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ひみつの裏庭

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Dec 16, 2006
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カテゴリ:未来の石板2

「女王様、お疲れさまでした」
会議室から出てきたハナとマジョリカ、ユキを迎え一礼するりずむ。
「マジョリズム、御苦労様です」
そういって微笑むハナ。

「…休憩じゃ、わしはラウンジにおるでの」
「女王様、また後で」
マジョリカとユキはそれぞれ一礼すると去っていった。
「ええ、後で」ハナはそれに短く答えると、二人の背中を見送った。
「…では、行きましょうか、りずむ」
「はい」

*****

一旦女王の居室に引きあげてきたハナとりずむ。
「お疲れさまでした」
居室手前の事務室では秘書のテキとテキパキが書類の整理をしている。
ハナを見ると立ち上がり、一礼した。
それに肯き答え、りずむと共に居室に入っていった。

「ふぅ…」そう言いつつヴェール付きの額冠を外し、机の上に置いた。
そしてマントの紐を解いた。
「女王様」そう言うと、りずむはハナのマントを預かった。
「…今はハナでいいわよ」振り返り、微笑むハナ。
そのハナの目に力がないことを見てとったりずむは、心配そうに尋ねた。
「ハナ様…お疲れですか?」そして枝を模したマント掛けにマントを引っ掛ける。
「そう見える?」
「はい」

ハナはふふっと笑ってから、ゆっくりとソファーに腰かけた。
「疲れてはないけど…ちょっと考えが纏まらないっていうか、ね」
(やっぱり、調子悪そう…)りずむがそう思った瞬間、
「そうね、絶好調ってわけじゃないわね」
とハナはにっこり微笑んだ。
「また心を…」困ったような、恥ずかしいような表情を浮かべるりずむ。
ハナは首を横に振って、りずむの発言を否定した。
「ううん、心を読んだ訳じゃないわ。
 …りずむの表情は読み取りやすいから」
「女王様…」気恥ずかしさのあまり思わずそう呟いてしまうりずむ。
「はーなっ。
 でもね、…」
ハナは手招きをした。
「?」
「ここに座って」
指でちょんちょんと自分の隣を指し示すハナ。
「?
 失礼します」
りずむはそこにそっと腰かける。

「…」
りずむの肩にもたれ掛かるハナ。
「甘えられる人がいるって、安心できるなって」
「いきなり、なんですか…」
困ったような口調で、でも慈しみを込めて非難の声をあげるりずむ。
ハナはそのままの体勢で尋ねた。
「これって、『愛』?」
「へ!?
 さ…さあ、どうでしょうね?」
突然の言葉に驚きながらも、りずむは意地悪く突きはなす。
ハナはそれを無視して呟いた。
「…たぶん、愛だと思う。
 おとこのひとを好きになるってのとは、ちょっと違うっぽいけどね。
 たぶん、ママとか、そんな感じの」
「んー…母性愛ですか」
「うん」
ハナは目を閉じた。
「…でもこれも愛、だよね。やっぱり」
「そうですね」
そう言うと、りずむも目を閉じた。

ほんのりと色付く空。
しかし二人は気付かない。

しばらくして、不意にハナは尋ねた。
「…ということは、私りずむを憎めるの?」
「えっ?」
あまりな質問に耳を疑うりずむ。

「さっきからずっと考えてたんだけど…
 人を好きに…愛していたのが、憎しみに変わるのって、
何が原因なのかなぁ…とか」
熱っぽい気だるさを湛え、自分を見上げているハナの瞳。
それを逸らすように静かに目を閉じ、少し考えてからりずむは答えた。
「…人それぞれ…ではないでしょうか。
 あまり答えになっていませんけど」
「そっか…」再び目を瞑るハナ。
「マジョドンって、昔人間を好きになって、裏切られて、人間嫌いになったのよね」
「そう聞きました」
「深すぎる愛が、深すぎる憎しみに変わった」
「…ええ。トゥルビヨン様も」
「うん」小さく肯いてから、声を少し落として尋ねるハナ。
「そうすると、憎しみって、愛の裏返し…?」
「うーん…そうですか…ねぇ?」
「でも、愛が無くても、他のひとを憎めるのよね」
「その場合は…自分を愛している…ってことじゃないでしょうか?」
自信なさげに呟くりずむ。
「…私にはよくわかりませんが」
「私にもわからないよ…」
「人間に聞いてみないと、ですね」
「そうだ、元老院の中に人間入れてみる?」ハナは冗談めいた口調で提案した。
「また無茶な」あはは、と苦笑した。
「だよね」
顔を見合わせて笑う二人。
「マジョユキ様にでも尋ねて…」

その時、部屋の扉がノックされた。
「女王様」

「…もう時間?
 みたいね」
ハナはそう呟くとりずむから離れ、少し乱れた前髪を整えた。
りずむもさっと立ち上がり、ドアの方に向かった。
「はい、どうぞ」
入ってきたのは秘書のテキとテキパキ。
「そろそろ会議が再開されます」
「お支度を」
親のモタ・モタモタと違い、
仕事が速いというか、少しせっかちな性格である。

部屋のクロックフラワーを見ると、一つは完全に開ききり、
もう一つも半分ぐらい開いていた。

「まだ時間は少しあるけど…そうね」
ハナはそう言うと机の上の額冠を着け立ち上がった。
その背中に、りずむは手にしたマントをさっと掛けた。
「ゆっくり、歩いていきましょう」
「ええ」マントの止め金を衣に引っ掛けながら、ハナは肯いた。
「…それじゃ、行ってくるわ」と、きゅっと紐を結んだ。
「はっ」はさっと敬礼し、二人を見送るテキとテキパキ。

*****

会議室へ歩いていく二人。
不意に、
「少し、冷えるわね」ハナが呟いた。
「え?」耳を疑うりずむ。
「なんか寒くない?」
「はい」心配そうにハナを見つめる。
「そう…」
「熱でも?」
りずむは失礼します、とハナのヴェールをめくり、額にそっと手を当てた。
「ないわよ、熱は」ハナは小声で言った。
「ですね」
りずむはそういうと、指を弾いて肩掛けを取りだした。
「じゃあ…ハナ様、これを」
そしてハナを包むように肩に掛けた。
「どうですか?」
ふわっと漂う、少し饐えたような甘い香り。
仄かにジンジャーとカモミールの香りも混じっている。
「…りずむの匂いだ」
ハナはポツリと呟いた。
「あ、すみません。長い間洗ってなかったから…
 臭います?」
ハナは首を横に振る。
「…暖かいから、いい。
 ありがとう」
「そうですか」ちょっと恥ずかしげな笑みを浮かべるりずむ。

肩掛けの両端をギュッと握り、ハナは呟いた。
「…霜がやってきても、氷が堅く張っちゃっても大丈夫。
 りずむが側にいてくれるから」
「はい?」
「…何にもない。じゃ、後でね」
ハナはそう言うと会議室に入っていった。

「霜と氷…?」
(何だろう…)
りずむはそんなことを考えながら、資料室へ消えていった。





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Last updated  Dec 16, 2006 09:41:51 PM
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