カテゴリ:未来の石板2
「みなみちゃん…みんなもお疲れさま。 でね、今日の夕食はご馳走したいんだけど… …っていうかもう作っちゃったんだけど」 「え?」食堂部屋の方に目を向けるこえだ。 「やったっ!走り過ぎておなかへった」ふぁみはお腹を押さえながら喜びます。 「あたしも…なんか久しぶりにおなか空いたって感じ」と苦笑するみなみ。 「んふ」そのとなりでみなみに微笑みかけるみゅう。 みなみは、肯いて見せました。 「んじゃおかーさんに電話します」 そういうとふぁみはポケットから球状の携帯式端末を取りだし、通信を始めました。 「んー…あ、おかーさん?ふぁみだよ。あのね…」 「わたくしもママに知らせますわ」 「わたしも」それに続いてこえだとみゅうも散らばって通信を始めました。 「あ、りずむさん。おかーさんがちょっと話したいって」 ふぁみはその端末をりずむに見せました。 そこに映っているのは、淡い紫色の髪をした、30台半ばの女性。 りずむは端末に向かい会釈しました。 「はい、店主の巻機山でございます…」 そんなりずむをじっと見つめているみなみ。 「魔女…」 それからふぁみを見ました。 「そして人間」 ぽつり、そう呟きました。 (あたしは…) 「はい、それではまた…」そういってりずむはぺこりとお辞儀しました。 「おかーさん何だって?」 「オッケーだって。 …近々みんなの親御さんにもご挨拶しなくちゃいけないわね。 あら、みなみちゃんは?」 「あたしは…いいや、どうせ今誰もいないし」 「そうなの?ならいいけど…」胸の前で腕を組みながらみなみを見ました。 みなみはりずむのその言葉に、笑顔だけで答えました。 「りずむさーん」こんどはみゅうが、そしてこえだが、りずむを呼びました。 「ん?」そちらに走っていくりずむ。 (なんか……ちょっと寒いな…) ・ ・ ・ 一人ぼーっと中庭を眺めているみなみ。 「おねーちゃん、どうしたの?」ふぁみが話し掛けてきました。 「…ん?なんでもないよ。 ちょっと走ったから疲れたのかも」えへへと笑いました。 「そう。で、クレアちゃんとはお話しできた?」少し声を低くして尋ねます。 「うん。それはね。 …やっぱりお互いのこと知らないとなぁ」 「だねぇ」一瞬間をおいてから、うんうんと深々肯くふぁみ。 その時、りずむは手をぽんと鳴らしました。 「はい、んじゃみんな夕食オッケーね。 じゃ、食事の用意してくるから、ちょっと待っててね」 そう言って食堂部屋に向かおうとするりずむ。 「りずむさん」 その袖をみなみは掴みました。そして… 「ん?」 目を合わせずに小声で呟くみなみ。 「ありがとうございました」 「どうしたの?」 「…なんとなく」俯いたままのみなみ。 「そう。 …よくわからないけど、役に立てたのなら嬉しいわ」 そういって肩にぽん、と手を置きました。 「…手伝います」 「うん」にこっと微笑んで肯くりずむ。 「あたしも手伝う」 「わたくしも」 「わたしも」 ほかの三人も相次いで声を上げます。 その時、猛ダッシュで私服姿のクレアが入ってきました。 「クレアも…!!手伝う!」 ふぁみは「うん」と肯きました。 「いっしょに、ね?」みゅうも微笑みました。 「うんっ!」 こえだは心底嬉しそうにしているクレアに、目をやりました。 (…) ***** 15分後、食堂部屋。 「いただきます」 五人のバラバラな、でも明るい声で晩餐が始まりました。 お喋りをしている五人とりずむ、それにチュチュ。 メニューは肉じゃがと鮎の塩焼き、ポテトサラダと、生姜多目の魔女スープ、他諸々。 魔女スープを口にするみなみ。 (あ) そんな時、みなみはポツリと呟きました。 「…生姜」 「ん?」そんなみなみを見るりずむ。 