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カテゴリ:トルコと日本と世界の出来事
【5月1日・月曜日】 4月9日夜8時、新しい連続ドラマとして、FoxTVの画面に登場した「Savasci サワシュチュ・戦士」は、同日の娯楽番組「Survival」に次ぎ、視聴率6.8で2位につけ、数ある他局のドラマを抑える好成績だった。 このドラマの予告編は、1月下旬頃からFoxの番組の合間にしばしば登場するようになり、物語はシリアの内戦が激しくなる頃から台頭し、トルコ南東部の険しい地形の山岳地帯に暗躍するテロ集団組織に対抗すべく、テロリスト殲滅の目的で編成され、特別な訓練を受けた屈強な若手の士官・下士官からなる、特殊工作部隊のチームの一つに焦点をあてている。 偵察隊からの情報が入れば、指令本部の上官から待ったなしのオペレーション(一斉捜索)に駆り出される、彼ら隊員達の人間模様を描いている。テロリストがどこに潜んでいるか分からない山岳の岩場で、一つ間違えば自分が吹き飛ばされてしまうかもしれない、生きて帰れるという保証のない、過酷な任務に命がけで赴く男達。 最初の予告編はテロリストの襲撃で皆殺しにされた山村で、恐怖にわななく2~3歳の小さな女の子が、まだ雪の残る地面にうずくまっている。カムフラージュ(迷彩服)姿の1人の兵士がこの子を見つけ腕を差し伸べた。その横顔にはこれも顔料が塗りたくられていて、誰とも分からないのだが、女の子は兵士の肩章のそばに、トルコのシンボルマーク、三日月と星が白く浮き出た赤いワッペンを見て安心したのである。 この女の子が生まれる前から、シリアは内戦が激しくなり、アサド大統領の国軍と、反政府軍の対立に乗じて、国内で次第に勢力を伸ばしてきたテロ集団組織が三つ巴の戦争を繰り広げており、それぞれの組織に世界の超大国と言われる国々が後ろ盾についていると言う、代理戦争状態が続いている。 トルコはシリアの隣国でもあり、多くの国と国境を接しているため、なにかことが起こればたちまち影響を受けてしまう地理的条件下にあるのだった。シリアの内戦ぼっ発以来、エルドアン首相(当時。現大統領)政権下のトルコは人道的見地から、国境の門戸を開き、現在までに300万人近い難民をトルコに迎え入れ、難民キャンプや、トルコ国内各地に居住させている。 そうした現在の中東情勢の下、トルコはオスマン朝時代の末期のように、分断の危機にさらされている、と言う見方もある。本当の黒幕が、テロでトルコに揺さぶりをかけている、テロリストはトルコを分断するために使われているだけである、とか、いろいろ交錯する意見を聞いたり、読んだりするとますます分からなくなる一方である。 それでも、目前の敵、テロリストは撲滅しなければならない。 山の尾根を伝って移動する特殊工作部隊の戦士達。真っ赤な夕焼けになぜか悲壮感が漂う。 第1話で、通称ボルドー・ベレーリ(ワイン色のベレーを被った男達)と呼ばれる、特殊工作部隊のコプズ中佐(ムラット・セレズリ)が司令官を務める、クルチ(剣)・チームのリーダーは、カーン・ボズオク大尉。まがったことの大嫌いな直情径行型である。サブ・リーダーはカーン大尉が弟のように愛し、信頼するセルダル・テュルクメン中尉だった。 東部の山岳地帯のオペレーションで、クルチ・チームの装甲車を先頭に、数台の戦車などの隊列で目的地に向かって進んでいる時、待ち伏せしているという情報の入っていなかった山道で、突然先頭車両の前で地雷が爆発、切通しの崖の上からも砲弾が飛んで来て、何台かの戦車が爆破され、チームの全員が車外に出て野戦が始まった。 しかしこの戦闘で、セルダル中尉は崖の上から足を踏み外し、カーン大尉の必死の支えも空しく力尽きて滑落し、そのまま行方不明になった。オペレーションは大失態を演じた格好で多くの戦闘用車両を失い、司令官コプズ中佐とチームのリーダー、カーン大尉はこの責任を問われて一時的に拘留された。 ところがそれからほどなく、2016年7月15日の夜、突然軍部からクーデターが起こり、結果的には未遂に終わったものの、アンカラでは国会議事堂、警察本部、ジャンダルマ(軍警察)本部などがF16戦闘機で襲撃され、トルコでは戦争映画そのもののような恐怖の映像が夜を徹して流されていた。 軍関係から大量の検挙者が出たため、コプズ中佐とカーンは特赦で軍務に戻り、トルコは非常事態宣言下に置かれた。政治の空白に乗じて、東部の地域にテロ集団の不穏な動きが活発化し始め、カーンをリーダーとするクルチ・チームも再び任務に就いた。 チームのもう1人の中尉、ブラック・イーイト青年は先ごろ正式に婚約して、今度のオペレーションが終わったら結婚式を挙げる予定になり、コプズ中佐とカーンも参列する約束が出来た。若いカップルは至福の境地にいたのだが、運命は皮肉にもブラック中尉の上に不幸の手をかざした。 このオペレーションは大成功を収めたにもかかわらず、最後の最後に撤収間際、ブラック中尉が村役場のトルコ国旗を掲揚しようとしたところ、ロープに仕掛けがあって大爆発、一瞬にして吹き飛ばされたブラックは、国旗に包まれ無言の帰還をしたのだった。そしてカーンはテロリストの首領格、テペギョズと言うあだ名の男からの電話で、セルダルが捕虜となって生存していることを知ったのだった。 第2話では、コプズ中佐も一度はカーンをクルチ・チームから外すが、クルチ・チームにとってカーン以外に隊長はいなかった。