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ひみつの裏庭

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Nov 3, 2006
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カテゴリ:未来の石板2
*****


そんなこんなで夜11時すぎ。
狂乱の時間も過ぎ、クレアは既に夢の中、
その他四人も順番に入浴中。

最初に入浴を終えたこえだは一人、中庭にいました。

(わたくしにも…)
秘かに見習い服に着替えます。

「火ぐらい、出せますわよね」
息をすぅっと吐き出します。そして…
「えいっ」

かすっ…
何も起こりません。
というか、ぱちん、という音さえ鳴りませんでした。

「もう一回…」

ぱちん☆

今度は音は鳴りましたが、ただそれだけ。

「やっぱり無理なのかなぁ」
少し息を大きく吸いこんで三回目の挑戦。

「三度目の正直…」
ぱちん☆


やはり何も起こりません。

「やっぱり呪文唱えないといけないみたいですわね」
そう呟きながら、何気なく指を鳴らしました。
ぱちん☆

そうすると、一瞬だけ火花が散りました。

「え?」

「あれ?けーちゃんこんなとこで何してんの?」
タオルで髪を拭きながらふぁみがやって来ました。

「あ、ふぁみさん。
 さっき指弾いたら火花が…」
「え?そうなんだ」
「ええ。でも火花だけで」
「あ、けーちゃん魔力少ないからー」
「…うるさいですわ爆発女」

「んならさ」
ふぁみはこえだの右手を両手でぎゅっと握りました。

「な!?」

「これでやってみて?
 あたしの魔力、おすそわけ」
にこっと微笑むふぁみ。
「できるんですの?そんなこと」
「知らないよ。だからやってみてって」
「わかりましたわ。
 …じゃあ」

こえだは目を軽く閉じ、鼻で少し息を吸いこみました。

隣で手を握るふぁみの、洗いたての髪の香り。
そして、握った手の温かさ。
ちらっと見ると、ふぁみと視線が合いました。
「いけるよ」
(いけるかも…)
素直にそう感じることができた自分に対する、
ほんの少しの喜びを感じながら、
こえだはすぅっと息を吐き出しました。
「いきますわよ」にやりと笑みを浮かべ、そして…
「えいっ☆」
ぱちっ!

うっふっふ
その途端、小さな火花が起こりました…
…のはずが、ぽん、という甲高い音と共に、
銀色に光る煙のような炎が、ふわっと立ち上りました。

「…

 …うわっ!!!」
一瞬遅れて、同時に飛びのく二人。


「どうしたの!?」
その閃光に気付いたチュチュが猛スピードで飛んできました。

ふぁみが頬を掻きながら説明します。
「え?いや、
 りずむさんの真似して指弾いて火ぃ出そうとしたら」
「なんかすごいのが出ちゃいまして…」と、前髪を焦がしたこえだが、それに続けました。

「なんで見習いなのに呪文も無しで魔法が…??」
チュチュは理解し難いという表情で二人を眺めています。
「まあ、ケガはない…みたいね」

「うん、やけども何とかしなかった…よね?けーちゃん」
「ええ、ご心配おかけいたしました。
 前髪が焦げちゃいましたが」
「あらら」ふぁみはその前髪を指でつまみました。

すると騒ぎを聞きつけたみなみとみゅうもやって来ました。
「なに?また爆発?」





「へぇ、こえだちゃんがねぇ」みなみはこえだの指に目をやりました。
「…指、普通なのにね」
「あたりまえでしょ」ふぁみがすかさずツッコみます。

「どうやったの?」みゅうはふぁみに尋ねました。
「んとね、けーちゃんが指弾いた」
「ふぁみさんが魔力あげるーとか言ってわたくしの手を握って…」
「…へぇ」みなみの目が輝きました。

そしてみゅうのところにつかつかと歩み寄り、
「みゅう、やってみ?」そういってその手を握りました。
「は?」
「指ぱちんて、ほれ」

「…」しかたないという顔で、みゅうは指を弾いてみました。
ぱちん☆

「…音出たな、一発で」みなみはぼそっと呟きました。
「わたしもびっくりしてる」みゅうはそう答えます。

「そっちかい」とふぁみ。
それに続けてこえだが、
「…でも火は出ませんわね」と言うと、
みなみは突然、「じゃあこう…」
ぎゅうっとみゅうに抱きつきました。
「手握るより魔力おっけーでしょ?」
みなみはそう言いながら八重歯剥きだしでにこっと笑いました。

