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マックの文弊録

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2010.04.22
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☆ 4月20日(木曜日) 旧三月九日 壬寅(みずのえ とら) 大安: 上弦、靖国神社春祭

今日も再び冷たい雨が降っている。この頃、夏日と寒の戻りのような日が繰り返し、波瀾めいた天気が続いているが、春の歩みは確かに進んでいる。
車窓から見る木々は日毎に新しい葉を噴き出している。それはまさに噴き出すと言い表すのがぴったりする勢いだ。
それぞれの木はそれぞれに新緑の進み具合が異なり、噴き出した若い葉の色もそれぞれに違う。遠望すると、去年までの樹形の上から、濃淡様々な「抹茶ミルク」の霧を吹きかけたようだ。それが、車窓に流れる花を近景に配して見えると、あらためてしみじみするほど美しい。日本のこの時期は好きだ。

昨日は新政権になってから何度目かの党首討論が国会で行われた。自民党の谷垣総裁の持ち時間は35分、公明党の矢野代表は15分だった(と思う)から、こういうところでも国会での勢力数がものを云うらしい。
それはともかく、私はこの党首討論の始めのほうをたまたま観ていた。ちょうど、例の米軍基地に関する問題をめぐって、谷垣自民党総裁と鳩山首相がやり合うものであった。

谷垣さんは、先日の核セキュリティサミットで鳩山首相がオバマ大統領と10分間しか話せなかったことを論い、ワシントンポスト紙で鳩山首相が「最大の敗北者」と酷評されたことを責め立てる。
鳩山首相は、それに対して色々反論し、「私は愚直に見えるかもしれないが・・・」と自らの姿勢を弁じた。すると、谷垣さんは、「日本国の総理大臣が『私は愚かだったかもしれない』とは何事か!従来の現行案であれば、2014年に普天間基地は返還だったのだ。」と問い詰めたのである。

私はこの刹那、「おかしい!」と強く思った。
鳩山さんは「愚直」といったのだ。それを谷垣さんは「愚か」と解したのだ。これは谷垣さんの日本語能力を疑わざるを得ない。或いは、谷垣さんは鳩山さんの言葉を、「政治討論」の場を意識して、わざと捻じ曲げたのだ。

「愚直」と「愚か」とは自ずとその意味は明らかに違う。
「愚」という字は「禺」(グ、グウ)という部分で音を表し、下の「心」と組み合わせて、「心の働きののろい事」という意味を表す形声文字である。だから、「愚か」とは文字通り馬鹿でのろまということだ。

しかし更に「直」という字を組み合わせた「愚直」は、単なる愚かとは異なる。直訳すると「愚かに見えるほど真っ正直」、或いは「馬鹿正直」という意味になるが、これは必ずしも悪い意味ではない。むしろ謙遜の気持ちをこめて、自分の正直さを言う意味になるのだ。

日本人には、世界の大多数を占める未開人種とは異なり、古来「謙遜」という床しい心情がある。「愚」という字だけを見ても、愚兄、愚見、愚妻、愚生、愚誠、愚僧、愚息、愚衷・・・など、全て謙遜の意味を込めた言葉である。愚兄も愚息も、兄や息子のことを本気で愚かだなどとは思っていないし、いわんや愚妻においてをや(!)である。
愚見や愚衷も自分の意見や真心に、実は秘めた自信を持っての言葉である。

だから鳩山さんは、「私は傍から見れば愚かに見えるほど、誠心誠意率直に正直に専心してきた」とおっしゃったのだ。謙遜とは更に深いところでの静かな自信を示すものだ。だから鳩山さんのココロは、「アンタたちがどんなに謗ろうと、私はこの道を正しいと信じていくのだ。」ということなのだ。

それを、肝心な「直」の字を取り去って、或いはわざと無視して、「一国の総理が自らを愚かとは何事か!」と国会の場で噛み付いた谷垣さんは、お気の毒だが愚昧の極みで、負け!である。

しかし、今朝になって幾つかの報道に接してみると、どれも押しなべて「谷垣流」になっている。つまり「総理は自分を愚かだと云った。谷垣氏は『一国の総理が自分を愚かとは何事か』と云った。」と、そればかりで、「愚直」と鳩山さんが云った言葉は無視されてしまっている。
報道機関とは、同時にほぼ言論機関でもある(必ずしも同一ではないが)。それが、こんな報道をしているようでは、これは意図的であれば偏向報道、意図的でないとすれば、愚かさを露呈したものとしか言いようが無い。

