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マックの文弊録

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2009.08.08
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カテゴリ:よもやま話

◇ 8月8日(土曜日) 旧六月十八日 乙酉(きのと とり) 大安:
其の二

閑話休題:
巨大隕石の衝突松井孝典という惑星物理学者の書いた、「巨大隕石の衝突 - 地球大異変の歴史を読み解く - 」という本(PHP新書1998年)を読んだ。
隕石を古文書(これは「コブンショ」ではなく、「コモンジョ」と読んでくださいね)と看做し、これを用いて太陽系の起源や生命の起源を解明していく方法や実際の過程が記述される。クライマックスは当然6500万年前といわれる、恐竜の絶滅だ。
よく言われるように、恐竜は隕石の衝突によって一瞬にして絶滅してしまったのではない。大多数が隕石衝突による直接の大災害で滅亡したのは確かだ。しかし、隕石衝突の結果による地球環境の大変動の影響を受けて十万年位の時間をかけてじわじわと滅んでいったものも多く居たらしい。

それに関連して、この本では現代の環境問題にも触れられる。
人類は巨大隕石が引き起こしたと同じ地球環境の擾乱、或いは地球システムの擾乱を、自らの手で引き起こしつつある。特にそれが加速度的になったのは、せいぜいここ二三十年の事だ。
恐竜が地球の王者として君臨した時間は1億8千万年。人間が地球に出現したのは約440万年前。今までの種としての存続時間は、恐竜のそれと較べれば、せいぜい2.4%、つまり40分の1弱の長さだ。
そして、人類が地球の王者として決定的な歩みを始めたのは、高々一万年前。つまり、それまでの自然と調和的な狩猟・採集生活に訣別して、農耕・牧畜生活を始めた頃のことだ。
この高々一万年の歴史を経て、今では巨大隕石のもたらしたものに匹敵する擾乱を、地球全体に及ぼすような存在になってしまった。
これはとても「地球の覇者」として誇れるものどころではありませんな。

この本はもう初版から10年以上経っているけれど、内容は全然古びてはいない。



この本に続けて、井坂幸太郎の「終末のフール」(集英社文庫2009年)を読んだ。
終末のフール
何と、これも隕石衝突の話だった。
8年後に小惑星が地球に衝突すると予告される。

直径10キロの小惑星が秒速20キロの速度で地球に衝突する。それによって地球は滅亡するというのだ。この発表が世界中になされたのが8月15日。その日から約5年経った、日本の仙台地方を舞台にした十話である。

地球全体規模の破局が避けられないものとして発表された直後は、大パニックになった。その後絶望と自暴自棄が世界中に蔓延し、治安やモラルは消滅し、殺人や強奪、破壊行為が世界中に横行した。標高の高いところへ逃げれば助かるとか、何処かが方舟を用意しており、それに乗せるメンバーを選抜しているとかいったデマも飛び交い、人々はその度に右往左往した。家族や親類、友人、恋人もあるものは自殺し、あるものは殺され、あるものは行方知らずになった。

そういう時代が数年続き、この本の舞台になった時期はやや落ち着いた雰囲気になってきた。政府も、野心のあった政治家(つまり、今街頭やテレビで盛んに口角泡を飛ばしている方々ですな)はとっくに居なくなり、少数の篤志家、実務家によって少しずつ機能している。ガスや水道もどうしてだか供給されるようになり始めた。うるさいマスコミもどこかへ消えてしまったが、時々テレビも偶然映ったりもする。色々な店や病院も大半は無くなってしまったが、何となく残っているところもある。

仙台も多くの人が何処かへ行ってしまい、閑散としている。残っている人達は色々な意味で「今」を受け入れようとしている。しかし、その誰もが心の奥底に大きなストレスを沈潜させている。

