カテゴリ:そこいらの自然
【2011年(辛卯) 8月16日(火曜日) 旧7月17日 癸卯 大安】
かなり前のこと、突然辺りの空気が大きく揺れた。地面の奥深いところで、ドロドロと底なりが続いた。その内、空が妙な具合に赤っぽく暗くなって、灰が降ってきた。黒っぽい灰だ。そんなことが始まってもう随分になるが、未だ続いて、止む様子がない。 それより以前に、この近くの山が火を噴いた事があった。その時も足元が揺れて、灰が降ってきた。その時降った灰はもっと白っぽい色をしていた。白っぽい灰が空一面を覆い、時々その中で稲光がきらめいて、足元の地面もゆらゆら揺れて落ち着かず、随分気味の悪い思いをした。今度のは稲光も無かったし、足元も揺れなかった。揺れはしないが、いつも地面がふわふわと頼りない感じがしている。それに、背骨の中心からぞくぞくするような感じがいつまでもしている。私だけでなく、周りの仲間も同じ感じがしているようで、あれ以来皆落ち着かない様子だ。 今日ももうとっくに空は明るくなっている筈なのに、相変らず暗く赤い空のままで、ちっとも陽が射してこない。そうして静かに黒い灰が降り積んでいる。 暫く前から体がふらふらして心もとない。背骨が、体のあちこちを勝手に動き回っているような感じがする。どっしりと支えになってくれる筈の足元が何となく覚束ない。かつては何でもなかった地面の凸凹が妙に気になる。昨日仲間が小さな窪みに足を取られて、そのまま足が曲がってしまい、今も横倒しになったままだ。私ももし転んだら、そのまま起き上がれなくのではないかと不安だ。歯のすわりも悪くなったようで、時々歯茎から出血もする。 周りにいる若い連中も変な姿勢の者が目に付く。肩の辺りが落ち込んで、首を持ち上げるのが億劫そうだ。中には地面に崩れ落ちたままの連中が見えるが、その数が段々増えているようだ。 最近、小さな連中がちょこまか動き回る影がやたら目につく。おぞましいことに、連中の体には等しく毛が生えている。こいつら、以前には我々が少しでも近づくと、せこせこと物陰に隠れてしまうような連中で、歯牙にかける程のもの達でも無かったのが、このところ急にのさばりだしてきた。この間など、その連中が大挙して我々の棲みかに入り込み、あろうことか大切な卵をむさぼり食べていた。私も仲間も怒り心頭であったが、如何せん以前のように素早く動けないため、追い払うこともままならない。連中は我々のこんな体たらくを既に見通しているようで、どんどん図々しくなってきている。 我々もいよいよ落ち目になってきたのか。しかし、一体どうしてこんな事になってしまったのか。黒い灰に混じって雪まで降り始めたようだ。 ・・・かくして、恐竜は滅びていった。 (この稿続く) お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2011.08.18 19:54:29
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