筋肉交遊録
またしても、通信販売の鍛錬器具のハナシ。 但し、今回の登場人物は俺自身ではない。小学校時代からの友人、ジャッキー(仮名)だ。 ジャッキーは俺と同じく、小僧の頃から武道や格闘技に深くのめり込んでいた。特に彼は、小学校時代からたぐいまれな運動神経が目立っていたので、当時大人気のカンフー・スターであったジャッキー・チェンを連想させた。そこで付いたあだ名が「ジャッキー」だ。 もちろん、今でも親しく交友している。 中学時代、彼もやはり少年雑誌やプロレス雑誌の裏表紙に載っているような、怪しげな通信販売広告に魅せられた。20世紀少年なら誰でもココロ動かされたに違いない。 そしてジャッキーは、ある製品を買った。購入先は、今や伝説となりつつある鍛錬器具販売会社である「○武会」。買った製品は「剛拳マキワラDX」。「マキワラ」とは、古来伝わる空手の鍛錬用具だ。地面に突き立てた木材に荒縄を巻きつけ、そこを叩いたり蹴ったりする事により手足を強化し、攻撃力を増す事に主眼を置いたものだ。 販売元の「日○会」の広告によると、この「剛拳マキワラDX」があれば木材を地面に設置する手間もなく、いつでもどこでもマキワラと同じ鍛錬がこなせるというものだった。 購入申し込みの数日後、ジャッキーの手元に届いた「剛拳マキワラDX」は、横10センチ×縦30センチ、厚さ5ミリほどの単なるフェルト生地に紐が付いただけのものだった。価格は数千円はしたはずなのだが・・・。 使用法は簡単。「剛拳マキワラDX」を紐でどこにでもくくり付けて、とにかく殴り、蹴りなさい、というものである。 何と馬鹿げた商品・・・。 いかに中学生相手といえども、何という商売をするのか。 しかしジャッキーは何の疑いもなく、自宅裏の電柱に「剛拳マキワラDX」を取り付け、一心不乱に正拳突きの稽古を始めたのである。 彼は来る日も来る日もその鍛錬を継続した。 指の付け根の皮が破れ、血が出ても叩きつづけた。 もともと純白であったはずの「剛拳マキワラDX」は、付着した血が乾き、さらに血を重ね、いつしか焦げ茶色に変色していた。 その後ジャッキーは高校に進学すると同時に、某巨大空手団体に入門し、空手歴1年半にして他県の選手権大会に招待選手で出場し、3位に入賞する事となる。 じつにたいしたヤツである。