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マックの文弊録

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2010.08.16
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カテゴリ:IT世界の話
☆ 8月16日(月曜日) 旧七月丘八日 戊戌(つちのえ いぬ) 先勝:

随分前テキサス州のエルパソという町に滞在していた頃のこと。訪問先の会社の社長に、「今晩は友人の家に誘われているから、一緒に行こう。」と誘われた。

エルパソは西部劇に出てくるような沙漠の街だ。街の南側、メキシコとの国境を、リオ・グランデという、「大川」という名前が恥ずかしいほどの川が流れている。街の北方にはフランクリン山という岩山が北に向けて走っており、その稜線近くの一角には赤いコンドルのような形の岩がある。
この山の東側にはフォートブリスという空軍基地がある。空軍基地はNATO諸国の空軍の訓練所でもあって、ドイツ空軍や日本の航空自衛隊などもやってくる。エルパソの人たちは、「だからエルパソは国際都市なのだ」とそれが自慢である。
しかし、それら以外は乾いた平たい土地が広がるばかりで、全てが常に蒼い空と眩しい日差しの下にある。

社長が車で連れて行ってくれたのは、七曲の坂道を延々と登っていった山だか丘だかの中腹だった。なれない土地での夜間のドライブだったから、自分がエルパソのどの辺りに連れて行かれたのかさっぱり分からなかった。

行き着いた先は鋳鉄製の門で、それが道を閉ざしている。門の向こうは緩やかな上り坂になっており、あちらこちらにあるライトに照らされて、幾つもの邸宅が並んでいるのが分かる。そう、遠目に眺められた家々は私の感覚ではまさに邸宅であったのだ。
連れの社長は、門の前から誰かに連絡をしていた。これから訪問する先の家の主人だった。すると、やがて門がゆるゆると内側に開いて、私たちの車は中に入っていったのだ。

訪問した先の家がどんな様子だったかは、もう何年も前のことなのでよく覚えていない。しかし、食後に通されたのは、こじんまりした居心地の良い部屋だった。
向こうの家は明かりを惜しむ。日本のように天井から吊るされた蛍光灯が、部屋中をくまなく照らすようなことはない。ソファの脇に置かれたスタンドの明かりや、壁のペンダントライトが柔らかな光を投げかけ、部屋の其処此処に暗がりができる。
それがそこに集う人たちの間に、密やかな親密さを醸し出す。

その部屋では私たちを含めて2~3人のお客と、その家の主人との間で、何事か秘密めいた相談がされていたように覚えている。共通の知人にメキシコ系の若い芸術家が居て、その芸術家はまだ余り有名ではない。彼らはその芸術家を援助しており、様々なツテで彼(確かその芸術家は男性だった)の作品と芸術家自身を世に出そうというような話だった。その芸術家も招かれており、作品を幾つか見せてもらったが、ラテン系の血を感じさせる力強い印象を受けた記憶がある。私にも、日本の美術館に展示できないかという相談があったが、私には当時は無論のこと今だって、新進の芸術家の作品を美術館にねじ込めるようなコネも力も無い。

エルパソエルパソは街の中心部こそ小都市の趣を呈しているが、その邸宅は何処だか分からないが郊外のしかも丘の上にある。夜はあくまでも静かで暗い。別の部屋の大きな窓から望む下界は、彼方にポツポツと黄色いナトリウムライトが見えるだけだ。
この丘の邸宅地域一帯は、五合目付近で丘の周囲にぐるりとめぐらされた塀で、下界からは隔離されているのだそうだ。下界への出入り口は先ほど私たちが入ってきた門と、もう一つある門との二箇所だけだ。どちらの門もガードされており、住民の承認がないと開けられる事はないのだという。
この丘に何軒の邸宅があるかは聞かなかったが、要するにそれほど数の多くも無い資産家連中が集い、一つの丘を占領して砦を築いているようなものだ。

アメリカの中でもテキサス、しかも片田舎といってもいいエルパソ辺りで、こんなガードを施してまで周囲を遠ざける必要があるのかと不思議であった。しかし、その邸宅の主人に言わせると、周りには「好ましからざる」連中も居て、そういう人たちに煩わされたくはない。こうして塀をめぐらせた中で暮らしていれば、塀や門のお蔭で未知の連中は排除できる。たまたま邸宅の一つに空が出来て、入居を希望する人が出た場合も、住民の承諾がないと引越しして来られないようになっているのだそうだ。

こうやって隔離され防御された中で、親密な人たちだけが集まり、心地よくしつらえられた部屋で、仄かな灯りの下、無名の芸術家を世の中に送り出す相談をしている。
何だか私も夢心地の気分で、しかし心地よかった。

