いろいろ【まっち】んぐ

2DKのリビング、ベビーベッドで敦也がすやすや寝ている。　そばで由香がウトウトとうたた寝していた。　それを見ていた淳司が思った。　敦也が産まれて　もう3か月になる。　早いものだ。

どこにでもある新婚の家庭風景だ。　ただ　その経緯はあわただしかった。

というのも、彼らが婚姻届を出したのが半年前。　そう　俗に言う「できちゃった婚」なのだ。　もっとも、1年以上前から同棲生活をしていて、両家の両親や会社も認める事実であったが・・・

元々　2人は同じ会社にいた。　部署は違うが、部屋が隣同士でなにかと連携をとる必要があり、お互い課員が行き来していたので、同じ部署と言っても過言ではない。

由香の後輩に香織という子がいて、その子に淳司の後輩がほれたのが事の発端である。　淳司の後輩　順治は気はいいが、かなり人見知りする性格で、それを言い出せないでいた。

あとからわかったことだが、香織も順治は憎からず思っていたようだ。　香織のほうは活発な子で、これまた気のいい性格で、あちこちから声がかかる。　もちろん仕事だが、なかには下心のあるのもいた。

淳司の課は男性が多く、反対に由香の課は女性が多い。　ある日、誰が言い出したかはわからないが、合同でクリスマスパーティーをすることになった。

そこで、準備委員数名が選ばれたが、淳司と由香もその委員に入っていた。　何度目かのミーティングの後、淳司がこう切り出した。

「由香さんの後輩の香織さん、付き合ってる人がいるのかなぁ？」

由香が驚いて、「えっ　どうして？　淳司さん　気があるの？」

いきなり自分のことだと言われて淳司はドギマギした。
「いや　違うんだよ。　僕の後輩がちょっと気にしていてね」

「あら、ホントなの？　案外　淳司さんだったりして・・・」

と、なかなか信じてもらえない。

「違うって！　ホントにホントだよ！」と　淳司がムキになって言う。

その顔つきがあまりにも真剣すぎて、おかしかったのか、由香がクスクス笑った。

「ハイハイわかりました。　そういうことにしておきましょう」と　ちょっとからかいぎみに言った。

これまた、淳司がムキになってあれこれ言い訳する。

まあ　そういうことがあって、時々　帰りに食事したりするような間柄になった。　世間で言う「お付き合い」をするようになったのだ。

そうこう話しているうちに、香織も順治には憎からず思っていた　というのがわかり、それじゃあ2人を結びつけるきっかけを作ってやろうじゃないか　と画策した。

それで、淳司は後輩の順治を、由香は香織を誘ってハイキングに行く段取りをつけた。

そして　4人でハイキングに行ったまでは良かったのだが、途中で由香が転んで捻挫してしまった。　歩けないことはないが、かなりつらそう。

そのときはハイキングコース中ほどだったから、人家もない。　そこで、順治と香織が人家のあるところまで連絡に行くことになった。

順治たちは無事　連絡のとれる人家にたどりつき、救急車が現地の近くまで行き、由香と淳司を乗せて病院へ搬送した。　まあ　たいしたケガではなかったが、全治3週間　というものだった。

そんなこともあり、淳司もその後は由香との付き合いは急速に進んだ。　淳司は島根の田舎の出で、単身　都会へ出てきている。　弟もいるが、同じように都会に出ている。

由香は都会育ちだが、両親が離婚していて、母親は弟と一緒に住んでいる。　由香も一時は一緒に住んでいたが、通勤が遠いこともあり、3年前から会社に近いところにアパート借りていた。

