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ひみつの裏庭

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Oct 21, 2006
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カテゴリ:未来の石板2
色のない世界。
暑苦しいのに、悪寒がする。

不規則に拍動する脈のような響き。
その間を縫うように、どこからか声がする…

(私を置いて行かないで)
(置いて行ったのはあなたでしょう…)
(そうね…)

(手を伸ばせば…届くのかな?)
誰の声かはっきりしない、ぼやけた声。
自分の声かどうかも、わからない。

(私に聞かないで!!!
…もう会えないわ)
(今、何て言ったの?)
(さようなら)

(さようなら)

「…」

夜明け前。
外はまだ真っ暗。

パルフェは静かに目を開け、
暗く沈み込む寝室の天井を眺めた。
(夢の続きみたいに、暗い…)
頬を手の甲で撫でてみる。
濡れていた。

「…馬鹿みたい」
小さく呟き、鼻をすする。

「パルフェ」
「!?」
急に耳許に聞こえたのは、お付きの妖精トゥトゥの声。

「ヤな夢見たの?」
「…うん、そう」
「どんな?」
「たぶん、友達とお別れする夢」
「マジョリズム?」
「…わからない」

淡々と繰り返される囁き声。
それが途切れた。

窓の外では早まった鶏が鳴く声がした。

「後悔してる?」
トゥトゥはさらに小さな声で尋ねた。
「…ううん」
声にならない声を発し、首を横に振るパルフェ。
そして再び身を横たえた。
シーツの擦れる音。

「嘘…」
そう呟きながら、その枕許に座り込むトゥトゥ。

「嘘、かもね。
でも本当でも、あるのよ…」
そう言いながら、再び目を閉じるパルフェ。


「…私はパルフェの妖精だから」
トゥトゥはその耳許で囁いた。
「妖精、だから」

*****

マジョルナの家。
ちょうどルナとリリは朝食を摂っている。

「…リリ、あなたもそろそろ魔女試験受けてみたら?
 その方がいいと思うわ」
「でも、そうしたら…」
「馬鹿ね、私は一人でも大丈夫だし、
 それに魔女になっても、あなたどこかへ行っちゃうわけじゃないでしょう?」
「うん、でもね…」少し困ったような顔をするリリ。
「ま、いいわ。
 妖精の方がいいってのもあるかもしれないからね。
 …私は生まれつき魔女だからわからないけど」
「ええ」リリは肯いた。
「私は妖精だから」
少し笑顔を作り、黙りこむリリ。
ルナはそれをちらっと見てからパンを口に運んだ。

*****

午前一一時。
パルフェはルナを伴い、魔女図書館中央の塔81階、
マジョリードの執務室にいた。

「…私は女王様を裏切るつもりはない!」
マジョリードは椅子から立ち上がり、パルフェに向かって強い口調で言った。
「何故に背かねばならぬのか…」
冷笑さえ浮かべるマジョリード。
「…馬鹿げている」

「マジョリード様…」パルフェは宥め諭すように口を開いた。
「急進的すぎる変化に、魔女界が、魔女達がついていっておりません。
 すなわち…各所に歪みが生じてきているのです」
冷ややかな目でパルフェを睨む。
「…それは聞いておる。いろいろとな」
「それらは女王様の拙速に過ぎる“改革”が引き起こしたもの」
「…」マジョリードは再び椅子に腰かけた。「それで?」
「ですからこの『改革』の流れを一旦止める必要があるのです」
「そのために女王様に退位を迫るのか」
「はい」パルフェは肯いた。
「わけがわからぬ。
 それこそ短絡的な暴挙ではないか?」
パルフェは首を横に振る。
「今の制度上、女王様が居られてはそれは叶わぬこと…
マジョリード様ともあろうお方がそのようなことお分かりになられぬはず、
ありますまい」
そして少し睨むように目を細めた。
(そう、あなた方旧元老が女王の権力の増長を招いた)
パルフェの後で控えているルナもまたその「旧元老」の一人を見た。
「…しかしな」反論しようとするマジョリードの言葉を遮るように、
パルフェは声音を強めた。
「マジョリード様、あなたにとって大切なのは、
 魔女界か、それとも女王様か」
その声をさらに打ち消すようにマジョリードは答えた。
「無論魔女界だ。
 しかし、女王様がいなければ魔女界は成り立たぬ。
 そして今の女王様は脈々たる魔女界の女王としての『正統』を受け継いだ方。
 軽々しく廃立するわけにはいかぬ。
それこそ秩序が崩れる」
「そうでしょうか?」
ふう、と一つため息をつき、パルフェは窓の外を指差した。
「今の女王は、女王たる資格さえ失いつつあります」
「?」
マジョリードの表情が険しくなった。
「マジョリード様…この空の色をご覧下さい。
 すでに色が薄れてきております。
 これは女王様の魔力に翳りが生じてきている証拠。
 そして、我々が生まれ出てくる薔薇の花の成長もまた鈍くなってきている…」
マジョリードは目を開いて窓の外を見、それからパルフェの顔をチラリと見た。
少し大袈裟な身ぶりをとるパルフェ。
「そして魔女界各地に見られる不穏の空気…
 これらはみな女王様の力が衰え、統治が乱れ…
 結果、各所に生じた歪みがもたらしたものです」
パルフェの左眼がちりっと火花をあげた。
「全て女王様の弱体化によるものなのです。
 いくら『正統』であるとはいえ、このまま進めば…」
パルフェは熱を帯びてきた左眼を閉じた。
「…恐らく近い内に災厄が訪れるでしょう」
「予言者か、お前は」
マジョリードは鼻で笑った。

