カテゴリ:小言こうべえ
◇ 7月18日(土曜日) 旧五月二十六日 甲子(きのえ ね) 赤口
最近のコンビニでは凍らせた水やお茶、それにジュースなどを売るようになった。冷凍用に開発したボトルを使っている為、普通のお茶などより値段は10円程高い。去年は無かったような気がするから、今年の夏からの新製品だろうが、全国ではどうなのだろう。 猛暑が続くようになると熱中症の危険が取り沙汰され、とにかくこまめに水分を摂るようにと云われる。だから最近は水やお茶のペットボトルを持ち歩いている人を多く見かける。この暑さの中で直ぐにぬるま湯になってしまうが、その点中身が凍っていると融けきるまでは摂氏0度が保たれるわけだから中々重宝する。但しボトルの表面にはどんどん水滴が付くから、電車の網棚に乗せていたりすると、下に座っている人に滴が落ちて迷惑をかけてしまう。凍結ペットボトルを買うときには必ず一緒に袋も貰って、その袋に入れておく必要がある。 さて、先日電車の中でこの凍結ペットボトルをとつおいつ眺めていて気がついた。 とにかく細かい字で一杯注意が書いてあるのだ。メガネを外して眼を凝らして読んでいると、「何でこんな事まで書かなきゃならんのだ!」と思うような内容だ。 そこで此処にボトルの側面の写真を掲げ、文章を採録して例によってチャチを入れてみる。 尚、此処で取り上げるのは伊藤園と云うところの凍結ペットボトルの例である。 先ず最初に、枠の中に『伊藤園が独自に開発した冷凍保存できる製品です。』とある。これは出自を表す文言だから宜しい。流石にこの部分は3ミリ角程度の大きい字だ。 その下に今度は1.5ミリ角の字で、『一般的なボトルの製品は、冷凍しないで下さい。ラベルが破損したり、容器が変形したりする恐れがあります。』とある。しかし、伊藤園は何故この場で「一般的なボトル」の事まで心配してくださるのだろうか?ご親切なことだが、余計なお世話だ。 更に、黄色の帯を背景に2.5ミリ角の太字枠入りで、『ご家庭で凍らせる時の「注意点」』とあって、その下に箇条書きで『(1)事前に冷蔵してください。(2)ボトルを立てた状態で凍らせてください。横倒しでの冷凍禁止。(3)冷気の吹き出し口から離してください。』とあり、その下に今度は1ミリ角の小さな字で『1度に大量の常温製品を冷凍庫にいれると、他の冷凍製品が溶け出す恐れがあります。事前に冷蔵してから冷凍してください。』と書いてある。 事前の冷蔵は冷凍庫の負荷を低くするためだ。 ボトルを寝かせて凍らせると飲み口ギリギリまで凍ってしまい、中々飲めなかったり、溶けた液が飲み口から溢れたりする。それを心配してくれているのだ。 冷気の吹き出し口から離せというのは、急速に冷却すると凍結が不均等になり、飲みにくかったり容器が変形したりするのを慮っての事だろう。 そして最後の「大量の常温製品を・・・」は常識として当たり前の事だし、(1)の理由でもある。 それに何より、後段で『再冷凍はしないで下さい!』と書いてあるのだ。再冷凍してはいけないのなら、ここに書いてあるように『ご家庭で再凍結』する事など起こりえないだろうが。 その下の型通りの法定記述の下に、青地に白抜きの2ミリ角の文字で6行にわたって書いてある。 『▽開栓後はすぐにお飲みください。』 中身がガチガチに凍っているのに、直ぐには飲めないでしょう? 『▽再凍結はしないで下さい。』 だったら「ご家庭で再凍結する場合・・・」なんて書かなきゃいい! 『▽一度開栓した商品は再栓後、長時間経過しますと、まれにキャップが飛んだり、容器が破損する事があります。』 これは中身がお茶や水の場合は物理的に理解しにくい。よほど長時間が経過して、ボトルの中の空気が膨張する場合の事を言っているのだろうか? 凍結用のボトルに共通する形状はボディーに波型に緩やかな螺旋があることと、ボトルの肉厚が普通のものよりやや厚めだということだ。これは凍結時の体積膨張に対応の際、変形を目だたなくするためと、膨張による内圧に耐えられるためだろう。ならば、中身が高温になって沸騰でもしない限り、キャップが飛んだり容器が破損する事はありえないと思えるが? それに「まれに」とは、具体的にどれほどの頻度なのだろうか?何より「そういうことがあります」からどうしろというのだろう?それとも、こう書いておけば免責になるという考えなのだろうか? キャップが飛んだり容器が破損したりすれば、場所や状況によっては悲惨な事になりかねない。こういう部分こそちゃんと具体的且つ科学的に記述すべきだろう。 『▽冷凍するときは容器を横置きにしないで下さい。』 これは前にも出てきた。それにくどいが「再凍結はするな」とも前に書いてある。それとも逆に、このメーカーはむしろ再凍結させたいのだろうか? 『▽解凍時、容器に水滴が付きますので、水濡れにご注意ください。』 はいはい、ご親切様。 更にその下に、今度は赤い背景に白抜きの同じ大きさの字で3行。 『▽冷凍状態により、解凍した際にキャップから液漏れすることがありますので、ご注意ください。』 これは開栓前のことを云っているのだろうか?若しそうなら「独自に新開発した」ボトルは欠陥商品と云うことにならないか?キャップから液漏れがするということは、開栓前に外部とボトル内部との間に物質の往来があるということだ。つまりは「ボトル内に細菌などが入り込む事がありますので、ご注意ください」という事にはなる。だからこの部分、わざわざ赤い地に白抜きの文字で目立つように書いてあるのだろうか? 『▽開栓時の液こぼれにご注意ください。』 