カテゴリ:日ノ本は言霊の幸はう国
◇ 9月19日(土曜日) その二
「身近な連休の過ごし方 - 首都圏編」の第二弾としてもう一つご紹介する。 それは、埼玉県日高市高麗にある巾着田である。 「高麗」は此処では「こうらい」ではなく「こま」と読み、「巾着田」も「きんちゃくでん」ではなく「きんちゃくだ」と読む。 この辺りは高句麗からの渡来人が多く移り住んだ場所である。 高句麗(こうくり)とは、昔の満州南部=中国東北部から朝鮮半島の大部分を領土として、紀元前37年から7世紀末までに栄えた国で、日本語では「こま」と発音した。高麗と書いて「こま」と読むのはその所為だ。 巾着田は地元では川原田と呼ばれている。この付近で高麗川(これも「こまがわ」と読む)は大きく湾曲して袋状の土地を成している。8世紀にこの付近に移り住んだ高句麗からの渡来人が、この地を開墾して田を作り、稲作を伝えたと言われている。土地の形は高麗川を輪郭として、口を縛った巾着の形に似ているので、巾着田と呼びならわされている。 丁度今の時期、巾着田では高麗川の屈曲部に沿って一面にヒガンバナが咲き乱れる。 ヒガンバナは球根性植物で、全草有毒である。日本には、中国か朝鮮半島からの稲作の伝来時に土と共に鱗茎が混入してきて広まった帰化植物といわれている。そうなると、巾着田のヒガンバナも高句麗からの伝来を起源とするのかもしれない。モグラなどによる作物の食害を防ぐために植えられたのが、高麗川の氾濫などによってこの辺一帯に広まったのかもしれない。 ヒガンバナは日本中で道端などに群生し、9月中旬、特に秋分の頃に赤い花をつける。 夏の終わりから秋の初めにかけて、高さ30~50cmの花茎が葉のない状態で地上に突出し、その先端に5~7個前後の花がつく。開花後暫くすると、長さ30~50cmの線形の細い葉をロゼット状に出す。 巾着田ではヒガンバナはニセアカシアの林の中に下草のように群生するが、秋になってニセアカシアが葉を落とすと林床にまで太陽の光が射し込むようになり、この陽光によって光合成を行い栄養を蓄える。 翌春になると葉は枯れてしまい、秋が近づくまで地表には何も生えてこない。開花期には葉がなく、葉があるときは花がない。 稀に白い花を咲かせる種類もあり、また鍾馗水仙(ショウキズイセン)という黄色の変種も存在する。白い花は巾着田にもところどころに見られるが、黄色い花は今回近くの家の庭で見つけることが出来た。(高麗小学校近くの民家) 「ヒガンバナには毒がある」とはよく知られている。全草有毒な多年生の球根性植物で、特に鱗茎にはアルカロイド(リコリン)が多く含まれている。誤って口に入れると、吐き気や下痢、ひどい場合には中枢神経の麻痺を起こして死にいたるというから恐ろしい。 一方で鱗茎は澱粉に富んでいる。有毒成分であるリコリンは水溶性であるため長時間水に晒せば無害化することが可能であるため、太平洋戦争のさなかには救飢植物として食用とされた事もあるそうだ。又鱗茎には利尿や去痰作用があり、無毒化されて生薬としても利用されるそうだ。 ヒガンバナの別名曼珠沙華は、法華経などの仏典に由来する。この花には異名が多く、死人花、地獄花、幽霊花、剃刀花、狐花、捨子花、更には「歯っ欠け婆ぁ」とまで呼ばれて、日本では不吉であると忌み嫌われることもある。おそらく国内で、最もたくさんの名を持つ植物であろう。花言葉も「情熱」「悲しい思い出」「あきらめ」などとあるかと思えば、一方では「独立」「再会」などと云うのもあってどうも統一性がない。 さて、巾着田には車で行く方法も勿論あるが、この連休中は先ず間違いなく国道が大いに渋滞するため、できれば電車を使って訪れてみる事を僕としてはお勧めする。最寄り駅はJR八高線の高麗川駅、或いは西武秩父線の高麗駅である。