カテゴリ:未来の石板2
*****
そんなこんなで夜11時すぎ。 狂乱の時間も過ぎ、クレアは既に夢の中、 その他四人も順番に入浴中。 最初に入浴を終えたこえだは一人、中庭にいました。 (わたくしにも…) 秘かに見習い服に着替えます。 「火ぐらい、出せますわよね」 息をすぅっと吐き出します。そして… 「えいっ」 かすっ… 何も起こりません。 というか、ぱちん、という音さえ鳴りませんでした。 「もう一回…」 ぱちん☆ 今度は音は鳴りましたが、ただそれだけ。 「やっぱり無理なのかなぁ」 少し息を大きく吸いこんで三回目の挑戦。 「三度目の正直…」 ぱちん☆ やはり何も起こりません。 「やっぱり呪文唱えないといけないみたいですわね」 そう呟きながら、何気なく指を鳴らしました。 ぱちん☆ そうすると、一瞬だけ火花が散りました。 「え?」 「あれ?けーちゃんこんなとこで何してんの?」 タオルで髪を拭きながらふぁみがやって来ました。 「あ、ふぁみさん。 さっき指弾いたら火花が…」 「え?そうなんだ」 「ええ。でも火花だけで」 「あ、けーちゃん魔力少ないからー」 「…うるさいですわ爆発女」 「んならさ」 ふぁみはこえだの右手を両手でぎゅっと握りました。 「な!?」 「これでやってみて? あたしの魔力、おすそわけ」 にこっと微笑むふぁみ。 「できるんですの?そんなこと」 「知らないよ。だからやってみてって」 「わかりましたわ。 …じゃあ」 こえだは目を軽く閉じ、鼻で少し息を吸いこみました。 隣で手を握るふぁみの、洗いたての髪の香り。 そして、握った手の温かさ。 ちらっと見ると、ふぁみと視線が合いました。 「いけるよ」 (いけるかも…) 素直にそう感じることができた自分に対する、 ほんの少しの喜びを感じながら、 こえだはすぅっと息を吐き出しました。 「いきますわよ」にやりと笑みを浮かべ、そして… 「えいっ☆」 ぱちっ! その途端、小さな火花が起こりました… …のはずが、ぽん、という甲高い音と共に、 銀色に光る煙のような炎が、ふわっと立ち上りました。 「… …うわっ!!!」 一瞬遅れて、同時に飛びのく二人。 「どうしたの!?」 その閃光に気付いたチュチュが猛スピードで飛んできました。 ふぁみが頬を掻きながら説明します。 「え?いや、 りずむさんの真似して指弾いて火ぃ出そうとしたら」 「なんかすごいのが出ちゃいまして…」と、前髪を焦がしたこえだが、それに続けました。 「なんで見習いなのに呪文も無しで魔法が…??」 チュチュは理解し難いという表情で二人を眺めています。 「まあ、ケガはない…みたいね」 「うん、やけども何とかしなかった…よね?けーちゃん」 「ええ、ご心配おかけいたしました。 前髪が焦げちゃいましたが」 「あらら」ふぁみはその前髪を指でつまみました。 すると騒ぎを聞きつけたみなみとみゅうもやって来ました。 「なに?また爆発?」 ・ ・ ・ 「へぇ、こえだちゃんがねぇ」みなみはこえだの指に目をやりました。 「…指、普通なのにね」 「あたりまえでしょ」ふぁみがすかさずツッコみます。 「どうやったの?」みゅうはふぁみに尋ねました。 「んとね、けーちゃんが指弾いた」 「ふぁみさんが魔力あげるーとか言ってわたくしの手を握って…」 「…へぇ」みなみの目が輝きました。 そしてみゅうのところにつかつかと歩み寄り、 「みゅう、やってみ?」そういってその手を握りました。 「は?」 「指ぱちんて、ほれ」 「…」しかたないという顔で、みゅうは指を弾いてみました。 ぱちん☆ 「…音出たな、一発で」みなみはぼそっと呟きました。 「わたしもびっくりしてる」みゅうはそう答えます。 「そっちかい」とふぁみ。 それに続けてこえだが、 「…でも火は出ませんわね」と言うと、 みなみは突然、「じゃあこう…」 ぎゅうっとみゅうに抱きつきました。 「手握るより魔力おっけーでしょ?」 みなみはそう言いながら八重歯剥きだしでにこっと笑いました。 「!?」 そんな突然の行動にとまどうみゅう。 「みなみちゃん!?え!? 