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マックの文弊録

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2010.08.26
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カテゴリ:何か変だね
☆ 8月26日(木曜日) 旧七月十七日 戊申(つちのえ さる) 大安: 

今「円高危機」がしきりと叫ばれている。だけど私にはどうも釈然としない。
日本の円は米ドルやユーロに対して高くなっている。これは背景に円を発行している日本という国が、アメリカや欧州諸国に対して、より信用信頼されているということだ。だったら円高というのは日本にとって良いことではないか?
それなのにテレビの定時ニュースでも「円高危機」は枕詞のように使われている。日本が信用・信頼されているのに、危機だというのは変じゃないか?
実際には、日本への信用・信頼は積極的なものではなく、アメリカや欧州の方が「より不安だ」という消去法の結果で円が選ばれているということらしいが、それでも本質は同じだ。
どうして、事あるごとに「円高危機」などと言うのだろうか?

色々考えてみると、通貨の価値を決めているのは、一部の「思惑」や「風聞」によるものだ。どうもそういうことらしいと思えてきた。

通貨は、それ自体「製品」として自己完結していない。製品やサービスなどとの交換に用いられる。そして異なる通貨同士も交換される。
財務省によれば、一万円札の製造原価は一枚約22円、五千円札は約21円、千円札は約15円だそうだ。しかし22円を持っていっても一万円札は買えない(買えたらいいのに!)。お金の価値というのは、お金自体には無く、その背後にある何ものかによるのだ。

昔は金本位制といって、通貨価値は金という金属の量と連動していた。このワインは金何グラムの価値に相当するか?それを日本では幾らの円で購うことが出来るか?アメリカでは同じワインが何ドルで売られているか?そうなると円とドルの間はどういう比率になるか?・・・例えばそういう比較法によって通貨間の比率(為替レート)は決められた。
この場合地球全体での金の総量が決まっていれば、分かり易い気がする。しかし実際には金は未だ採掘されてその分増えている。一方では工芸品や装飾品、電子機器やその他の分野でも使用されて、その分散逸して減少していく。即ち金の総量は一定に決まっていない。
金以外に地球全体での総量が常に一定に保たれ、全く使途が無い物質があれば、それを通貨価値の根拠に据えればいいけれど、そんな物質は見つかっていない。

だから、何かの基準を設けて様々な通貨の価値を一様に決めていくことは困難だ。それならそんな基準を探す代わりに、通貨自体を共通の舞台で流通させ、相互に交換させることで交換価値が自ずと決まれば、それでいいじゃないか。そういう考え方になる。国や法律ではなく、お金そのものに自らの価値を決めさせる放任主義だ。外貨為替市場というのはそうして出てきたのだろうと私は思うのだが。

こうなると、これを儲けるネタにしようという人間が必ず出てくる。必ず、だ。彼らは自分が持っている通貨が他の通貨に対して高くなれば儲かる。逆に廉くなれば損をすることになる。しかし、お金を使わなければ現実に意味は無いのだから、此処で言う儲けとか損は、あくまでも(実際に製品やサービスを購入するまでは)数字上の抽象的な意味でしかない。

欲張り人間は、数字上の儲けを追求して一生懸命になる。そこで、ある通貨がこれから相対的に高くなりそうだと思えば、未だ高くなる前に「買おう」とする。逆に手持ちの通貨が今後廉くなりそうなら、値下がりする前に「売って」他の通貨に換えておこうとする。この「前に」というのが大事なのだ。つまりは、為替は予測で動くのだ。「予測」というと科学的な根拠があるような匂いがするから、面白くない。「予想」でも未だ勿体無い。これは「思惑」とか「噂」と言っておくのが適当だ。
そして、そういう思惑や噂をもとにして他を出し抜くのだ。つまり抜け駆け。抜け駆けに勝った者が数字の上で「儲け」、遅れを取った者は「損」をすることになる。
これらはお金でやり取りされる実際の製品やサービスの価値とは全く関係が無い。此処に現実面で大きな問題が生じる。

始めの方で、「今の円高は日本という国が、アメリカや欧州諸国に対して、より信用・信頼されている所為だ」と書いたが、これは最早訂正したほうが良いだろう。正しくは「今、アメリカやヨーロッパより日本の方が未だ安全らしいという噂だから」円高になっているとすべきだった。

此処までをまとめると、「為替の変動とは、欲張り連中が、実際の経済活動とは関わりなく、思い込みや思惑、又は風評で以って、少しでも自分の腹を肥やそうと蠢く結果として起こる現象である。」ということになる。違うだろうか?

為替は従って、常時小刻みな変動を続けている。これは当然のことだし、自由経済を掲げる以上、欲張り連中が小刻みに儲けたり損をしたりするのは規制出来ない。動的バランスとして容認しなければならない。しかし、為替が大きく動いたり、或いは上昇・下降傾向を継続しそうなときには、実際の経済活動(お金の世界での数字上のやり取りを金融経済というのに対して、ものを作ったり売ったりする実際の経済活動は実体経済と呼ばれる)や、我々庶民の生活にも大きな影響が出てくることになるので、これは無視出来なくなる。