そして、行方不明になったままの息子、セルダル中尉の父親が中佐を訪ねて来て、息子を想う父の切なる気持ちを聞いた中佐は、かつて自らもわが子との別離を経験していたこともあり、何としてもセルダル中尉の奪還を目指し、カーンを単身、部下達の待つオペレーションの現場に送ったのだった。 そのときの大規模なオペレーションで、クルチ・チームは大勝利をおさめ、首領格のテペギョズを生け捕りにすることが出来たのだった。そして、捕虜を交換する交渉までにこぎつけ、谷川のほとりで、セルダル中尉とテペギョズの交換が行われ、無事に取り返したと思ったのも束の間、軍のヘリコプターに乗せられたあと、セルダルの容体が急変し、薬物を注射されて送り返されたことが疑われ、特殊工作部隊の司令本部ではなく、ヘリコプターを急遽病院に直行させて、集中治療室ですぐに解毒の応急措置がなされたのだった。 第3話では、解毒措置が功を奏し、一命を取り留めたセルダル中尉が、次第に立ち直って行く過程を感動的に描き、そしてまたまた司令本部から、コプズ中佐の緊急指令が来た。シリアからトルコのキリスの国境に向かい、政府軍の爆撃から逃れた数十人のテュルクメン人達の一行が、徒歩で北上している、指導者ヤヒア・バトゥル氏とその一行を無事にトルコ国境まで送りこむこと、というのだった。 ここで視聴者の涙を絞るのは、最初の予告編に登場した小さな女の子、アイバラ。昔から子役の活躍する映画は日本でもそうだったが、トルコでも大当たりしたようである。 でも、トルコの映画や連続ドラマでは、おとなの書いた脚本のセリフを、子供がそのまま、大げさな表情で喋るので、生意気過ぎて不愉快なこともよくある。演出過剰でちょっといやらしい子供だなあ、というシーンは見たくないのだが、この女の子は本当に難民っぽくて胸がつまされる。 日本のドラマと違い、30分や45分物などではなく午後8時から12時過ぎまで、トルコのドラマは超長い。最初のうちは前回のダイジェストもあり、コマーシャルも長いので、その分を差し引いても、このドラマのように登場人物も多く、サフネ(場面)が非常に細かく設定されていて、それを毎週分、撮影するのも重労働ではないかと思われる。 私の住むチュクルジュマでは、映画や連続ドラマの撮影で、毎月何回も大勢の撮影隊が来るので、以前はよく邪魔にならないところで見物していたものだが、去年の4月「海難1890」の映画撮影で、現地通訳として少しだけ関わらせて貰ってから、映画やテレビ番組を見る目が違ってきたかもしれない。 視聴率も好調のようである。 Savasciは時宜を得たプログラムでもあり、トルコのおかれている現実にも目を向けることが出来る。ここ2~3年、私達が見るトルコの毎朝のトップニュースは、シリア国境に近いトルコ南東部の町や村から聞こえて来る「昨日○○(県名・地名)で、テロの襲撃があり、軍人○○人と市民○○人がシェヒット(戦没者)になり、○○人が負傷し病院に搬送されました」という悲しいものである。 そしてその前の日にシェヒットになった軍人やポリスのなきがらが、トルコ国旗に包まれた棺に納められ、同僚の肩に担がれて郷里に帰る飛行機に乗せられるところや、郷里のジャーミイ(モスク)での葬儀で、泣き崩れる親や家族の映像は毎日のように見るが、彼らがどんなところで、どんな戦いの果てにシェヒットになってしまったか、このドラマを見るようになって初めて映像として知った。本当に身につまされる。 社会派の真摯なドラマではあるが、ところどころに隊員達のキャラクターを紹介するエピソードや笑いも取り交ぜ、長時間でも退屈しないように工夫されている。そして、勧善懲悪の、人間の基本的理念をコンセプトの先頭に置いている点である。それはとても単純なことで、奇をてらったところは一つもない。 たとえば、下士官バイラム曹長は年齢も上で、チームの中でも頼りになる兄貴株であるが、借家でそろそろ認知症の始まった妻の父、障害を持つ息子がいるので家計が火の車、家賃の滞納で大家と喧嘩になり乱暴したかどで警察に訴えられる。カーン大尉は、世話好きな母に相談し、広い家の一角を彼らの家として提供する。 難民の小さな女の子は、もっと小さな頃からシリアの内戦で母を亡くし逃げまどう日々を味わっている。いつも大人達に「いつか、トルコの兵隊さんが助けてくれるよ」と聞かされ、トルコの国旗の月と星のマークが目に焼きついている。3話でクルチ・チームにあわやのところを助けられるが、テロ集団の狙撃手に狙いをつけられた時、遠くの方を見て、目が輝く。「トルコの兵隊さんが助けに来てくれた!」 もちろん、岩陰に隠れているクルチ・チームの腕についている、月と星のワッペンが実際に見えるとは思えない。しかし、これは、演出による暗示の手法で、女の子も、見ている私達も願望がその一瞬かなったのである。つまり、女の子が助かってほしい、と願う私達の潜在意識に、ディレクター氏が電波を送ったに違いない。 女の子の目には、この月と星が見えたのでしょう。 漫画家篠原千絵さんの花束の写真をお借りしました。 うちのキウイ姐さんにも見えるでしょうか、あの、赤いワッペンが・・・ お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2017年05月07日 08時16分05秒
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