.06.17 12:33:31
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