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カテゴリ:古典
東(ひむがし)の野に
炎(かぎろひ)の立つ見えて かへり見すれば月傾(かたぶ)きぬ 柿本人麻呂 万葉集より <東の野にあかつきの陽炎が射すのが見えて 振り返って見れば月が傾いていた> この句、ご存知の方も多いと思います。 国語の教科書にもしばしば載っている、万葉集・柿本人麻呂の句です。 陽炎にはカタカナで書けば、「カゲロウ」というカゲロウ目の昆虫がありますが、漢字で陽炎とした場合は気象のことをいい、厳冬のよく晴れた夜明け、日の出1時間ほど前に現れる最初の陽光をいいます。 尚、「源氏物語」五十四帖にも「陽炎」という物語があります。 まったく関係ないですが、旧日本海軍の駆逐艦に「陽炎型」(甲型駆逐艦)があり、東雲型と陽炎型があります。 戦後まで生き残った「雪風」は有名で、いろいろな逸話があります。 今、「真夏のオリオン」(旧日本海軍 潜水艦内の人間模様を描いた映画)が話題になっているので、つい艦船の話になってしまいました。 潜水艦と駆逐艦は切っても切れない犬猿の仲。 とは言っても現代は潜水艦の性能UPにより過去の時代と違いますし、また 犬・猫も仲良く暮らしていることもありますが・・・ 以前にも書いたことがありますが、私の父は戦時中は呉・潜水艦隊の無線技師をやっていたそうです。 基地勤務で出撃はしませんでしたが・・・ ついでに、オリオン座というのは冬の星座で、夏には見えません。 話がずいぶん横へそれましたが、元へ戻しまして、 さて、この一般的なこの読み下しは、江戸時代の国学者・賀茂真淵(かものまぶち)が、万葉仮名の原文を初めてこのように読んだだもので、それまでは「あづま野のけぶりの立てるところ見て かへり見すれば月かたぶきぬ」と読まれていました。 しかし、実は、この歌の読み(陽炎)について、現代の専門家の多くが懐疑的なのだそうです。 ということで、本日のお題は 「陽炎(かげろう)」 尚、昨日のお題は 「ストレス 最終編」 ご覧になってない方はこちらもどうぞ ちょっと専門的になり、ムズイですが、ご容赦! ムズすぎると思う方は前半、あるいは昨日のに食いついてください。 原文は漢字14文字 「東野炎立所見而反見為者月西渡」 この歌は持統6年(692年)頃、当時10歳の軽皇子(かるのみこ):(後の文武天皇)が阿騎野で狩りをする前夜に詠まれたとされます。 東の曙(あけぼの)を即位前の軽皇子にたとえ、西に沈む月と対比させた高らかな調べは、万葉集の中でも、最も名高い歌の一つです。 しかし そもそもこの歌の「炎」を「かぎろひ」と読むことに無理があるという。 かぎろひは物が燃えたり、日差しで地面が暖められた時に、形が揺らめく「陽炎(かげろう)」のことです。 炎をかぎろひと読む例は万葉集にもありますが、動詞「立つ」が続く場合は「けぶり(煙)」と読みます。 古い写本の多くには「東野(あづまの)の煙の立てる所見て」の読みがつき、夜明けを待つ焚き火の煙の意味とされていました。 しかし 今から約240年前、江戸時代の国学者賀茂真淵(かものまぶち)が、「炎は曙光(=かぎろひ)」とする独自の注釈を付けました。 だから 今の読みは真淵の「創作=オリジナル」なのです。 「真淵の解釈は文法的にも無理がある。 学者のほとんどがそう思っているはず。 だが、歌の調子があまりに見事で、手が出せない」と 村田右富実(みぎふみ)・大阪府立大教授(上代文学)は推察する。 現在 ほとんどの注釈書や教科書は、真淵の読みを踏襲しています。 「それまでの読みでは物足らないと、真淵は感じたのだろう」とも言う。(同 村田教授) 長い年月のうちに、歌に新たな意味や解釈が加わる。 それもまた万葉の魅力。 尚、万葉集に収められている約4500首のうち、すべてが解読できているわけではない。 約20首については、今も意味がとれない部分があるという。 例えば 額田王(ぬかたのおおきみ)の「莫囂圓隣之」の歌。 莫囂圓隣之大相七兄爪謁氣 吾瀬子之射立為兼五可新何本 様々な研究者が何十もの読み方を試みていますが、解釈に決め手はなく、「永遠の謎」と言われています。 後半の読みは、「わが背子(せこ)がい立たしけむ、いつ樫(かし)がもと」と一般的に解釈されていますが、前半はいまだに不明です。 万葉仮名と、漢字を併用して記された歌は読み方や送りがなが難しい。 そんな中、昨年、近畿で「万葉歌木簡」が3点相次いで確認されました。 現在残っている万葉集の最古の写本は平安時代。 木簡に書かれた歌はより原本に近く、今後 発見例が増えていけば、難読歌研究の進展につながる可能性がある と期待する専門家は多い。 万葉の魅力、奥が深いです。 なぜか大学からアクセスの多い別ブログ ●別ブログ5/27の新着は「なりすまし 実証」 前回は「豚インフルエンザに漢方?」 こちらも見てね お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2009年06月07日 20時04分48秒
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