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マックの文弊録

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2011.08.23
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カテゴリ:そこいらの自然
【2011年(辛卯) 8月23日(火曜日) 旧7月24日 庚戌 赤口 処暑】

今日は二十四気の「処暑」。
処暑とは立秋も二週間ほど過ぎ、暑さも極まる処という意味だ。さしもの猛暑もこの頃にはピークを過ぎ、朝夕には幽かに秋の気配を感じられるようになる。夕方になると虫の音に気付くのもこの頃だ。
しかし、日本は少し前から北東の寒冷な高気圧と、南洋上の暖かく湿った高気圧のせめぎ合いで、やや南洋上の高気圧が押し負け、九州から東北地方にかけては前線の停滞による雨が降り、所によっては肌寒い日が二三日続いている。
それも今日まで。関東地方では午後遅く辺りから再び暑くなるようだ。未だ体感上は処暑には早いかもしれない。

さて、8月16日17日の二回にわたって、恐竜の滅亡とヴィタミンD、そして紫外線の果たす役割について書いた。
これには少し書き足りないところがあった気がするので、少し補強しておこうと思う。

先ず恐竜の大多数は昼行性で開けた場所に生活していたと思われる。当時の食物連鎖の最高位にあった恐竜は敵から隠れる必要などなく、昼間の大地を堂々と闊歩していただろう。また、恐竜のあの大きな姿を思い起こせば、彼らが狭い洞窟に棲んでいたとは考えにくいし、鬱蒼とした森林の中に棲んでいたとも思えない。現在陸上最大の動物である象は、密林には棲んでいない。
つまり恐竜たちは、昼間の開放的な環境の中で、燦々と降り注ぐ陽光を享受していた。そして、ヴィタミンDの産生を太陽光の紫外線に依存していたのだ。

ところで紫外線はヴィタミンD3の生成に重要な役割を果たすのと同時に、体に害も為す。
紫外線に過度に曝される事によって、皮膚がんを生じるのは良く知られている。紫外線が少ないとくる病や骨粗しょう症になり、多いと皮膚がんになる・・・。生き物はかように環境の微妙なバランスの下で生き延びているのである。

余談だが、このことは地球の大気の酸素濃度についてもいえるそうだ。我々は殆ど酸欠で窒息寸前の状況で生きているようで、現在の酸素濃度(大気組成の約21%)を下回って18%程になると命に不調を来たす。それでは酸素は濃ければ良いのかといえば、酸素濃度が現在の21%を超過すると、山火事などが頻繁に起こるようになるのだそうだ。
まことに命とは儚くも危ういバランスの上に育まれているものなのだ。

さて、ヒトの場合、皮膚にメラニン色素を沈着させて紫外線(特にUV-B)の過度な被曝から体を防御している。
日向を闊歩していた恐竜達も、同様に紫外線に対する防御機構を備えていたに違いない。
これが、巨大隕石の落下による日照量、特に紫外線の減少に際して裏目に出た。つまり、この防御機構のせいで、弱まった或いは地上に届かなくなってしまった紫外線を受け取ること出来ず、結果としてくる病や骨粗しょう症を発症して、恐竜は滅亡に至ったのである。
ヒトの場合でも、低緯度に発祥した黒人にはメラニン色素による紫外線防御機構が備わっているが、彼らが日照の少ない高緯度地域に移住すると、くる病に罹り易い事実は、米国のシカゴや英国のロンドンなどで報告されている。特に産業革命当時のロンドンではこれが顕著であった。
逆も真なりで、アフリカ、インド亜大陸、オーストラリアなどの低緯度地域に移住した白人には、皮膚がんが多発している。

さて、巨大隕石衝突後、同様の災難は恐竜だけでなく、同じようにヴィタミンD3の産生を紫外線に大きく頼っていた他の昼行性の動物にも起こっただろうと思われる。彼らも絶滅するか絶滅に瀕しただろう。

大量死による種の絶滅にはそれほどの時間を要しない。その動物種の一世代かせいぜい二~三もあれば、種全体の絶滅が起こるには充分である。

そうして、昼行性の先住動物達の栄華が終わると、彼らが占めていた生態上の位置が空白になり、その空白をそれまで夜行性だった動物が埋めていった。
「隙間が出来ればすかさずそれを埋める」のは、生物の進化上・生存上のコモンルールである。

こうして、それまで夜行性で「日陰者」であった動物達が、新たに昼間の世界に進出し、蔓延ることになったわけだ。その過程で彼らもヴィタミンDの産生を再び太陽光に依存するようになっていったのだ。

現世の哺乳動物が夜行性動物を祖先としている事には、次のような傍証がある。
殆どの脊椎動物の視細胞は四つのタイプの錐体細胞(光を感じる細胞)によって構成されており、比較的長波長の紫外線を「見る」事が出来る。しかし、現世哺乳動物には、長波長側と短波長の2タイプの錐体が失われてしまっている。これは彼らの祖先が長い間光の無い、或いは光の乏しい世界で生きていた名残であるというのだ。
恐竜の直接の子孫といわれる鳥類には、立派に四タイプの視錐体細胞が揃っており、鷹などは紫外線を獲物のハンティングに利用している。

哺乳動物のうち、ヒトと「旧世界ザル」は、長波長側の視錐体細胞を復活させたが、短波長側のそれは相変わらず欠いたままである。だから我々にとって紫外線は相変わらず紫「外」線のままだ。

我々のご先祖様はこうして低紫外線イベントを乗り切った。その後、日陰と夜の世界から、がら空きになった昼間の世界におずおずと出てきて、今や我が物顔で蔓延っているのである。





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最終更新日  2011.08.23 13:44:34
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