カテゴリ:未来の石板2
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授業終わって昼休み。 今日は月曜、週一回のお弁当の日です。 生徒たちは思い思いに友達同士で昼食をとっています。 「みゅーうちゃ…あれ?」 お弁当をぶら下げたクレアが高学年クラスにやってきました。 「ああ、巻機山さん。 信玄らやったらどっか行ったで」 朱は、明るい栗色の髪の女の子とお弁当を食べています。 「えー、そうなの… どこ行ったか知りませんか?」と、クレアが尋ねると、 「んー…わからん、ごめんな」朱は首を横に振りました。 「あたしも」一緒に食べていた女の子も同様に。 「…そうですか」残念そうに教室に戻っていくクレア。 「しょーがない、かがみんと一緒にごはんたべよー…」 そして教室に入り、廊下側前から四列目の席を見ました。 「…あれ?」かがみはいません。 その目を最前列に向けます。そこにいつもいるはずの内村もいません。 「二人ともいない…」 クレアはぶつぶつ文句を言いながら、自分の席につきました。 「なぁに~?なんで誰もいないのよぉ…」 そしてため息をつくと、りずむお手製のお弁当を食べ始めました。 ・ ・ ・ 一方、屋上に避難している四人。 「…」 全員無言で、お弁当を食べています。 「やっぱりさぁ、これってよくないかも」 ふぁみは箸でプチトマトを潰しながらため息をつきました。 「確かに気分は良くないね…でも」 みなみはその潰れたプチトマトを横目で見つつ、かまぼこを口に頬ばりました。 そして咀嚼しながら空をぼーっと眺め… ふぁみはそんなみなみの横顔を見てつぶやきました。 「おねーちゃん、なんか今日はヘン?」 みなみは眠そうな目をふぁみに向け、逆に尋ねました。 「そう見える?」 すると、隣りに座ってサンドイッチを囓っていたみゅうが心配そうに呟きました。 「ええ、みなみちゃん、暗いっていうか」 「そっか…」そういいながら、もう一度空に目をやるみなみ。 不意にみなみは呟きました。 「…あたしって三年の時、こっちに越してきたのよ」 「そうだったね」ふぁみは肯きました。 「覚えてる?あたし、その時低学年クラスだったふぁみんとこばかり入りびたっててさ。 …気がついた時、クラスで浮いてた」 弁当箱の中に残っている、汚れたアルミホイルをジッと見つめ、くすっと笑った。 「そうだったの?」みゅうが訝しげに尋ねると、 「っていうかみゅう、あたしがクラスにいたこと自体知らなかったじゃん」 目を下に落としたまま、そう呟くみなみ。 「あ、ごめん」あわてて謝るみゅう。 「いやいいけどさ。自分のせいだから…」 ぱちん。 お弁当箱の蓋を閉め、みなみは話を続けます。 「うん、でさ。 … クラスで何かするっていうときにでも、なんか寂しいっていうか。 …わかるのよ、一人ぽつんってしている時の気持ちがさ」 「だから…」みゅうはみなみに色んな感情が綯い交ぜになった 不安定な視線を向けました。 「うん、できるだけ早く、クラスで友達作って欲しい。 だから…」 珍しく思いつめているみなみの顔を見ながら、みゅうはふと思いました。 (だとしたらクレアちゃん、わたしたちがいなかったらもっと辛くなるんじゃないか) と。 「ねえ、それならそのことを…」みゅうがそう言いかけたとき、予鈴が鳴りました。 ちょうど午後一時です。 「うわっチャイム鳴った!」ふぁみは慌てて弁当箱を片づけながら立ち上がりました。 「まだ予鈴だから大丈夫ですわ」 そう言いながら優雅な仕草で片づけ始めるこえだ。 「いや、今日は五時間目小テストだからさ、もう戻らないと危ない」 「じゃあ急がないと!」みなみの言葉に慌て始めるこえだ。 「トイレも行きたいし」ふぁみはそう口走りながら時計を見ました。 「…というわけで、もう少し様子見てみよう、ね?」 いつのまにか片づけ終えたみなみは、三人に微笑みかけました。 「戻ろっ!」 ***** 午後二時前、五時間目終了。 みなみ達はまた屋上へ逃げていきました。 