もう一つ、谷垣さんは普天間基地の移転問題に関して鳩山さんが持っているという「腹案」を明らかにせよと迫っていらした。これもおかしな話だ。腹案というのは、明らかに出来ない、秘めておくべき案のことをいう。それを明らかにせよというのは、相手方を攻めているように見えて実は逆だ。「何か大事なことを内緒にしているんでしょ?意地悪しないで私にも教えてよ!」というのだから、相手に擦り寄っている姿勢は否めない。とても反対政党の党首が論戦の場で言うべき言葉ではなかろう。

鳩山さんは、「腹案を基にして相手(米国)と水面下で折衝している最中だから・・・」とおっしゃった。それなら「腹案」は全部ではないにしろ、その一部は米国内のしかるべき人間は承知している筈だ。ならば自民党は、前政権党であり現最大野党としての沽券にかけて、その人脈と情報収集能力を駆使して、米国側から直接情報を得るようにすれば良いではないか。
その上で、国会の席では、「我が党が独自に得た情報では、総理の腹案なるものは、これこれこういうものだとの確証を得ている。それに対してはかくかくしかじかの問題と懸念がある。それについて総理は如何にお考えか?」と論戦を挑めば、自民党としての力量を示すことも出来るであろうに。そうしないで「隠してないで、皆に教えて」というのでは、如何にも情けないし、少なくとも今度の選挙で自民党に入れようという気持ちにはならない。

鳩山さんは、お育ちのなせる業か、その性格によるものか、答弁を聞いていると、お遣いになる言葉も説明の仕方も、随分丁寧だ。それが「オバマ大統領に・・・していただいた。」とか、「スピーチの機会を与えていただいた。」という表現になると、対米追随とまで云わずとも、何となく米国の下でわが国自体がへりくだっているように思え、誇り高い日本国民としては物足りなさや頼りなさを覚える。一国の宰相として、もっと毅然として欲しいという気がする。

こういう辺りが国内の問題でも随所に現れるため、それが「民主党は頼りない」とか、「実行力が無い」という印象に繋がり、畢竟世論調査での人気低下になっているのではないだろうか?私は、小沢さんのように「世論調査など関係ない」とまで言うつもりはない。しかし世論調査は実質人気調査に過ぎない。国民の政治意識の実態を表すものではないことは確かだ。あれは設問の仕方と回答の解釈の仕方で、いかようにでも「料理」出来る余地がある。その結果が、必ずしも政党や政府の実際の力量を示すものでもないことは確かだ。

しかし、この世論調査は「政治の雰囲気」を大きく左右する。そして、我が国民は(どこの国民でもこの点は同じだが)この「雰囲気」の中で生きているものだ。

だから鳩山さんは、国会の論戦や、毎日行われている記者会見の場では、もう少し工夫されたらよかろうと思う。端的に云えば、もっと一文一文を短くして、明確な「言い切り」型を採られるのが良かろうと思う。
例えば「腹案」を明らかにせよと迫られたら、「腹案は腹案だから腹案なのだ。明らかにしてしまったら、最早腹案とは言わない!(心密かに、『バァーカ!』)」とでも仰ればいい。
吉田茂さんか小泉純一郎さん辺りなら、そう仰ったんじゃなかろうか?

こういう辺りが一般には「リーダーシップ」などと受け取られるところだ。必ずしも正鵠を得た判断とは云えないが、事は「印象」の問題である。
愚直は、庶民や一介の政治家としては勿論美徳であるが、一国の総理や、党の総裁としては不満足である。

しかし、お育ちや性格からすれば、鳩山さんにこういうものを求めるのは無理かもしれないな。
この点は、谷垣さんも同じだと思う。その辺が、最近の自民党議員の離脱と小党乱立の原因にもなっているのだろう。
それにしても、与謝野さん、平沼さん、舛添さんは、党首討論の場に出るチャンスは相当難しいだろうな。公明党の矢野さんが15分だったから、皆さんは出席できたとしても、それぞれ5分程度かそれ以下の持ち時間になってしまうのではないだろうか?そうすると皆さんは「見せ場」をどう演出されるのだろうか?

さて、最後に、再び。
あくまでも愚直は愚かではない!





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最終更新日  2010.04.22 16:27:38
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