これは、久しぶりに妥当な注意だな。 つまり、これまでで役に立つ(意味のある)注意事項は、これと『▽解凍時、容器に水滴が付きますので、水濡れにご注意ください。』の二つだけだ。 更にさらに、その下、ボトルの下端近くまで9行にわたって続く。今度は1ミリ角の小さな字である。 『●冷凍させる(「冷凍する」のではなく「冷凍させる」というのが独特の表現だな。何だか中身が凍るのを嫌がっているようだ。)と容器が膨張する場合がありますが、品質には全く問題ありません。●落下などの強い衝撃を与えないでください。容器やキャップが破損する可能性があります。●溶け具合により、風味、液色に差が生じる場合があります。また、成分が浮遊、沈殿する場合がありますが、品質には全く問題ありません。●飲用後の容器は再度、使用しないでください。▽内容液が膨張し、容器が破損する場合がありますので、ボトルのまま温めないでください。●ボトルを捨てる際には、キャップを外してください。●容器の散乱防止・リサイクルにご協力ください。』 やっとこれで「注意書き」は終わる。いやはや。 序でに、『この注意書きをお読みになると眼が疲れてしまうことが有ります。眼の疲れは人によっては頭痛肩凝りの原因になることがあります。頭痛や肩凝りは思わぬ重病、まれに死に至る病の原因や引き金になる場合がありますのでご注意ください。』と書いてあれば完璧だろう。 或いは、逆に全部を1ミリ角以下の文字にして、最後に大きい字で『色々書きましたが、これらに該当する事があっても予め警告しておいたのですから、私どもは知りません。』と本音を書いておくほうが良い。 昔々アメリカで、風呂に入れた猫を電子レンジに入れて死なせてしまったのをメーカーの責任だとして訴えたという話を聞いたのを思い出した。「だって、メーカーの注意書きには、電子レンジに猫を入れて乾かそうとしてはいけないとは書いてなかった。」というのが訴えの根拠だという。 まさか、この裁判で原告が勝訴したとは思わないが、これが日本だったらメーカーは手土産やお詫び金を持って、そのバカに謝りに行くのではなかろうかと思った。 たかが清涼飲料ではないか。 されど清涼飲料であるというのなら、『お買いになったら、余計なことをしないでそのままお飲みなさい。当社は製品には責任を負いますが、後はあなたの常識です。余計な事をして何が起ころうとも当社の知った事ではありません。』で良いではないか。 先の電子レンジの場合には、『電子レンジはマイクロウェーブという2.45ギガヘルツの電波を使い、水分子を興奮(共振、励起)させる事で、加熱をする機器です。この作用は、食品に限らずあらゆる水分子を含むものに同様に働きますので、充分にご注意ください。後は使用者の常識と責任に任せ、当社は知りません。』と原理的な部分を説明すれば良い。もう少し丁寧にすれば、『同じ周波数帯の電波を使う機器は、近くに設置してある場合には障害を受けます。』(後は自分で考えろ、という気持ち)と付記しておけばいい。 そうでないと、今度は犬を入れて、「犬を入れるなとは書いてない!」と訴えるのが出て来る。そうなると電子レンジメーカーの取扱説明書は、全世界に生息する「電子レンジに入り得る」生き物の百科事典の如きものになるだろう。一つでも漏れた生き物があったりすると、例えばアルマジロなんかを電子レンジに入れて訴えてくるヤツが居るかもしれないからだ。 つまりは凍結ボトルの注意書きはそういうことだ。さらに言えば今回の場合、消費者を子供以下のバカ者で、クレーマー予備軍と見ているフシすら感じられる。 人を馬鹿にしたような余計な事をぐちゃぐちゃ書くのではなく、「こうすれば美味しくいただけますよ」で良い。後は消費者の判断だ。そのためには、情緒的でない多少具体的、科学的な記述を簡潔明瞭に書いておけば良い。 日本語での「賞味期限」は、英語では「Best before (日付) 」と書いてある。もっといたみ易い食品には、日本では「消費期限」が定められるが、英語では「Use by (日付)」と書く。 見よ、日本語では明らかに上意下達の意味が強いが、英語では消費者の自己判断・責任が問われているではないか。 先ず客観的具体的な情報を可能な限り明瞭に与える。そして後はユーザーの判断力、思考力、力量、そして常識に委ねる。何事によらず、わが国ではこの当たり前といえる辺りが、メーカー側とユーザー側の双方において、最近特に歪んできているように思う。 今回の北海道は大雪山系トムラウシ山での遭難事故で、「装備が不充分だった」として、このツァーを企画した旅行社に捜索が入ったそうだ。旅行社の社長は「耐寒装備の必要性は今回の資料に明記してある」と云っているそうだ。 問題は、そう書いてあるとはいえ、ツァーの参加者全員がその通りに耐寒装備を用意したわけではないという事だ。「資料に書いてある」事でこの点での免責を言いたい旅行社と、恐らくは「読んだけど、これ程とは思わなかった」とタカを括った参加者。 この辺も同根であろうと思う。 ただ、相手が飲み物ではなく大自然であった。自然は人間の浅慮や油断には容赦などしない。そのため、多くの人の死に繋がってしまった。この件は今後どう推移していくのだろうか?見守りたいと思う。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2009.07.19 18:22:39
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