カテゴリ:小言こうべえ
☆ 9月25日(土曜日) 旧八月十八日 戊寅 先勝:
拘留中の中国の「漁船」の船長を、那覇地検が釈放したというので、様々な波紋が生じている。 日本側の大方のメディアや民草には、これが頗る評判が悪い。 「突然釈放するなど、中国の圧力に屈したのだ。情けない。」というのが大方に共通する意見のようだ。 一方の中国側は、「元々日本には何の権利も無いのに、勝手な判断で国内法を適用したのだから、釈放は当然だ。それは当然のこととして、今回の不当行為に関して中国に謝罪すべきだ。」と、要約すればそう主張している。 火種は尖閣諸島という、私は行ったことも見たこともないが「沖縄県の島」を巡っての、日本側からすれば領海侵犯と、それを取り締まるべき際の中国漁船による公務執行妨害ということだ。 ところが中国側は、尖閣諸島は「中国固有の領土」と主張しているのだから、そもそも漁船は当たり前のことをしていたのであって、日本側に拘留されるいわれは無い、というわけだ。 那覇地検は、釈放理由の一つに、「国益を考えて」という主旨の説明をしたが、この点は更に野党側から追及を受けている。「司法が国益を考えて司法判断をするなど、了見違いの思い上がりも甚だしい。民主党政権は何をしている!」というわけだ。 政府首脳は、「あれは地検の判断であって、それを我々も了としている。」と、今のところそういう姿勢である。 確かに色々な面から見ても私自身、この件には釈然としないものを感じている。日本の民主党政府が外交上の弱腰を露呈してしまったようにも思える。 アメリカは、「日本の領土が安全を脅かされる事態になれば、それが尖閣諸島であれどこであれ、当然日米安全保障条約の対象案件になる。」と明言している。それなら、もうちょっと突っ張って、船長を拘留したままにしておけば、米軍の日本での存在感はいや増しに増しただろうし、沖縄の基地問題の様相も、(沖縄県民による)早期妥協に向けて変化するかもしれない。 しかし、それでは何となくえげつない気がするし、第一もう釈放してしまったのだから、手練手管を弄したくても手遅れだ。 中国(人)は、少なくとも私のさして多くも無い経験から言っても、相当にしたたかである。彼らにとっては、自らの最大利得を獲得するために、強弁を弄し、時に恫喝まですることは、「善隣友好関係を維持発展させること」とは何ら矛盾しないのである。 日本(人)は、この点ナィーヴ過ぎる。仲良くなれば、徹底して相手を「善人」だと信じてしまうところがある。「友達だから、この辺はまぁ、こうしてくれるだろう」と勝手に思い込んでしまうところがある。その日本(人)の思い込みが裏切られでもすれば、「相手はずるい!卑怯だ!汚い!」という逆の感情に一挙に振れてしまう。 こういうところは、日本の伝統的スポーツにも顕れている。相撲や柔道、そして剣道などは、型や作法・儀礼に従うことが第一義的に重要とされ、そのお蔭で国際競技の舞台に出れば、日本人は大抵弱くなってしまうのだ。外人たちにとって見れば、力づくだろうがナンだろうが、先ず勝つことが大事なのであって、それは相手に対する敵対心とは全く無縁のところにあるのだから。 柔道が随分前のオリンピック以来、そのいい例だ。剣道は未だ国際化していないし、相撲もそうだが、それでも相撲の方は、トップ陣営は既にモンゴルやスラブ系の連中に占められそうな形勢だ。 今回も尖閣諸島など、大方の日本人には、普段頭の隅にも無いくせに、今回の顛末をきっかけに、突然それまで全く忘れきっていた極め付きの「愛国者」に変じてしまいそうな気配だ。これは、かつて軍艦建造競争の際に、大元となる石油の源を締め付けられて、それが先の大戦の発端にまで繋がる気運を一般大衆の中にも醸し出してしまったのと、ちょっと似たところがあって厭な感じがしてくる。 それにしても、もう釈放しちゃったんだからしょうがない。 ここは一つ米国に滞在中の菅さんにご提案申し上げたい。 菅さんには、折角東京よりは遥かに国際的注目度の高いニューヨークにいらっしゃるのだから、一つ世界の主要メディアを招待して、大々的な記者会見を開いていただきたい。(尖閣諸島を巡る日中の軋轢は、このところワシントンポストやニューヨークタイムスでも、比較的大きく報じられているから関心も今のところ高いのです。) そこで菅さんはこう仰る。 「かねて拘留中であった中国漁船の船長を那覇地検が釈放したと報告を受け取りました。日本政府としては、尖閣諸島という領有権の絡む地域に関する案件でもあり、地検には我が国の司法制度に即して、粛々と聴取、捜査を進めてほしいという思いもありました。しかし、地検が今までの状況と見識に則って、斯様な判断をされたということなので、日本政府としてはこれに容喙する積もりはありません。 我が国は立派な民主的法治国家として、行政側や政治権力が司法権の独立性を侵すような愚かな事は致しません。」 と、暗に中国をあてこする。 その上で、先の上海万博への日本青年視察団の受け入れ拒否、フジタ建設の社員の拘束・拘留、更にはレア・アースの日本向け輸出停止や、その他の中国側の対抗措置に(上手に)触れる。そして、 「中国さんよ、あなたも今では世界に冠たる経済先進国になろうとしているんでしょ?今のやりようは、如何にも古臭くて大人気ないやり方ですよ。日本ではこういうのを『江戸の敵を長崎で討つ』とか『坊主憎けりゃ袈裟まで』と言って、決して大人や君子のやることとは思われませんよ。日本は結果的に双方にとって良かれと思って、政府もそれを容認したのだから、あなたも少しは国際社会で大人におなりになりなさいな。」 と、仰るが良い。 つまりは直接中国に対してではなく、国際社会に向かってこれを発信するのだ。 記者団には、参考資料として日本の巡視艇の撮影した映像をさりげなく配布しておくのもいいし、記者会見の会場の一隅に、クリントンさん(ご夫人は現役で生臭すぎるから、旦那の方がいいだろう)にもいらしてもらって、ニコニコしていてもらえれば更に良いだろう。 中国(人)は、(再び私の多からぬ経験に依れば)したたかな一方で、日本人にも増して誇り高い国(人々である)。面子というものには大いに拘るところがある。 そこを利用するのである。その上で、帰国間際に菅さんと温家宝さんとの会談でも実現すれば良かろう。 ま、門外漢の無責任な意見に過ぎないかもしれない。 しかし、元々日本は物理的には大した力のない国だ。力づくで出ようったって勝ち目はないことは、過去の事例から分かっているし、もうそんな時代でもない。 だから、ここは知恵と器量で(なにより器量で)、大向こうをうならせるようなことを、菅さんとしてもやっていただくのが良かろう。丹羽宇一郎さんにも、伊藤忠時代のテクニックで、側面で動いてもらえば良い。 そうなれば国民の憤慨ももやもやも解消できるだろうし、何より我が国のイメージは国際社会でも(特に東アジア地域では)相当変わるだろうと思うのだが、如何なものだろうか? お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2010.09.25 16:11:53
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