カテゴリ:そこいらの自然
【2011年(辛卯) 8月17日(水曜日) 旧7月18日 甲辰 赤口】
(前稿からの続き) 世界中の地層を調べると、今を去ること6,550万年前の位置に「K-T境界層」という、薄く黒っぽい層が見つかる。これは白亜紀(およそ1億5,550万年前から続く「中生代」と呼ばれる時代)と第三紀(およそ6,550万年前に始まる「新生代」の最初の時代)の境目にある。 黒っぽいのは今話題の「レアメタル」の一つでイリジウムという物質が多く含まれているせいだ。イリジウムは火山の噴火などで地上に噴き上げられる場合もあるが、「K-T境界層」と呼ばれるほど、全世界的に多量に分布するのは、大きな隕石が地球に衝突したせいだと考えられている。 この隕石衝突の痕跡は南北アメリカの境界付近、メキシコのユカタン半島に見つかっており、「チクシュルーブ・クレーター」と名づけられている。クレーターの直径は約170キロメートル。ちょっとした町ほどの大きさの隕石(というより小惑星というのが相応しい)か、或いは彗星が衝突して出来たクレーターで、衝突時のエネルギーはTNT火薬に換算すると、100テラトン(1テラトンは1メガトンの100万倍)にも及ぶ。 この大衝突によって空中に噴き上げられた粉塵は、地球全体を覆い、地球の気候は急速に寒冷化した。それによって三畳紀以来、約2億年程もの永きにわたって栄華を極めた恐竜達は一挙に絶滅し、我々の祖先である哺乳類の時代になったのだと言われている。 これは、突然の恐竜絶滅の原因としてはほぼ定説とされているが、具体的な原因までは明らかにされていないのが実情だ。 寒いから死んだ、と言うだけでは余りに曖昧だし、寒冷地の動物は、体温放散を防ぐために大型化する事が知られている。恐竜の大きなものは体重40トンにも及び、これ位大型になると、体重に対する体表面積の比率は小さくなり、体熱の保温上は有利になる。それに恐竜は温血動物だったという説もある。寒冷化には体の小さな動物のほうが不利なのだ。 落ちてきた小惑星の破片に当たって死んだというのも、恐竜全般を絶滅させる理由としては納得しにくい。 ここでちょっと面白い説が登場する。 「恐竜はヴィタミンD欠乏症で絶滅した可能性がある!」 ヴィタミンDは、ほとんどの脊椎動物では、皮膚で光化学的に生成される。具体的には太陽光中の紫外線、それも波長300nm(ナノメートル)付近のUV-B線により生成される。 ヴィタミンDは、D2(Ergocalciferol:エルゴカルシフェロール)とD3(Cholecalciferol:コレカルシフェロール)の2種類に分けられる。(昔はD1というのもあるとされたが、これは誤解だったことが分かり、今はD1は無い。) D2は主に植物中に、D3は動物の体内に多く含まれる。 脊椎動物の皮膚中で大量に産生される、7-デヒドロコレステロールという物質にUV-B紫外線が当たると、ヴィタミンD3、つまりコレカルシフェロールが生成されるわけだ。 動物の皮膚は、内側から「真皮」、そして「表皮」という2層から構成される。真皮は殆ど結合組織によって占められている。ヒトの場合、表皮は厚さ0.2mm程度の薄い層だが、これは更に5層構造になっていて、内側から順に、基底層、有棘層、顆粒膜層、顆粒層、角質層と呼ばれる。(左の図を参照) この5層の中でも基底層(左図の赤い層)と有棘層(同オレンジ色の層)で、UV-B紫外線の光化学作用によって、コレカルシフェロール(D3)が最も多く生成されるのだ。 ヴィタミンD3は、カルシウムやリンの吸収を促し、骨にカルシウムを沈着させるという重要な働きを持っている。従ってヴィタミンDが不足すると、主に骨に関連する障害が生じることになる。 つまりヴィタミンD3の欠乏は、具体的に、くる病、骨軟化症、骨粗しょう症などの原因になる。くる病は以前は「せむし」などと呼ばれていた。 ヴィタミンD3の欠乏は更に、高血圧、結核、癌、歯周病、末梢動脈疾患、自己免疫疾患などに罹る可能性を高くするともされている。 「光はヴィタミンDである。」ともいえるのだ。 恐竜達は、小惑星衝突による直接被害を何とか乗り切れたものたちも、その後長期化した日照不足、特に紫外線の不足によって、くる病や骨粗しょう症などに罹患し、その結果滅亡したのである!? 同じ爬虫類でも、恐竜に比較して小さく弱い存在である蛇やトカゲなどはどうして絶滅しなかったのか?ヤモリなどの夜行性爬虫類では体内でヴィタミンD3を合成できることが分かっているが、蛇やトカゲがそういう能力を持っているかどうか、寡聞にして私は知らない。それでも、小さいが故に生き延びられたということがあるに違いない。 当時、恐竜の全盛の中で肩身の狭い思いをしていた「日陰者」の哺乳類は、毛皮が皮膚への紫外線の到達を妨げている。しかし彼らは、毛皮に皮脂を分泌し、毛繕いによって経口的にヴィタミンD3を摂取することで、日照不足、紫外線不足の時代を凌いだと考えられる。 恐竜絶滅を生き抜いた哺乳類の子孫である我々人間は、随分以前に毛皮を失っている。だから、週に少なくとも2回、5分間から30分間程度日光浴をする必要がある。それによって、体や骨が必要とする量のヴィタミンD3を合成することが出来る。 ヴィタミンD3は食品には余り含まれていないが、魚類には比較的多く含まれる。だから、日焼けなどを極端に忌避する人たちは、せいぜい一生懸命魚を召し上がるようお勧めしたい。 今の季節、特に女性には極端に日照を避ける人たちが多い。理由は紫外線だ。紫外線は日焼けやシミ、クスミの原因とされ、まるで天敵であるかのように疎まれる。 私は、基礎化粧品の会社の顧問もしているが、こういう風潮にどうも不満足であった。 生命の歴史を紐解けば、紫外線は生命の誕生の際に重要な役割を担っていた。それに上に書いたように、我々の骨を作り、それを健全に保つために大きく貢献してもいる。 適度に紫外線を浴びるのは、却って我々にとって大事なことでもあるのだ。さもないと、恐竜同様の目にあうかも知れない。(この場合、先ずは女性から絶滅していくのだろうか?) お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2011.08.18 20:11:46
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