能勢で出会ったムラサキフウセンタケ。彼らとの出会いも2年ぶりになります。かっては毎夏の終わりには必ず挨拶をかわしていたのが嘘のようです。
ムラサキフウセンタケ Cortinarius violaceus
フウセンタケの仲間でも深い紫色を呈するこのきのこは、私の中では別格のきのこで、初学の頃は、白魔術の女王と受け止め珍重してきました。というのは野山で出会ったときの印象は真っ黒いきのこだからです。近づいてみると全身が濃い暗紫色。全体に微細な毛に覆われささくれだった印象を与えますが、よく見ると風格のただよう姿をしています。中から大型のきのこで12cm程度のものが普通です。この日出会ったそれはやや小ぶりの5cm前後のものでしたが、イヨッと思わず声を掛けてしまいました。暗紫色のヒダは胞子が成熟するとやがて鉄さび色を呈します。これがフウセンタケの特徴で幼菌の頃傘と柄の間に蜘蛛の糸状の保護膜を張ることからコルチナリウスのラテン名がつけられています。ロシア名はバウチンニク、いずれも蜘蛛の糸をもつきのこという意味です。
この2週間、秋の霖雨が幸いして一斉にきのこたちが顔をのぞかせはじめました。まだ暑気の抜けきらない里山では、秋本番のきのこというより夏から秋への端境期に顔をのぞかせるきのこたちが主流ですが、9日の豪雨を縫って歩き通した湖北・余呉の廃寺、菅原道真が幼少年期を過ごしたという菅山寺のムックの旅。そして23日の川西きのこクラブの能勢・小和田山。いずれも一気呵成に顔を出したきのこたちと出会ってきました。これから追々この場を借りてご報告いたします。
9月の第3週は、友人の船会社の会長から招待を受け対馬の旅という思いがけない機会を賜り、わだつみの島の空気を胸一杯に吸い込んできました。
私の周りでは、この夏以来、かってきのこの旅で身近な自然を共有してきたわが娘の世代がジュニア誕生やライフワークで活発な動きを見せ始め、今年知り合った新しい仲間も続々めくるめく動きを呈しはじめてきており、この9月はふたたび私の人生の大きな転換点が巡ってきたかのような予感にわくわくしていました。
そんな矢先、対馬滞在中に貝類研究者の大原健司くんの突然の訃に接し、愕然としました。彼とは川西きのこクラブでの親交は言うまでもなく、個人的にも数度酒を酌み交わし、あらゆる分野で意気投合してきた数少ない畏友のひとり。夜の顔不思議な俳句会やムックきのこクラブにも度々足を運んでくれ、とりわけ松尾芭蕉の老いらくの恋の話から盛り上がり、大津の義仲寺へ行こうと言うことになり同道した折りの記憶が鮮明に蘇ってきます。
しかし、生き急ぐ季節に差し掛かった私には悲しみに暮れ、立ち止まる余裕はすでになく、彼の遺志を全うする意味でも、わずかな可能性を肉付けしてわが終生の目標へ少しでも近づける努力を続ける以外にありません。
私のぽっかり空いた心の空隙を埋めるかのようにきのこたちが熱烈歓迎してくれているのを見るにつけ、頑張らなくっちゃと思う今日この頃です。