「!?」
そんな突然の行動にとまどうみゅう。
「みなみちゃん!?え!?
 魔力おっけーって…」

「…やってみ」低く抑えた声で、諭すように促すみなみ。
「う…うん」ぱちん☆

音は鳴りましたが、火花一つ出ません。

「やっぱダメじゃん」ふぁみは頭の後で手を組み、
ぼーっと二人を眺めています。
「じゃあ、もっとぎゅーっと…」
「いたたた…みなみちゃん痛いってば」

「止めなくていいんですの?」こえだはふぁみに尋ねます。
「いいのいいの。なんか面白そうだから」

「そんなぁ~」みゅうが悲鳴をあげます。

「…」そんな四人を、腕組みしてじっと見ているチュチュ。

「ほい」というみなみの掛け声で、
みゅうは三度指を弾きますが、結果は変わらず。
「そっか。それなら…」

突然みなみはみゅうの顔に顔を近付け…

「!!?」びくっとして声も出せず固まってしまったみゅう。
「おねーちゃん!!」我慢できずにふぁみが声を上げました。
それとほぼ同時に、

「…というのは冗談」
そっと顔を離すみなみ。

「っていうかやっぱだめだね。
  …あたしらのほうが魔力強いはずなのに」
ふぁみとこえだを見るみなみ。

「ふぁみとこえだちゃんにできたからあたしらも…
 って思ったんだけど…

 …ん?」

「…」みゅうは頬を赤らめたまま、硬直しています。
「あれ?」
みなみはみゅうの顔を見つめました。
「…」無言で、約3秒。
そしてさらに顔を近付け、7秒。

「……」

「おね…」ふぁみがそう言いかけた途端、
「…さて、部屋に戻ろうか」と、一人部屋に戻ろうとするみなみ。

「おねーちゃん、こんな状況でほったらかしか!!」
ふぁみはみなみの腕を掴んで止めました。

「あ、あれ?」と同時にみゅうも正気を取りもどしました。
「みゅうさん、あちらの世界から戻ってきましたわよ」
こえだは二人にそう呼び掛けます。


「あ…みゅう、ごめんね」
みなみは申し訳なさそうな顔で謝りました。
「ちょっとやりすぎたね」
「ん?
 ううん、大丈夫…」

「でもさぁ…あそこまで固まる?」
 ふぁみはそう言いながら、近くにいたこえだの顔に顔をぐっと近付けました。
「こうやって顔近付k…」
べちっ。

互いの鼻がぶつかる寸前でこえだのビンタ。
掌底気味に、見事に顎に入りました。

「わたくしはあれぐらいでは固まりませんわ。
 っていうかふぁみさん。あなたの行動はお見通しですわよ。
 分かりやすすぎます!」

「さよか…」一撃KOされるふぁみ。

「お部屋に戻りましょう?」そう言って、
 目を回しているふぁみを引きずっていくこえだ。

「いいの?あの二人」
「いいんじゃない?
 あいつらいつもああいう感じだしさ」
みゅうの顔を見るとまだ少し赤みが残っています。
「…あたしらも、戻ろっか」
「うん」小さく肯いてみなみについていくみゅう。
ほんの少し、わからないぐらいに距離を置いて。


「よくわからないわね、あの子たち。
 ほんとに…」
チュチュはそう呟くと空を見上げました。

青い夜空に黒い影となった木の枝。

「…
 ま、いっか」
そう言って、閉ざされた魔女界の扉を見つめました。

「まだ、ひと月経たないんだから、ね」


*****
午前一時、クレアの部屋。

(ふぁみさん…)
隣で寝息…というかものすごいいびきを立てているふぁみを
半ば閉じかけた目で見ているこえだ。
(さっきは…やり過ぎたかな)
掌に残るふぁみの顎の感触を反芻します。

誰に対しても素直になれなかった自分。
さっき初めて一瞬だけ素直になれた気がした。
その時感じた手の柔らかな温もり。
薪がぱちっと爆ぜたような感覚。

そして、きゅっと暖かくなった心。


そっとふぁみの手に、手を伸ばす。
躊躇うように、一瞬動きを止める。
そして、その手の甲に手を添え、呟く。

「ありがとう」

…たったこの一言を言うのに、しかも相手は寝ているのに。
 二時間もかかった。

何故…?


(はぁ…)
と、こえだは小さくため息をつき、でもほんの少し満足げに、
急速に重くなっていく瞼を閉じました。



「おやすみなさい…」





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Last updated  Nov 3, 2006 11:51:31 PM
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