パルフェが苦笑しながらも異を唱えようとすると、突然ルナが口を開いた。
「マジョリード様、あなたは人間界との交流を望んでおられる」
マジョリードは鋭い視線をルナに向ける。
「ん?人間と交流…?」
そして肯いた。
「うむ、そうだな。
 人間とはもっと理解しあわねばならぬからな」
ルナは、その言葉を鼻で笑った。
「…何がおかしい?」
抑えた口調とは裏腹の、烈しい眼光をルナに突き刺した。
ルナはその視線を受け流しながら進み出で、口を開いた。
「果たして…分かりあえるでしょうか?」
そう言いながらルナは、マジョリードとは異なった冷ややかな視線を送った。
それからマジョリードが遮れるように、わざとゆっくりと言葉を発した。
「聞くところによると、貴女様は以前人間を…」
マジョリードはルナから少し目をそらした。
「…それは私の誤解だった。
 私を傷付けないでおこうとする人間の優しさ…」
その言葉を、ルナは遮った。
「優しさ…」
息をふぅっと吐いた。顔右半分を覆っているヴェールが少し捲れ上がる。
「人間は…表面では笑顔を作り、我々魔女の歓心を得ようとする。
 そして我々が持つ能力だけを利用し、陰では嘲笑し、使い捨てにする…
 それから迫害し…傷付け…」
(?)
パルフェはルナの言葉に少し違和感をおぼえた。
「さらには…命さえ奪う」
ますます語気を強めるルナの口許を、じっと見つめるパルフェ。
いつもならその視線に気付くはずだが、今日は気付かない。
「そんな者共と交流を持とうとするのは…」
(珍しいな、ルナが感情的になるとは)
心なしかルナの瞳は血走り、赤みを帯びている。
その眼光にも、いつものような冷たさが無い。
「…愚の骨頂」
「お前は私を愚か者と言うのか」マジョリードは激昂のあまり、
逆に声にならない声で呟いた。
(何を考えているのか、ルナ)
マジョパルフェはその真意を測りかね、腹立たしげにルナを見た。
こんどはルナが視線を合わせてきた。そして少し目を伏せた。
パルフェはため息をついた。
(ルナの言葉は正しくない…
しかしここでマジョリードを敵にまわすわけには…)
パルフェは静かにルナの言葉を継いだ。

「…ルナの言葉は失礼に過ぎます。
 しかし彼女が言うこともまた正しい…」
「お前まで私を…」
静かに首を横に振るパルフェ。
「いいえ、そうではなく…
 彼女が言うような人間は多いということです。
 現に私も留学中に…少なからず見て参りました」
パルフェは左手小指に輝く指輪をちらりと見てから話し始めた。
「例えば特に私が大学にいた時」
マジョリードの瞳を真っ直ぐに見つめて続けた。
「大学で一番の友人…親友だと思っていた人間に、
 私は魔女だと打ちあけました」少し微笑みを浮かべるパルフェ。
「その人間は、私が魔女でも友達だよと言いました。
 私は…その人間を信頼しました」
ちらりとパルフェを見るルナ。
「しかし…その数日後…
 同級生たちは私を見ながら…

 …笑っていました。
 何か変なものを見るような目で、私を見て」
パルフェは一瞬マジョリードの顔から視線を外し、少し息を整えた。
「…私が人ならぬ魔女だということは、既に広まっていたのです」
そして左手の小指の小さなガーネットの指輪を手で隠すようにしながら呟いた。
「その時、私は気付きました。
 人間とはこういう生き物なんだと。
 …しかし、私は今までと同じように振る舞いました」
マジョリードはパルフェの表情が徐々に悲痛な色を帯びていくのを見てとった。
「そんな私に対して人間達は…」
乾いた唇を舌で潤し、続けた。
「…私はいろいろな嫌がらせを受けました。
 結果、大学に…いいえ、その街に…居られなくなりました…」
「パルフェ…」
「…人間とは…こういう…」喉に何かがつかえたような声。
「もうよい」マジョリードはパルフェの声を押し留めた。
「…」小さく息を吐くパルフェ。
その横で少し驚いたような表情を浮かべているルナ。

マジョリードはパルフェの吐息が終わるのを見とどけてから、
静かに窓の外を再び眺めた。

確かに、以前のような鮮やかな色が、徐々に失われつつある空。

「…そうか…」
机の上で手を組み、小さくため息をつくマジョリード。

パルフェは声を整え、続けた。
「かくの如き人間達との交流をこのまま続けていけば…
 もちろん我々にも得るところはあるでしょう」
そして声を少し強めた。
「…しかし、それ以上に多大なる被害がもたらされるでしょう。
 私もまたそう考えています…」
そして真正面からマジョリードを見据えた。
「そして女王様は、このような方針を作り上げたのです」
そう言いながらパルフェは一歩近付き、さらに言った。
「このような方針を女王様が採りつづける限り、
 魔女界に安寧が訪れることはないでしょう。
 ですから、魔女界の為に…」
「女王様の力が衰えているということもお忘れなく」
目を閉じ、パルフェの言葉を聞いていたルナもまたそう付けたした。
マジョリードは二人の顔を交互に睨んだ。
そして目を閉じ、しばらく考えた。

「わかった。
 もしかしたら、本気で考えてみる必要があるかもしれぬ。
 …ただ事は重大。
 もう少し時間をくれないだろうか、パルフェ」
「それは…」肯くパルフェ。
「しかし、このことは内密に」
「当たり前だ」マジョリードはそういうと再び窓の外を眺めた。
(果たして本当に女王様の力が弱まっておるのか…
 それとも私の目が曇ったのか)

パルフェとルナは、そんなマジョリードに一礼して部屋を出た。






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Last updated  Oct 21, 2006 11:35:40 PM
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