カテゴリ:そこいらの自然
【9月11日(日曜日) 旧八月十四日 己巳 先負】
2001年のこの日、ニューヨークのWTC(ワールドトレードセンター)が、テロ攻撃の標的になり崩壊した。もうあれから10年経ったのだ。私はあれより少し前にNYに行く機会があり、オノボリさんよろしくWTCの展望階まで行って、何となくゆらゆら揺れているような感じがしながら、眼下のNY港を眺めたことがある。あんなところに飛行機が突っ込んで、その後ビル全体が崩れ落ちるなんて、今でも想像するのが恐ろしい。 さて、眼の獲得が我々の揺籃であると昨日のブログに書いたが、もう一つの「揺籃」が、カンブリア紀のもう少し前、先カンブリア紀と呼ばれる時代にもあったらしい。 それは「ンコ」をする生き物がこの世に登場したことによるものだった。 この頃地球は「全球凍結」という大イヴェントを経験している。 全球凍結は英語では「Snowball Earth:スノーボール・アース」ともいう。このとんでもない出来事は、今から20数億年前と、7億5千万年ほど前と、過去に2度ほどあったらしい。 こういうイヴェントがあったらしいというのは、1992年にカルテク(カリフォルニア工科大学)のジョー・カーシェヴィング教授が「スノーボール・アース仮説」として発表した。その後1998年に、ハーヴァード大学のポール・ホフマン教授が、南アフリカでの地質調査の結果でこの仮説を補強し、スノーボール・アース仮説は一躍世界中の学会で話題になった。 全球凍結というのは、文字通り地球が南北両極は勿論のこと、赤道地帯まで丸ごと凍ってしまうことだ。 どうしてこんな過激な現象が起きるかは未だ完全に解明された訳ではないらしいが、どうも大気中の二酸化炭素ガスの変動に因るものらしい。 何らかの原因で極地方が低温になると、海流の影響で近くの海が冷やされる。冷やされた海は二酸化炭素をより大量に溶かし込むようになるので、空気中の二酸化炭素ガスの濃度は減少する。すると二酸化炭素ガスによる大気の保温効果が弱くなるので、地球は更に冷え込むことになり、それで又海中に溶け込む二酸化炭素量が増え、大気中二酸化炭素濃度は又々減少し・・・という連鎖反応が発動される。その連鎖が全球凍結に至るというのだ。 これには逆の場合もある。 逆の場合は、先ず何らかの理由で大気中の二酸化炭素濃度が高くなると、その温室効果で海の温度が上昇し、その結果二酸化炭素がガスとして海から大気中に放出され、それが又大気の温度を上げ・・・というわけだ。 どちらもポジティヴ・フィードバック、つまりは一種の暴走プロセスだから、一旦始まってしまうと行くところまでいかないと終わらない。 と、いうことは、現在の地球環境は、一方に転げれば全球凍結、反対側に転げれば熱球甲子園、じゃない!全球熱帯化という、極く幅の狭い尾根の上で、辛うじて危ういバランスを保っているのだといえそうだ。 さて、7億5千万年前の二度目の全球凍結は、始まったきっかけ、終わった理由もはっきりとは分かっていないらしいが、いずれにしても我々が今こうしている以上、終わったことは終わった。おそらくはどこかの火山の大爆発で、二酸化炭素ガスが空気中に大量に放出され、それが寒冷化のポジティヴ・フィードバックサイクルをストップさせたようだ。 一回目の全球凍結が終わった時も同じだったが、氷が溶けて温かくなってきた海に、シアノバクテリアが大繁殖した。私が学校に居た時代には、シアノバクテリアは藍藻類という名で呼ばれていた。 シアノバクテリアは、今ぞわが世の春とばかりに、海中に豊富な二酸化炭素を利用して、活発に光合成を行い、どんどん酸素を放出する。そしてその酸素は、海中に大量に棲息するシアノバクテリアの死骸や有機物を酸化・分解し、マリンスノーとして海中を浮遊し、海底に降り注いでいった。 つまり当時の海は「濁っていた」。そして酸素は海中で費やされて、大気中には大して放出されてはいなかったらしいのだ。 ここで、満を持してヴェンドビオント(Vendobiont)という生き物が登場する。 ヴェンドビオントは、地球上で一番初期の動物群といわれ、多細胞動物だったとか、いやいや大きいけれど単細胞動物だったとか色々な説があって、謎の多い動物群の一つだそうだ。この生き物はは、極端に平べったく、エアマットのように軟弱で、カンブリア紀に先行するエディアカラ紀という時代に生きていた。勿論彼らは絶滅し、今では化石で偲ぶのみで、その子孫も今には遺されていない。 このヴェンドビオントは軟弱ではあったが、腸管という器官を持っていた。つまり史上初めて「ンコ」をした。つまり糞をする動物として、我々後世の生き物達にとって画期的な役割を果たしてくれたのだ。 彼は(彼女は?或いは性別など無かった?)、海中を大量に浮遊するマリンスノーをせっせと食べ、それを腸の中で固形化して排出した。排出された「ンコ」は、固まって海底に沈んでいった。 その結果海の濁りは徐々に無くなり透明になった。つまり海は「晴れ上がった」のだ。 そうなると、シアノバクテリアの産生する酸素(遊離酸素)は、酸化で消費されることなく、海中に満ちみちて、更には海面から大気中に放出されていった。 その結果地球は「酸素の満ち溢れる星」になり、全ての生き物を育み得る下地が出来た。それが三葉虫の眼の出現に繋がり、更にカンブリア大爆発をもたらす事になったのだ。 宇宙論では、ビッグバンから徐々に温度が下がり、38万年程経った頃に光子が電子との相互作用から解放されて、長距離を進めるようになった。 これを「宇宙の晴れ上がり」といって、原子が生成され、遥かにはるかに後に我々が誕生できるきっかけにまでなったのだ。 海では、海が「晴れ上がる」ことで、生き物が多様化することを可能にした。 そしてそのきっかけをつくってくれたのは、生き物として初めて「ンコ」をして下さったヴェンドビオント様なのだ。 まことに「ンコ」が我ら生きとし生ける物の揺籃を与えてくれたのである。 快食快便は、古今を問わず侮るべからざるものなのだ。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2011.09.11 17:59:33
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