「おかーさんが、あたしが風邪引いたときによく作ってくれた、 ハチミツ生姜汁思い出した」 「生姜汁って」ふぁみがその「生姜汁」を飲みながら呟きました。 「ああ、人間界でも生姜をお薬みたいに使うのね」 「んー…そうですね」みなみはそう言いながら、スープをまた一口、口に含みました。 「ちょっと違うかもだけど」 (あ、そうだ…みなみちゃんって…) 「そういえば、さっきお家に誰もいないって言ってたわよね」 りずむはパンをちぎりながら尋ねました。 「…母は、今海外です。いつ帰ってくるかはわかりません」 「何なさっているの?」そして小さく千切ったパンを口に運びました。 「画廊です。アフリカの絵とかを扱う…」 「へぇ」口許を手で隠しながら相槌をうつりずむ。 こくんとパンを飲み下してから、再び尋ねます。 「…お父さんは?」 「陶芸家です」 「お父さんも家に居られないの?」もう一度パンを手に取りました。 「いますけど、いないのと同じです」何の躊躇いもなくそう言い放つみなみ。 (?)手をとめ、みなみの顔を見つめました。 「どういうこと?」 「お仕事に集中していると、アトリエにこもりっきりになっちゃって」 「そう」ゆっくりと、パンをちぎる動きを再開します。 「おとうさんかぁ」そんな二人をじっと見ていたクレアが呟きました。 「?」六人の視線がクレアに集まります。 「くれあ、魔女だからおとうさんいないの」 「あ」みなみがクレアを、少し申し訳なさそうに見つめました。 その視線に気付いたクレアは慌てて、 「あ、あー、でも寂しいとかそんなのじゃなくって。 ただどんな感じなのかなーって」えへへと笑うクレア。 みなみはその笑い声にかぶせるように、俯いて呟きます。 「あたし、お父さんは好きじゃない」 「え?」えへへという口の形のまま、クレアはみなみを見ました。 「あたしと似てるから、なんとなく。 だから好きじゃないの」 「…よくわかんない」理解不能という表情のクレア。 そんなクレアの顔を見たみなみは、冗談めいた口調で、 「あー…自分で言っててあたし自身よくわかってないから」 と、自嘲的に微笑みました。 そして魔女スープを一匙。 その瞬間、クレアの手の温もりを思い出しました。 (温かさも、冷たさも感じたこと…ない) 「そう… …おとうさんとは、『こころが擦れあわない』の…」 と、小さな声で呟きました。 「…」 そんなみなみの唇の動きを黙って見つめるクレア。 ふぁみは肉じゃがを小皿に取り分けながら呟きました。 「そっかー… でも、あたしはお父さん好きだよ。 優しいし、お花のこととっても知ってるし」 「ふぁみちゃん家ってお花やさんよね」とみゅうが尋ねました。 「うん。そうだよ」と、取り分けた肉じゃがを頬ばります。 「へえ、そうなの…」 そんなふぁみの顔を見つめながらりずむは呟きました。 (そういえばどれみちゃんもお花好きだったなぁ…) そしてもう一度ふぁみの顔を見つめます。 (血、ひいてるんだな…やっぱり) 「? りずむさん?」 自分の顔をじっと見つめられて怪訝そうなふぁみ。 「あ、なんでもないわ。 あまりに肉じゃが美味しそうに食べてたから」 「やっだもうりずむさんったらぁ、あはは」 少し恥ずかしそうに笑う顔。 それもまたどれみちゃんに似ている。 (血、か…) 不意にふぁみが尋ねます。 「そういえば、りずむさんの水晶玉ってどんなのですか?」 「え?急ね。 …見る?」 「はい、っていうかどこにしまってるんですか?」 「ここよ」りずむは胸を指差しました。 「おっぱい?」みなみはこともなげに尋ねます。 「おいこら」ふぁみは冗談めかした口調でみなみをたしなめました。 「…んなわけないでしょう」りずむは右手を前に差しだし、ぱちんと指を弾きました。 「強いて言うなら、心の中、かな?」 すると、右手の上に、薄いミントグリーンの水晶玉が、ふわりと浮かび上がりました。 