その中で、誰かは恋人を作ろうとし、誰かは昔の恨みを晴らそうとし、誰かは子供を産もうとし、誰かは淡々とトレーニングを続ける。

オーデュボンの祈り井坂幸太郎という人の文章は、柔らかく澄んでいる。予定されたカタストロフィーが着々と近づいてくる中で、少数の人々の生活に着目しての描写は、所謂パニック本にはない力がある。
この本は、彼の処女作である「オーデュボンの祈り」に近い雰囲気を持っている。

この本で想定されている、直径約10キロメートル程度の小惑星と云うのは、恐竜絶滅の発端になった小惑星と同じ大きさだ。
松井孝典さんの「巨大隕石の衝突」によれば、6500万年前の小惑星衝突の時も、衝突速度は秒速20キロメートルと推定される。衝突の衝撃によって出来たクレーターの直径は約180から300キロメートルと見積もられ、現在では中米のユカタン半島にその痕跡が見つかっている。

衝突エネルギーはTNT爆薬に換算して約1億メガトン。衝撃波は秒速70メートルの暴風として半径千キロメートルに及ぶ。地震エネルギーはマグニチュード換算でM12~M13。阪神淡路大震災はM7.2だったから、如何に凄まじいかが分かる。
小惑星が海に落ちる場合には、それによる津波の高さは1キロメートルにもなり、高地に逃げるにしても高山地帯に行かないとまず助からない。これらは衝突直後の大災害である。
もっと深刻なのは衝突による空中への噴出物で、この総量は約1600兆トン。これだけの量の岩屑やガスが対流圏のみならず成層圏にまで吹き上がり、その後長期間に渡って日照を遮る事になる。だから、我々人間を含めて、生きとし生けるものの食物連鎖の要である植物は、光合成を行うことが出来ず枯死してしまう。海も酸性化し無酸素化してしまう。

この程度の大きさの小惑星が地球に衝突する確率は、現在約3千万年一回と計算されている。そうすると「この前」が約6500万年前だから、もうそろそろ・・・・・

現在では、地球付近や地球の公転軌道の内側にまで入り込む小惑星数百個が追跡されていると聞いている。そうなると、8年も前に予告することは先ず難しいだろうが(小惑星は地球などより遥かに小さいので、ちょっとした偶発的な理由でその軌道は変化することが有り得る)、少なくとも事前には地球への衝突を知ることが出来る。でも、知っても今の科学技術では何も出来ない。

松井さんは、地球周囲の軌道上に大きな凹面鏡を幾つも打ち上げて、衝突軌道にある小惑星に太陽光を集中させる可能性をおっしゃっている。これによって小惑星は破壊できないが、その一部を太陽熱で蒸発させることが出来る。そうすると、蒸発する部分がロケットのようにジェット噴射するから、その反動で小惑星の軌道を衝突軌道からずらすことが出来るのだ。
しかし、この鏡は地球に向ければ兵器にもなる。宇宙空間に兵器を持ち込むことは国際条約で禁止されているから、今の段階では空想物語でしかない。
それに、世界不況の最中では、いざとなっても巨大な鏡を幾つも宇宙に打ち上げるカネは出るだろうか?

そうなると、小惑星が衝突することは精確に分かっていながら、何も出来なくて「ただ待つ」事を強いられることになる。それはイヤだなぁ。
恐竜にとっては世界の終末と自分の死は、突然にやって来たのだ。その点、未だ恐竜は幸せだったといえるのではないか。

などと考えるとコワイ話だ。
僕がこの二冊の本を前後して読んだのは、意図しての事ではない。全くの偶然であった。

でも「巨大隕石の衝突」を読んで、それから「終末のフール」を読むと、又一味違ったコワサを味わえますよ。夏休みには相応しいかもしれません。生徒さんたちには、読書感想文の宿題にも使えるかもしれません。何しろ上手く組み立てれば、「環境問題」、「危機を前にしての人間」、「これからどう生き何をすべきか」など、コンテンポラリーなテーマを網羅できそうだから・・・
この二冊お勧めします。






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最終更新日  2009.08.09 13:59:57
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