偶然　淳司の住まいと由香の住まいは近くだった。　となると、付き合いが真剣になるにつれ、夜も一緒にいる機会も多くなる。

が、やはり女性の住まいに男性が行くよりは、男性の部屋に行くほうが行きやすい。　そうこうするうちに、同棲　となったわけである。

そして、妊娠がわかり、あわてて婚姻届を出したのが半年前　というわけだ。　だから　当然結婚式もしていないし、子供が出来、由香も会社を辞めたから費用的にも大変。

そこで、結婚式などをするより自分たちの将来のために備えよう　ということになり、両家の両親にもそれで納得してもらった。

しかし　淳司にはどうしても結婚式をしていないのが引っかかる。　というより、何か後ろめたい気がするのだ。

さて、後輩のことだが、こちらもあの件以来　付き合いはじめて、どうやらゴールインも間近らしい。

ある日、後輩の順治に呼ばれて、就業後にカフェに行った。　すると　そこには香織もいた。　明日はクリスマス・イブ　街は賑わっていた。

　BGMはこちら→「クリスマスイブ/山下達郎」　

彼らが言うには、

「僕たち　結婚することになりました」

「そうか、それはおめでとう」と　素直に淳司は思った。

「僕たち　人前結婚式をやります。　衣装などは借りますが、その他は場所だけ借りて、すべて友人たちがやってくれます」

「そうか　それはいい。　結婚式なんてのはけっこう高くつくしな」と淳司が言うと、彼らが思いもかけないことを言った。

「そこで　先輩。　一緒に結婚式をしませんか？　2人より4人のほうが賑やかだし、何よりも先輩は僕たちの結びの神ですし・・・　また　出席する周囲の人たちの顔ぶれも同じでしょう？」　

「えっ　でも・・・」淳司は返す言葉に詰まった。

香織が追い討ちをかけて言う。

「ねっ　先輩　そうしましょうよ。　ご迷惑でなければ・・・」

彼らも淳司たちが結婚式を挙げていないのはよく知っている。　誠にありがたい申し出だが、そう簡単に返事できることでもない。

「君たちの申し出は非常にありがたい。　できればそうしたいが、僕ひとりで決めるわけにもいかない。　ちょっと返事は待ってくれないか」

2人は快くうなづいた。　「ぜひ　説得してくださいね」との言葉とともに・・・

さてさて、ありがたいが困ったものだ。　すでに子供もいるし・・・　と　あれこれ考えているうちに、頭の中に閃光が走った。

「やる　見たい」と　淳司がつぶやいた。

そして、家へ帰ってから事のいきさつを由香に話した。　やはり由香も躊躇している。　淳司は言った。

「ダメかなぁ～　そりゃあ彼らに対してもちょっとは遠慮はあるよ。　しかし、見たいんだよ。　見せたいんだよ。　君のウエディグドレス姿を、君の親や僕の親に・・・」

　BGMはこちら→「恋人たちのクリスマス/マライア・キャリー」

急に由香が淳司に抱きついてきた。　その目には涙が溢れていた。

「バカ　バカ　バカ！　私だって着たかったわよ。　ウエディグドレス」

2人はしっかり抱き合っていた。

夜空に流れ星が一条　すぅーと流れた。
2人にとって、最高のクリスマスプレゼントになったに違いない。


★これはフィクションであり、登場人物の名前などは実在の人物とは関係ありません。


さて、毎年クリスマス時期にお届する、ショートショートも今年で4回目になりました。　お楽しみいただけましたでしょうか？

最近はマネッ子する人も出てきて、人気を博しているようです。　では、よいクリスマスを　お迎えください。

　　　使いまわしですが、アルプスあづみの公園　イルミネーション
　　　　　 　


尚、昨日のブログは　「仕事を頼めない」
ご覧になってない方はこちらもどうぞ


そして、昨年のショートショートはこちら→「あの日の公園」
一昨年のショートショートは→「イブの夜」
3年前のショートショートは→「大聖夜」



なぜか大学からアクセスの多い別ブログ
●別ブログ12/10の新着は「激動の医薬品卸業界」
　　　　　　　　　　　前回は「CAもプロレタリアか？」　こちらも見てね