「結構大きい…」 「これじゃ首から下げられないよね。 っていうか胸に挟…むこともできないか」 「さっきから何を言ってるんだおねえちゃんは…」ふぁみは半ば諦め顔で呟きました。 「…ええ、そうねぇ」水晶玉を胸の上に乗せ、挟むふりをして見せるりずむ。 「首から下げるには大きいわね」 「…りずむさんも素で返したらダメです」 ふぁみはまた、もうやる気ないという感じで呟きました。 「あれ?でも…」みゅうが何かに気付きました。 表面に無数の傷。 その中の一つは大きく、まだはっきりと残っています。 「傷だらけですわね…」こえだがちょっと眉をひそめました。 じっとその傷を眺めるりずむ。そして 「あはは、いろいろあったから」と、感情のこもらない笑い声をあげました。 「りずむさん…」クレアはりずむの顔を見ました。 りずむは肯定するように、少し目を伏せ、そしてクレアの目をまた見据え、微笑みました。 (禁断魔法…) りずむは、ハナが三年前、禁断魔法でどれみを蘇らそうとした時のことを思い出しました。 (そう、あの時に…) そしてそっと胸に手をやりました。 今も残る、水晶玉の傷。 ハナがお別れをした後、どれみの家族達にもお別れの時間をとらせてあげようと、 人間界全体の時間をほんの少しだけ巻きもどした時に使った魔法で、できた傷。 「私には、何をしてでも守らないといけないものがあるからね…」 ぼそっと呟きます。 「へぇ、かっこいいなぁ」みなみは感嘆の声をあげました。 「じゃあ、それを守るためなら…」 「ええ。いざとなったら…ね」 そういいながら左手の中指ででパチン、と水晶玉を弾きました。 それに応じてほわっと光が放たれます。 (だからりずむさんの水晶玉ボロボロなんだ…) ふぁみはりずむの表情をしげしげと見つめます。 「なんかかっこいいなぁ…」 「え?」りずむが少し驚いたようにふぁみを見ました。 「同感ですわ」 「そんな…」りずむは恥ずかしそうに頬を掻きました。 そしてずれてきていたメガネを直します。 「で、りずむさんの守りたいものって?」 みなみは唐突に尋ねました。 「ん? …それはね、秘密」 「魔女界とか?」 「それもあるわね。でもそれ以上はなし。ないしょ」 と、りずむは時計に目をやりました。 6時52分。 「あ、いけない。 私今日、8時までに魔女界に行かないといけないのよ。 だからちょっと準備しなきゃなんだけど…」 「あ、それならくれあが夕食の片づけしときますー」 「あたしも手伝うから大丈夫よ」と、たくわんをポリポリ言わせるチュチュ。 「わたしたちも」とみゅうも手を挙げました。 「そう。んじゃお願いできるかな」 りずむはまたにこ~っと笑ってクレアに言いました。 「あ、例のアレは帰ってきてからね」 「は…はい」本気で緊張するクレアに笑う他の四人。 そんな四人に、 「それじゃみんな、明日もよろしくね」 と、りずむは手を振ると宿舎部の方へ走っていきました。 「はぁい、りずむさんもお気をつけて…」 たったったっという足音が遠ざかっていきます。そして扉が閉まる音… 「…行っちゃったね」 「うん」 「あたしらはゆっくり食事しましょー」 そう言いながらも物凄い勢いで肉じゃがを食べ始めるチュチュ。 と、その途端、宿舎部の方から「きゃあ」という声と、どすんという音。 「…転んだね」とふぁみ。 「大丈夫かしら?」心配そうなみゅう。 「大丈夫よ、あれぐらいの音ならいつものことだし」とチュチュ。 クレアも肯いています。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
Nov 26, 2006 07:38:35 PM
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