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カテゴリ:きのこと発酵文化「月のしずく」
待望の書が出た。私にすればようやく、やっとという感もある。 奇しくも特集号を支えるかのように『異人論』の赤松憲雄、宮沢賢治の原資料にも等しい『宮沢賢治』を世に問うた詩人の中村稔が寄稿している。中村稔はきのこと出会う以前の大学山岳部時代、宮沢賢治の「春と修羅」に魅せられて以来の50年来のお付き合いだし、赤坂憲雄はきのこの<異>に目覚めた30年余りのお付き合いである。 菌類の世界を特集したとはいってもきのこどまりで微生物・菌類にまで届かぬ目下の列島の事情を反映した内容に終始している。それは、微生物の中でも、唯一ヴィジュアル系のオブジェがきのこ(子実体が目に見える唯一巨大微生物)であることから致し方のないことではある。 しかし、80年代にアウトドアブームの高まりの中ではじまったきのこの時代は、食文化としての大衆化に始まり、ギャルたちの可愛い系の大衆化へと飛び火し、博物誌の時代へと移行できぬまま足踏み状態を続けるうちにデジタル化の寡占時代に突入、そんな博物誌そのものの頭上を小馬鹿にしながら通り越していきつつある。 そんな21世紀、私たちアマチュアの役割とは何であろうか。そんな問いを投じ続けてきたごく少数の人たちがヴィジュアル・ノンヴィジュアルのバランスを重視する『月のしずく』をコンテンツで支えてきた。 ユリイカの本書に登場する、堀博美、大竹茂夫、石川美南、飯沢耕太郎、細矢剛、星野保らはそんな次代を担う貴重な人財で私のかけがえのないきのこ友達でもある。青土社のユリイカ(ノン・ヴィジュアル系マガジンであることも象徴的だ)のお陰で、いよいよきのこの彼方へのスタートラインに不揃いのままにもなんとか並ぶことができた。 この、人災による地球生命体がエントロピー最大の季節に突入した2022年、彼らはきのこそのものとなってそれぞれきのこの彼方へと旅立っていく契機となることは間違いない。 きのこそのものに無縁である一般人にとっては<きのこの彼方へ>なんて熱弁をふるえばふるうほど、危険視されるのが関の山で、きのこに魅せられたごく少数の人たちにとっても<きのこの彼方へ>と向かうことは至難の業である。きのこを真に愛するこうした私にとってかけがえのない少数の友人たちがきのこの彼方へと向かうためには、いったんきのこの衣装やアクセサリー(きのこ依存)を投げ捨てて、きのこ大好きを心の糧とする人間そのものに深化しなければならない。「きのこは人を惑わす」と私が語ってきた真意はそこにある。 <きのこ愛>を暗流にして全身にきのこをみなぎらせて信じる道を歩み始めてこそ、それぞれのきのこ愛が地球を救うささやかな力となりうるのである。それはきわめて狭き門であるし、その道を歩むものはさらに少ない。21世紀とはそんな不可能性に充ちた時代なのだ。 次号『月のしずく』30号では、予定を変えて、この2022年5月刊ユリイカ版・特集号「菌類の世界」を採り上げてユリイカ特集としたい。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2022年05月15日 09時16分24秒
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