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マックの文弊録

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2011.10.10
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カテゴリ:小言こうべえ
【10月10日(月曜日) 旧九月十四日 戊戌 仏滅】

先日東急某線で某駅に到着したときのこと、ドアが開くや否や、「私は85歳です!席を譲ってください。」と乗り込んできた人がいた。それが車輌全域に響き渡るほど随分大きな元気の良い声だ。あぁ言うのを胴間声っていうのか?いやいや、胴間声というより朗々たるバリトンというべきで、むしろ良い声だった。
同じ調子で、「その席は、あんた方若い人たちは座ってはいけないんでしょう。」と続く。

オジ(イ)サンが乗ってきたのは優先席近くの乗り口で私の背後に当たる。
何人かがもぞもぞ動く気配があって、「何もそんなに大声で言わなくっても・・・」とつぶやきじみた声がして、優先席に座っていた若者達が立ち上がったらしい。オジ(イ)さんは、悪びれる様子も無く、「ハイありがとさん。」とバリトンの美声でお座りになったようだ。

今時の85歳は随分お元気だ。
この人の「自己申告」が正しければ、1926年生まれ。これは昭和元年である。傘寿を越して尚、バリトンの独唱を車内に響かせていらっしゃるのは、ご同慶の至りだ。若者達が、勢いに負けてしまっている。

しかし、私は不愉快だった。
先ず自らの年齢や境遇を敢えて喧伝して、席を譲れというのに違和感を覚える。己のハンディキャップを誇示して、人に謙譲を要求するのは、いかにもあざといではないか。
「私は42歳の妊婦です。高齢出産です。シングルマザーとしてこの子を産むため、頑張っています。だからその優先席、私に譲ってください。」・・・・こんな事を言う人は、私は嫌いだ。

それに、優先席は「優先席」であって、そこが空いていれば誰でも座れるのだ。このオジ(イ)さんの大声のお蔭で、若者達が座席を譲った後は、件のバリトンオジ(イ)さん以外は誰も座らない。そりゃぁ誰でも座りにくいだろう。

よく女子高生が、優先席が空いているのに、その前で立っているのを見かけることがある。うら若い乙女としての彼女達は、優先席に自らが座るのを憚る気持ちがあるのだろう。
気持ちは分かるが、あれは邪魔である。立っている空間も座席と共に車内の空間だ。それに通路でもある。空いていれば、座席にさっさと座るのがマナーというものである。
バリトンオジ(イ)さんは、自らの朗詠によって邪魔を創り出したとも言える。

日本人には、さりげなさを尊ぶところがある。老人や具合の悪そうな人、それに妊婦などは、敢えて声高に座席を強要しない。又座っている方は、そういう人を見かければ、黙って即座に席を立つのだ。それが日本の美風というものだろう。

このバリトンオジ(イ)さんは、以前から何度も辛い目に会って来て、こういう態度が身に付いたのかもしれない。
こういう人は、「優先席付近では携帯電話を使っちゃいけないでしょうに!」とか、「電車の中で物を喰うんじゃない!」とか、「車内で化粧なんかするな!」とか、事毎に小言を言い立てるのだろうな。

85歳のおん年で、老人代表のような態度をされるのは、他の多くの奥ゆかしい老人達からすれば迷惑千万。私もこういうオジ(イ)さんにはなりたくは無い。

不愉快が極まったのは、このオジ(イ)さんが後ろから私の背中をつついて、「此処空いてますよ」と自分の脇の席を勧めてくれたことだ。
誰が座るもんか!

それにしても、私の目の前の、やはり優先席に座っていたオジさん達(この人達はオジイさんではなく、立派なオジサンだった)は、目前のバリトンの朗詠に係らず、申し合わせたように全員寝ていらした。
そうか、日本人にはこういう習性もあったのだ。





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最終更新日  2011.10.10 18:43:40
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