魔力おっけーって…」 「…やってみ」低く抑えた声で、諭すように促すみなみ。 「う…うん」ぱちん☆ 音は鳴りましたが、火花一つ出ません。 「やっぱダメじゃん」ふぁみは頭の後で手を組み、 ぼーっと二人を眺めています。 「じゃあ、もっとぎゅーっと…」 「いたたた…みなみちゃん痛いってば」 「止めなくていいんですの?」こえだはふぁみに尋ねます。 「いいのいいの。なんか面白そうだから」 「そんなぁ~」みゅうが悲鳴をあげます。 「…」そんな四人を、腕組みしてじっと見ているチュチュ。 「ほい」というみなみの掛け声で、 みゅうは三度指を弾きますが、結果は変わらず。 「そっか。それなら…」 突然みなみはみゅうの顔に顔を近付け… 「!!?」びくっとして声も出せず固まってしまったみゅう。 「おねーちゃん!!」我慢できずにふぁみが声を上げました。 それとほぼ同時に、 「…というのは冗談」 そっと顔を離すみなみ。 「っていうかやっぱだめだね。 …あたしらのほうが魔力強いはずなのに」 ふぁみとこえだを見るみなみ。 「ふぁみとこえだちゃんにできたからあたしらも… って思ったんだけど… …ん?」 「…」みゅうは頬を赤らめたまま、硬直しています。 「あれ?」 みなみはみゅうの顔を見つめました。 「…」無言で、約3秒。 そしてさらに顔を近付け、7秒。 「……」 「おね…」ふぁみがそう言いかけた途端、 「…さて、部屋に戻ろうか」と、一人部屋に戻ろうとするみなみ。 「おねーちゃん、こんな状況でほったらかしか!!」 ふぁみはみなみの腕を掴んで止めました。 「あ、あれ?」と同時にみゅうも正気を取りもどしました。 「みゅうさん、あちらの世界から戻ってきましたわよ」 こえだは二人にそう呼び掛けます。 「あ…みゅう、ごめんね」 みなみは申し訳なさそうな顔で謝りました。 「ちょっとやりすぎたね」 「ん? ううん、大丈夫…」 「でもさぁ…あそこまで固まる?」 ふぁみはそう言いながら、近くにいたこえだの顔に顔をぐっと近付けました。 「こうやって顔近付k…」 べちっ。 互いの鼻がぶつかる寸前でこえだのビンタ。 掌底気味に、見事に顎に入りました。 「わたくしはあれぐらいでは固まりませんわ。 っていうかふぁみさん。あなたの行動はお見通しですわよ。 分かりやすすぎます!」 「さよか…」一撃KOされるふぁみ。 「お部屋に戻りましょう?」そう言って、 目を回しているふぁみを引きずっていくこえだ。 「いいの?あの二人」 「いいんじゃない? あいつらいつもああいう感じだしさ」 みゅうの顔を見るとまだ少し赤みが残っています。 「…あたしらも、戻ろっか」 「うん」小さく肯いてみなみについていくみゅう。 ほんの少し、わからないぐらいに距離を置いて。 「よくわからないわね、あの子たち。 ほんとに…」 チュチュはそう呟くと空を見上げました。 青い夜空に黒い影となった木の枝。 「… ま、いっか」 そう言って、閉ざされた魔女界の扉を見つめました。 「まだ、ひと月経たないんだから、ね」 ***** 午前一時、クレアの部屋。 (ふぁみさん…) 隣で寝息…というかものすごいいびきを立てているふぁみを 半ば閉じかけた目で見ているこえだ。 (さっきは…やり過ぎたかな) 掌に残るふぁみの顎の感触を反芻します。 誰に対しても素直になれなかった自分。 さっき初めて一瞬だけ素直になれた気がした。 その時感じた手の柔らかな温もり。 薪がぱちっと爆ぜたような感覚。 そして、きゅっと暖かくなった心。 そっとふぁみの手に、手を伸ばす。 躊躇うように、一瞬動きを止める。 そして、その手の甲に手を添え、呟く。 「ありがとう」 …たったこの一言を言うのに、しかも相手は寝ているのに。 二時間もかかった。 何故…? (はぁ…) と、こえだは小さくため息をつき、でもほんの少し満足げに、 急速に重くなっていく瞼を閉じました。 「おやすみなさい…」 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
Nov 3, 2006 11:51:31 PM
コメント(0) | コメントを書く |
|