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マックの文弊録

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2010.09.27
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カテゴリ:そこいらの自然
☆ 9月27日(月曜日) 庚辰 先負: 

【今月の花→今時の花】
今年は9月に入ってもお彼岸までは猛暑が続きました。本来私は毎月の始めに「今月のそこいらの花」と題して、折々の花(最近は友人からの野鳥の写真も使っていますが)をブログに掲げてきましたが、今年はいつまでたってもクソ暑い(失礼!)中で、秋の花でも無かろうと思って、今までサボってきました。

ところがお彼岸が過ぎたら、急転直下秋の気候に変化してしまい、昨日今日など肌寒い陽気になりました。そこで、やっと「秋の花」に関心が向いたというわけです。

さて、今回は彼岸花です。
彼岸花接近私の住む埼玉県では、高麗(コマと読みます)の巾着田(キンチャクダ)というところが、この彼岸花の群落が観られることで有名です。ここは高麗川の流れが屈曲して、巾着を横から眺めたような形になっていますが、この巾着の袋の部分の一帯に、時期が来ると何万株という彼岸花が花をつけます。

落葉樹の疎林の中に、一面の彼岸花が咲いている様子は、美しいというよりも、独特の霊気を感じさせて不気味なところがあります。彼岸花は葉も出ず、茎も枝分かれもすることなく、地面から一本、にょきにょきと立ち上がって、その天辺に放射状に開いた大きな花を付けます。このユニークな形と、鮮やかな紅色が、異界を連想させてしまうのかもしれません。

巾着田で一面に咲く彼岸花は、木の下仄闇の中で、紅色の鬼火が灯っているように見えます。昔の人は彼岸花から色々不吉なイメージを描いたようで、この花には、死人花(しびとばな)、地獄花(じごくばな)、幽霊花(ゆうれいばな)、剃刀花(かみそりばな)、狐花(きつねばな)、捨子花(すてごばな)、そして、はっかけ(歯欠け?)ばばあ(婆)などという、おどろおどろしい別名が沢山あります。日本中に彼岸花の別名は千以上もあるそうです。

彼岸花は球根から花まで全草有毒です。特に球根の鱗茎にはアルカロイド系のリコリンという毒物が多く含まれていて、食べると吐き気や下痢、ひどい場合には中枢神経の麻痺を起こして死にいたることもあるそうです。しかし、このリコリンは水溶性なので、丹念に水に晒すと無毒化することができます。これを知っていた昔の人は、彼岸花の球根を救飢植物として利用もしていたそうです。それにしても、無毒化の方法がはっきりするまで、何人かの人が中毒したり、死んでいったりしたに違いありません。
私は、フグや一部の茸など、毒を持っている動植物や、或いはナマコやホヤのように、見た目に気味の悪い生き物を、「食べ物」にしていった先人の努力に敬服します。彼らの死をも恐れぬ勇気というか、食に対する執念に対しては、いつも畏敬の念を覚えます。食の毒に挑戦しては亡くなっていった、累々たる死者たちには、フグやウナギを前にするたびに、ご冥福を祈っています。

さて、彼岸花の花期が終わった後、秋から春先にかけては葉だけになりますが、その姿が食用のノビルやアサツキに似ているため、誤って食べてしまうと危険です。食用野草や山菜探訪に興味がある人は、注意する必要があります。

彼岸花は北海道から沖縄まで広く分布していますが、日本古来の植物ではなく、弥生時代に稲作と同時に日本にやってきた帰化植物です。日本中の彼岸花は、DNAを調べるとすべて同じタイプなので、弥生時代に日本の何処かに上陸した株(球根)が、やがて全国に拡がっていったのだと考えられています。彼岸花を田の端に植えておくと、その毒で野鼠など、土に穴を掘って稲の生育に害を為す小動物を退けてくれる効果が利用されたのでしょう。

彼岸花の花群れ救荒植物として、また稲作の害獣駆除に役立ってくれたのに、死人花や地獄花というのは、彼岸花に対して気の毒な気がしますが、これはやはりその毒というより、群れを成して咲いている様子からの連想ではないかと私には思えます。
なお、彼岸花のことを曼珠沙華(マンジュシャゲ)とも言いますが、仏典に言う曼珠沙華は、「白くやわらかな花」だそうで、彼岸花とは全く異なる種類の花であるようです。

彼岸花の花期が終わるころには、北の国からはそろそろ雪の便りが聞こえてくる頃になります。





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最終更新日  2010.09.27 16:29:45
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