アメリカ人は、開放的で、知らない誰とでも気さくに話し、ちょっと親しくなればすぐに家に招待される。その辺はヨーロッパとは違う。そういうイメージがあるけれど、そんなことはない。私の経験からすると、気さくなアメリカ人とは主に中流以下の人たちであって、金であれ地位であれ、何らかの特権を持っているレベルの人たちはむしろ閉鎖的であるといえる。アメリカ人が閉鎖的であろうとすると、それは徹底していて、塀をめぐらし出入り口には厳重に警備を布く。ことにテキサスは銃規制もゆるいので、門番だって馬鹿にしてはいけない、腰のホルスターには、ちゃんと実弾の装填された本物の銃が納まっているのだ。

こういうのは特権意識と資金力に裏打ちされた差別だ。
私は元来そういうのは嫌いなはずなのだが、当夜は、自分も世間から隔離され、差別される側ではなくする側に加えられているのが、実に気分が良く居心地も良かったのだ。
結局私の平等主義などと言うものは、抽象的で理念的な範囲を超えられるものなどではないのだろう。本当は自分が好まないものを排除し、不愉快な状況を外部に遮断して、同好同質の人同士で閉鎖的にしていたいのだが、それが出来る資金力が無いだけのことなのだ。

エルパソの資産家の邸宅から、滞在していたモーテルの部屋に戻って、殺風景な部屋に今更ながら寒々しい思いをしながら、そんなことを考えていた。

広く人と交わり、つまり社会の中で生きていくというのは、周囲に猥雑さを許容することでもある。厭な奴とも交わり、不愉快な思いもしながら、しかし自ら其処からは逃げ出さないということであるのだ。


一週間ほど前から私のブログは(シニアコムというところにアップしている)執拗なコメント攻撃を受けている。どれもこれもブログの内容には全く関係が無い。出会い系交際サイトへの勧誘だったり、うら若き独身女性(?)から「寂しいからお付き合いしたい」という内容ばかりである。私は同じ内容のブログを楽天にもアップしているが、此方のほうは「私の裸を見てください」とか、人妻に肉体奉仕して幾ら儲けたとか、より直裁でえげつない。楽天のほうはトラックバックも盛んにされる。
どちらも、見つけるたびに削除して回る。こういう手合いは自分で小さなプログラムを書いて、それが、掲載されている数多のブログを探索して回り、予めプログラムに仕込まれたキーワードか何かの条件に合致するブログに行き当たると、これも予め用意されたコメントを書き込んだり、トラックバックを仕掛けたりするのだろう。
一旦「目を付けられた」ブログは集中的に何度も狙われることになる。

楽天は開放的なブログだが、シニアコムのほうは「50歳未満お断り」というのを標榜している。従ってこれまでは、少なくとも私のブログはコメント被害にはあっていなかった。もともと私のブログにはコメントを書いてくださる方は殆どいない。それが急に、しかも執拗に狙われるようになったのは、しかも中身から想像するに明らかに無礼な、50歳には遠く及ばない若造がやっていると思えたのは心外だった。

そのことをブログに書いたら、会員の「☆くっきー」さんという方が、「ブログの設定で『コメントを書くにはログインが必要』というオプションを指定すれば、防げますよ。」と教えてくださった。
早速そうしようと思ったが、設定画面でためらった。

予めログインしないとコメントを書き込めないということは、つまりはシニアコムの会員でないと私のブログにはコメントできないということだ。これはつまり、エルパソのあの塀と門で守られた邸宅地と同じではないか。

ブログを書くということは、自分の文章を誰とは知らぬ衆目に曝すことである。それはつまり、私のブログは誰でも読むことが出来、誰でもコメントを書き込めるということでもある。従ってその中には不愉快なコメント、猥褻な落書きは有り得る。それを予め排除して、結果的にエルパソの邸宅の小部屋にしてしまうのは、ブログというものの本来の主旨に外れるのではないだろうか?こういうコメントには、いたちごっこであっても、丹念に消して回るべきではないのか。
少なくとも私の書くブログは閉じたコミュニティを想定したものではない。そういうつもりで書いてはいない。

だから、私はそのオプションにはチェックしなかった。だから今後も迷惑コメントを見つける都度削除して回ることになる。

こうしてみると、私はあのエルパソの豊かな邸宅での、閉鎖的で心地よいひと時を懐かしみながら、その仲間に入れない現状への意趣返しに、あえてあのオプションを使う気持ちになれなかったのかもしれない。
どうも今更ながら、私はかなり複雑ではっきりしない人間のようであるのだ。





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最終更新日  2010.08.18 17:25:39
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