西武鉄道は「曼珠沙華祭り」の期間中は特急もこの駅に臨時停車する。 僕自身は西武線を利用して行って見た。 駅前広場にはにわか作りのテント村が出来ており、地元で出来る里芋や野菜に漬物、細工物などを売っている他に、お団子や焼きソバ、焼き鳥やおむすびなどを商う店も出ていて、テーブルやベンチも置いてあり、ちょっとした休憩所になっている。 ここではガイドマップなども配布しているので、適当なものを見繕って持参すると付近を散策する際などに大いに役に立つ。 又、高麗の地区にはコンビニが全く無い(少なくとも僕は途中地場の小さなコンビニの他には、普段よく見るコンビニは全く見かけなかった)ので、散策途中で飲み物や食べ物を必要とするなら、駅前広場で調達しておくほうがよい。 案内板に従って国道299号線に出たら、左折して暫く国道沿いに進み、「久保」という札の辻のもう一つ先の信号を右折すると、高句麗からの渡来人にまつわる聖天院や高麗神社を経て、ぐるっと回って巾着田に至る、2時間余りの散策を楽しむ事ができる。国道を歩く間は車の往来が激しいが、一旦わき道に入れば周りは静かな田舎の風景である。ヒガンバナも巾着田だけの専売特許ではなく、農家や民家の庭先や、高麗川の土手などにも普通に咲いている。今の時期は道端にコスモスも観る事が出来る。 高麗神社から南下し主要地方道日高線に至るのが、ガイドマップに記載されている推奨散策路だが、それに構わず細い道を適当に見つけて辿ってみるのも良い。どこに行っても高麗川を探し出しさえすれば、ガイドマップ程度の粗い地図を頼りにしても道に迷うことは無い。 日高線を西進して、「栗坪」という札の辻を過ぎて更に行くと高麗郵便局に行き着く。この信号をやや左にそれて行けば、高麗小学校の先に巾着田への入口がある。僕が庭先に咲き乱れる珍しい黄色のヒガンバナを見つけたのは、高麗小学校の直ぐ手前の民家であった。 ここから巾着田に入ると、あいあい橋という吊橋を渡って「巾着田曼珠沙華公園」の入場ゲートに至る。吊橋の上からは既に眼下にヒガンバナの緋毛氈が見られるが、入園料は200円なので惜しまず払って入園するのが良い。恐らくは公園の整備などに費やされるお金だろう。会場内の「ふれあい広場」には、食べ物や地元の物産を商う店が沢山出て賑わっているが、観光名所にありがちなガツガツしたプロの商魂は感じられない。ご近所総出の「地元興しのバザール」のような雰囲気で、200円の入園料と共にいやな感じはしない。それに一旦入園料を払えばその日の内なら何度でも出入りができるので、そろそろ咲き始めたコスモス畑を眺めて、又入園したりもできる。 会場内は一面ヒガンバナの群落である。上にも書いたがニセアカシアの林の林床を埋め尽す一面のヒガンバナだ。林の中は日光を遮るニセアカシアの葉群のせいでほの暗く、一面の緋色も少し沈んだ感じに見える。恐らくひと気けが無ければ大いに幽遠の趣があるだろうが、今は最も人出が多い時期なのでこれは望めない。しかし、若し周りに本当にひと気が無かったら、却って結構不気味で落ち着かない気分になるだろうと思う。 巾着のふくらみに沿ってヒガンバナを鑑賞し、写真を撮りながらゆっくり歩けば一時間くらいは直ぐに経ってしまう。 会場の別の端から出れば、高麗駅までは10分くらいで行ける。 公称百万本と云われるヒガンバナの、一面の緋色はさすがに凄い。それにその名の通り正にこの連休中が最高の見ごろである。 ここも、周辺の散策も含めて是非お勧めしておきたい。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2009.09.19 20:17:44
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