カテゴリ:未来の石板2
帰り道。
クレアとみなみは一言も交わさずに、川沿いの道を歩いています。 やがて、路地に入り、そして見慣れた通学路を横切り… 二人とも黙ったまま、ゆっくりと。 でもMAHO堂での沈黙のような不快なものではなく、心地の良い沈黙。 温かい静けさ。 そんな時、突然みなみは口を開きました。 「…クレアちゃんは、魔女」 「ん?」驚いたように目を少し見ひらくクレア。 数呼吸おいて、また呟きます。 「…あたしは、人間」 「…」今度は少し目を伏せます。 そんなクレアを、みなみは横目で見ました。 「前にも言ったよね。 魔女と人間とはぜんぜん違うって、ふぁみが」 「うん」小さく肯くクレア。 みなみは急に足を止めました。 「…あたしもそう思う。でもね」 目を閉じ、すーっと息を吸いました。 「今、あたしらは一緒にいる。 そのことだけでも、奇跡に近い」 「んー…そだね」クレアは少し考えてから、肯きます。 「で、こうやって手つないで、歩いてる」 「うん」今度はすぐに。 「これも、奇跡だよ」みなみは少し潤んだ目を細めます。 「…うん」そして今度は半呼吸置いて、小さく肯きました。 「で…ケンカして、たぶん… 仲直りできた」 一言ずつ、ゆっくり区切って、噛みしめるように呟くみなみ。 「みぃちゃんとは、できた…かな」みなみから目を逸らし、 小さな声で少し恥ずかしそうに言いました。 「うん。 これって、なんにせよ… 心が触れ合って、こすれあって…ちょっと痛かったってことでしょ?」 「だね」にこっと微笑むクレア。 「ここに、魔女と人間との違いなんて…なんか関係してる?」 「してない」クレアはゆっくりと首を横に振りました。 「でしょ?…そういうこと」 クレアはみなみの顔をじっと見ました。そして 「よくわかんないけど、わかったような」 みなみはクレアの言葉を聞くと、自分を見つめる瞳に視線を合わせ、 少し目を見開きました。そして、いつもよくする、苦笑の表情。 「自分でも、何言ってるのかよくわかんないよ、 あはは」 「うふふ」その表情に安心したクレアも笑いました。 「あ~あ…」 二人して見上げる夕焼け空。 あれだけ分厚かった雨雲もだいぶ薄くなってきています。 浅い夕暮れ。 「…でもさ、そのワガママは直さんといかんよ」 普段通りのあんまり抑揚を付けない口調で、ぼそっと呟くように 短い言葉で、でも心を込めて諭すみなみ。 「…」クレアは声に出さず肯きました。 ・ ・ ・ おおよそ5分後。 「そろそろMAHO堂だね」 MAHO堂の庭に生えている大きな木が見えてきました。 「うん」 みなみは、そう返事するクレアの掌がじっとり濡れてきているのを感じました。 「クレアちゃん、緊張してる?」 「え?なんで!?」心を読まれたかと思い、みなみの顔を見上げるクレア。 「…大丈夫」みなみはそう言って微笑むと、その手にきゅっと力を込めました。 「みんな、いい奴だから。 謝ったら許してくれるって」 (ふーん…) 近くの家の屋根から二人を見下ろしているチュチュ。 (無事ご帰還ね。 りずむに報せなきゃ) そう呟くと、すぅーっとMAHO堂へ戻っていきました。 ***** 「ただいま」 「お帰り、チュチュ。偵察お疲れさま」 「偵察って。 あ、クレアちゃんとみなみちゃん、もうそこまで来てるからー」 「そう。みゅうちゃんたちは?」 「そっちは知らないけど、そんな遠くには行ってないはずよ。 …ん?」 チュチュはそういうと鼻をひくひくとさせました。 「…あ、夕食できてるんだ。ってかまた生姜使った?」 「ええ、よくわかったわね」 「好きねぇ、生姜」呆れ顔で呟くチュチュ。 「体あったまるからね。 …みんな雨で濡れたかも知れないでしょ?」 そう言ってくすっと微笑みました。 「あ、ということは」 「今日の夕食は三人分、プラス四人分」 そう言いながらスープの味見をするりずむ。 「あぁ」 チュチュも一緒に味見をします。 「…うん、おいしい」 「よかった」 「でもさ」チュチュは乱れた髪を手櫛で整えながら言いました。 「…もうだいぶ前に雨止んでるよ? ちょうどクレアちゃんが出てくくらいの時に」 「えっ!?」真顔で驚くりずむ。 「窓の外ぐらい見なよ」 チュチュがため息まじりに言ったちょうどその時。 からんころん… 「あ、誰か帰ってきたみたい」 りずむがぱたぱたと出ていって見ると、MAHO堂の玄関にはみゅうとふぁみ、 そしてこえだが立っていました。 「見つかりませんでした…」 「ほんとにマジカルステージ効果あったの?」 「心配ですわ」 りずむはくすっと笑いました。 「大丈夫よ。 …ほら、後」 「え?」 ふぁみが後を向くと… 「ただいま」 「…ただいま」 みなみと、みなみの後に隠れているクレア。 「おねーちゃん」 「みなみさん」ふぁみとこえだは、みなみの所に駆け寄りました。 「見つけられたんだね、クレアちゃん」 みなみはふぁみの頭にぽん、と手を置きました。 「うん、ありがとね」 「え?」どういうことか分からず、きょとんとしてみなみの顔を見ました。 「何か魔法使ったんでしょ?」 苦笑いを浮かべるふぁみ。 「あー…ばれてたの?」 「うん。モロ」 「おねーちゃんは何でもお見通しだぁ…」 ふぁみはそう言いながら、頭に置かれたみなみの手にそっと触れました。 「…」クレアはきまり悪そうな顔で、みなみの周りに集まっている三人に目をやりました。 「ん?」そんなクレアと目が合ったみゅう。にっこり微笑み、 「クレアちゃんも…おかえりなさい」そう言いながらクレアの頭を撫でました。 「う…」クレアの目からは涙がぽろぽろこぼれ落ちます。 「みゅうちゃん、ふぁーちゃん…けーちゃん…ごめんね」 そう言うのが精一杯でした。 「わたしもごめんね、クレアちゃん」 「あー…もういいよ。 あたしらのせいでもあるんだからさ。ごめんね」 バツが悪そうな表情のふぁみ。 「クレアさん、ごめんなさい」 「ひとりぼっち、さびしいもんね」そうみなみが語り掛けると、 クレアは声を上げて泣きはじめました。 そんなクレアをじっと見つめていたりずむ。不意に、 「…クレアちゃん、少し雨に濡れたみたいね。着替えてらっしゃい」 りずむはチュチュに目くばせします。それに肯いたチュチュは、 「いこっ」とクレアを引っぱっていきました。 「…じゃあ着替えてきます」 「はい」感情を込めずに、短く返事をするりずむ。 りずむの脇を通りぬけるとき、 「りずむさん、ごめんなさい」 クレアは見上げてそう言うと、ぺこりと頭を下げました。 「うん、あとでゆ~っくり、教育的指導をするからお楽しみに」 にこ~っと笑ってクレアの頭を裏拳で、軽くこつんと叩きました。 「さ、あなたたちも」 そして四人をMAHO堂の中へ迎えいれました。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
Nov 26, 2006 07:39:09 PM
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