例えば今のように円高になると、日本で作られた製品が海外で売れにくくなる。
簡単のために1ドルが100円だったとする。ある製品を作るのに、原材料に20万円、下請会社での部品の加工賃に20万円、そしてメーカーでこれを製品として組み立てるのに20万円、つまりは原価が60万円だったとする(今の場合、流通経費や広告宣伝費などは考慮しないことにする)。最終製品は100万円で販売した(あくまでも一つの簡単な例です)とすると、製造会社での利益は40万円になる。
今円高で1ドルが80円になったとする。
日本では原材料は殆ど輸入に依存しているから円高になると原材料は廉くなって16万円になる。そうなると、製造会社の利益は4万円増えて44万円になる。10%の増益だ。いいじゃないか。
日本の国内だけを考えると、円高は得である。輸入のワインやアメリカンビーフなどの輸入品は確かに廉くなるか、国内の販売元はより多くの利益が出るようになる。日本人が海外に旅行する場合にも、現地で色々なものが今までより廉く買えたり利用できたりする。

しかし製品を輸出する場合を考えると、話は逆になってしまう。
今までは(上の例では)製品を海外に1万ドルで売ることが出来た。ところが今度は、今までと同じ利益を確保しようとすると、現地での価格を1万2千500ドルにしなければならないのだ。その製品が日本でしか作れないものならまだしも(それでも値段が上がれば売れにくくはなる)、現地でも製造できたり、或いは他の国からも現地に入ってくる製品だったりすると、値段を下げないと競争できない。つまりは、今までどおり1万ドルで販売するという圧力がかかる。そうなると販売額は日本円に換算すると80万円になるから、製造会社の利益は20万円と半減してしまうのである。(輸入原材料の円高による値下がりを考慮すれば、利益は24万円となり、約39%の減少となる。)
実際には、日本の製造会社と現地の販売会社などとの間では、引渡し価格などをドル建てで契約しているのが普通であるから、利益の変動の内の多くの部分はこれらとの取引から生じることになる。

こういう利益の減少は製造会社が一人被るものではなく、当然関連会社や下請けにも波及する。そうなると相対的に経営の弾力性に劣る下請けなど、輸出関連の中小企業にはより大きな影響が出てくる。更には製造コストを下げるために、日本より人件費の廉い海外(特に東南アジアなどの発展途上国)に製造拠点を移す会社も増えていくから、今度は日本国内での雇用に大きな影響が出てくる。日本を支えるべき製造業が海外に出て行ってしまえば、産業構造の一部に空洞化ということも生じる。当然人件費も圧縮されることになるから、円高で輸入品や海外旅行が廉くなってもそれらを買える人間は少なくなってしまう。企業の業績が悪化すると、国の税収は減り、社会保障など色々な分野へのお金が出なくなる。膨大な国の借金も返せなくなる。

つまりは、日本という国は経済的に信用も信頼も出来ない国に堕ちてしまう恐れがあるのだ。「日本は信頼できる」、「未だアメリカや欧州より大丈夫らしい」として円高になった結果がこれだから、考えれば皮肉な話だ。
しかし円高に走っている連中には、「今」と「自分の損得」しか眼中に無いから、こういう大視野など望むべくもないのである。

円高危機?円高危機の「危機」の本質は実はここにあると私は思う。これは円高だけではなく円安の場合も同じである。要するに、一部の欲張り連中が、思惑や噂で我々の世界を引っ張りまわしているのだから、此処を何とかしない限り根本は変わらないはずだ。

こういう状況で政府(日銀)が出来ることは二つ有る。ひとつは高くなりすぎつつある円を政府として売ることだ(それはドルやユーロを買うことでもある)。これを「市場介入」という。極端に言えば、欲張り連中が買いたいと思う以上に円が市場に潤沢に出回れば、円を買おうとする意欲は沈静に向かい、円高傾向は抑制される。トイレットペーパーだってマスクだって円だって、品薄になれば値段は上がり、充分に供給されれば値段は下がる。しかし、この場合政府は円を売って別の通貨を買わなければならない(そのためには日本政府は充分な資金が必要である)から、日本政府だけが単独には出来ないところに問題がある。

もう一つは金利である。政府(日銀)の決める金利を公定歩合という。これは日銀が企業に貸し出す場合に適用される金利である。公定歩合を上げれば円を持っている人は利息が多く付くことになるから、余計に円を手に入れようとする。逆に公定歩合を下げれば、金利の上では円の魅力が下がり、従って円の価格は下がる方に向かう。しかし、これも今の日本の場合、公定歩合は0.1%と既に非常に低い水準にあるからこれ以上下げるのは難しいらしい。

しかし、欲張り連中は再び噂に敏感である。政府や日銀が為替市場に何かしそうだという噂が流れると、為替は敏感に反応する。現に昨日辺りから政府首脳がしきりと色々なメッセージを流しているが、その度に円の価格は小刻みに反応している。だから、いっその事政府側から強烈なメッセージを流せばよいと思うのだが、実際のところ中々手詰まりでそうもいかないらしい。

何れにしろ、欲張り連中(これを投資家というけれど、より正確には投機屋とかばくち打ち程度に云う方が良いと思うのだが)が、実際の我々の現実の世界を左右するほどの存在になってしまっているのが大問題であると私には思えるのだ。
マスコミは「円高危機」と、あたかも遍く我々がその責任の一端を負うべき普遍的な危機のように云うが、これは一部の人間による人為的で作為的な行為の結果である。円高危機と聞いて我々までもが一緒になって訳知り顔に眉を曇らせるのはむしろ滑稽なのだ。投資家・投機屋の見識の無さこそ糾弾すべきではないのか?こういう見地から報道や解説をするところが皆無なのはどうしてなのかは分からないが、歯がゆい限りである。

最後に、円高であろうが円安であろうが、結局銀行は損をしない、ただ得をする立場に居る存在であることも付け加えておきたい。(これを書き出すときりがなくなるから。)





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最終更新日  2010.08.26 17:52:29
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