授業終了と同時にトイレに駆け込んだふぁみを除いては。 ・ ・ ・ 「みゅーうちゃんっ☆」 四人が教室を出て一分も経たないうちに、クレアが高学年の教室に入ってきました。 「あれ?いない…」 また教室を見まわすクレア。 四人の姿はありません。 「…まただ」 そう呟いてため息を一つつくと、中学年クラスに戻っていきました。 「ふう…漏れるかと思った… よく四十五分も保ったよねぇ…」 一方、間一髪間に合ったふぁみは、トイレから出てきました。 「自分自身をほめ…」 その瞬間。 「あっ」 「あっ」 ちょうど中学年の教室へ戻ろうとするクレアと鉢合わせ。 「あ、ふぁーちゃん」 「げっ」そう言って屋上に逃げだすふぁみ。 「『げっ』って… あーっ!逃げないでよ」あわてて追いかけるクレア。 しかしちょうど階段の所まで来たとき… 「こら廊下は走らない!!」 職員室へ戻る倉持先生に捕まってしまいました。 「巻機山さん、ダメじゃない…」 その隙に階段を駆け上がっていくふぁみ。 (ふぁーちゃん…どうして…?) 先生の小言を聞きながら、クレアはふぁみの態度を幾度も思い出しました。 (「げっ」って… なんでくれあを見て逃げたんだろう) 「…以後気を付けてね」「はい」 先生の言葉は全く耳に入っていません。 クレアはしょんぼりと自分の教室へ戻って行きました。 「あれ?」 あまりの悄げように、倉持先生は首をかしげました。 (そんなにきつく叱ったっけ?私…) ***** 一方その頃、屋上にて。 「見つかったですって?」こえだが声を荒げます。 「ふぁみ、それはちょっとまずったかも」みなみは頭を掻きました。 「うーん…かもね。 でもここで謝っちゃったら…」 コンクリートの床をこんこん、と軽く蹴りながら呟くふぁみ。 そのふぁみの足に目をやりながら、みなみは独り言のように言いました。 「もしかしてあたしたちのやり方、間違ってる…のかな…」 みなみのその言葉に、みゅうは口を開きました。 「そのことなんだけどね…」 みゅうのかすかな声を打ち消すように、こえだが大きな声をあげました。 「…でも、でもでも。 クレアさんがクラスでお友だち作るためには…」 こえだはみなみの顔を見、それからみゅうの顔を見ました。 みなみもまたみゅうの顔を見ると、みゅうは戸惑いながらも、 小さく「うん」と肯きました。 「…」みなみもまた少し躊躇ってから、自信なさげに提案しました。 「…もう少し続けてみよう?」 「…」 みゅうはそんなみなみの顔を、じっと見ていました。 「もうそろそろ、戻ろう…」 みなみがそう言い終わると、ちょうどチャイムが鳴りはじめました。 ***** 午後3時半、掃除も終えて下校時間です。 一足先に掃除を終えたクレアは、高学年の教室前で待っています。 しばらくするとふぁみたちが出てきました。 「あ、クレアちゃん…」 「ねーふぁーちゃん、さっきなんで逃げたの?」 そう詰め寄られたふぁみは、おどおどしながら答えました。 「あー… ごめん、ちょっとびっくりしちゃって」 さらに追及するクレア。 「なんで?」 ふぁみは既にしどろもどろです。 「…いや…なんとな…く、かな…えへへ」 「…よくわかんない」 むすっとふくれるクレア。 怒りをあらわにした視線を、ふぁみ以外の三人にも向けました。 「みんなもどこ行ってたのよ」 「ん?いろいろとね」みなみは平然と答えました。 「それよかさ…」そして少し声を落として尋ねました。 「クレアちゃん、クラスの友達は?」 クレアは唇を尖らせます。 「いるけどさぁ。 いいじゃん、そんなこと。 …それよりさ、それよりさぁ、くれあ、テスト満点だったんだよー?」 そういって堰を切ったように、ふぁみとみなみに喋り始めるクレア。 「…」みゅうとこえだは互いに顔を見合わせました。 「じゃ、MAHO堂に行きましょう」 みゅうはまだ話しつづけるクレアを促します。 「そーだねっ!」クレアはニッコリ微笑んでぱたぱたと走っていきました。 その後ろ姿を見て、四人はなんとか切りぬけた解放感とも、ため息ともつかぬ息を吐きました。 ***** 午後四時すぎ、MAHO堂―― 全員が無言、イヤな沈黙。 たまにお客が来たときに、「いらっしゃいませ」「ありがとうございました」などの言葉を発するだけ。 「どうしたんだろ」 そんな彼女たちのあまりな雰囲気を見て、りずむは不審そうにチュチュに尋ねました。 「さあ?ケンカでもしたんじゃないの?」 そんな時、しびれを切らしたクレアが口を開きました。 「なんでふぁーちゃんたち、お話しないの?」 「…」話し掛けられたふぁみは、すがるように隣にいるみなみを見ます。 その目をジッと見つめ、小さくため息をつきました。 ふぁみは次にみゅうを見ました。小さく肯くみゅう。 こえだも肯いています。 その様子を見て、ふぁみもまた肯き、クレアに話し掛けました。 「…ごめん、クレアちゃん」 「?」クレアは不思議そうな目でふぁみを見つめます。 「さっきのことなんだけどさ」 「うん」 「クレアちゃんがあたしらとばっかりいるから、 クラスで友達できてないんじゃないかって思って…さ」 ふぁみは申し訳なさそうに呟いた。 「だから、隠れてたの」 「…あたしらが教室にいなかったら、クレアちゃん教室に諦めて戻るかなって思って」 そう付けくわえるみなみ。 「あー…そうだったんだ」 内心少しぎくっとするクレア。 「でも、大丈夫だよ?くれあ、クラスに友達いるもん。かがみんとか、うっちーとか」 クレアはみなみに向かってそう言いました。 「小西さんと内村さんだね。それは知ってる。 でもね…休み時間のたびにうちのクラス来てるでしょ?」 みなみは、できるだけ無表情にクレアを諭しました。 「あれ、ちょっとまずいんじゃないかな」 「まずい…?」みなみを見るクレアの視線が、少し険しくなりました。 「これからは、クラスでやる行事とかも多くなるからさ、ね?」 みなみの隣で、ふぁみはできるだけ優しい口調で話し掛けました。 「うん。 それにね、私達とはここでいっぱいお話できるでしょ?」 みゅうは、にこっと微笑みます。そのみゅうをちらっと見るみなみ。 「…だから、学校にいるときは、クラスのお友だちと仲良くしたほうが いいんじゃないかなって」 「ええ」こえだも同意します。 「…」 俯くクレア。そしてぽつりと一言。 「…もしかしてクレアのこと邪魔?」 その言葉にぴくっと反応するみなみ。 「いいえ、そうじゃありませんわ」こえだは顔を横に大きく振りました。 「そう。邪魔じゃないよ。 ただ、クレアちゃんのことを考えるとね…」とふぁみ。 それにみなみも肯きます。「やっぱりそれがいいと思うんだ」… 「…そっか」 半ばしぶしぶ納得し、半ば納得行かないという感じの表情で、四人から離れていくクレア。 「…」 そんな五人の様子を、りずむは二階のロフトから、半ば心配そうに見下ろしていました。 上から見ると、店舗部の中でみなみとふぁみがレジの中、みゅうとこえだがその近くにたむろし、クレアはレジの正反対、食堂部屋の近くでぽつんとしています。 (どうするのかしら…) 「どうするのかな?あの子たち」 チュチュは、まるでりずむの心を読んだかのように尋ねました。 「…うん」 りずむはそれ以上何も言わず、クレアに、それからみなみに目をやりました。 「…ま、これも勉強か」チュチュはそう呟くと、どこかへ行ってしまいました。 ***** その夜、クレアはベッドの中、昼間のことを考えていました。 ひとりぼっちで食べる昼食。 ううん、一人で食べるのは寂しくない。 でも、ともだちがいないのは、寂しい。 ともだち…っていったい、何? みゅーちゃんたちは…ともだち? それとも… 脈絡なく頭を過ぎる事柄。 混沌とした、漠然とした寂しさ、何かよく分からない感覚。 そんな冷たさの中、いつの間にかクレアは眠りに落ちていました。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
Dec 18, 2006 09:00:37 PM
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