カテゴリ:未来の石板2
「ピーリカピリララポポリナペーペルトっ! ステーキよ…出ろっ!」 ぼわん! 薄桃色の煙と共に現れたのは、ステーキの絵。 「まただぁ…」 うなだれるふぁみ。 既に6回目。 ステーキの写真が3回、絵が2回、食品サンプルが1回。 「なんでダメなんだろう…」 ふぁみはため息まじりにポロンを眺めます。 今日もらったばかりのポロン。 少し古びて、傷もあります。 (前に使ってた子って、どんな子だったんだろう) 蛍光灯の光に透かしてみながら、いろいろ想像します。 (魔女になれたのかな? 魔法上手だったのかな?) 「ペペルトポロン、って言ったっけ…?」 ふぁみはその時気付きました。 「あ」 魔法玉を使い切ってしまっていることに。 「あちゃー… これじゃ練習できないじゃん…」 勉強机の上の写真立ての中から そんなふぁみを優しげに見つめる、年老いた女性。 「はぁ~あ…」 と大きなため息をついた瞬間、 ドアをノックする音が。 「!」 ビクッとドアの方を振り向くふぁみ。 「おーい、ふぁみ」 ドアの向こうから声が聞こえます。 「さっきからピリ辛ピリ辛うるせぇよ」 「げっ」 手にしたポロンをベッドのふとんの中に隠しました。 「あ、ご…ごめん陽兄ぃ」 「俺勉強してんだからさぁ… 入るぞ?」がちゃっ。 (え?入ってくる!?) と思う間もなくドアが開きました。 「こ…こら勝手に入って来ちゃダメっ!!」 と非難の声を上げると同時に、部屋に入ってくる兄の陽介。 目が合いました。 ふぁみは見事に見習い服のままです。 「…」 「…」 (あー…やばいかも) ふぁみの背中をつーっと冷や汗が一筋流れます。 「何してたんだお前?…ってその格好なんだよ」 薄いピンクの見習い服を着たふぁみを見て、陽介は呆気にとられています。 「何でもいいでしょ、ほっといてよっ」 顔を真っ赤にして何故か胸を隠すふぁみ。 「ガキみてーだな」 「るっさいなぁ! っておにーちゃんだってガキじゃんか」 と口を尖らせるふぁみ。 「やっぱガキだな」ふぁみの姿をじっと見る。 「何よ…っていうか早く出てってよ!!」 開きっぱなしのドアの外を指差すふぁみ。 「なんだよ、ピリ辛言ってるからカレー味の持ってきてやったのに… ほれ」 そう言って隠し持っていた激辛カレー味のポテトチップスを示しました。 「え? あ…ありがと」 「やろうかと思ったがやめた」 陽介はぷいっと取り上げました。 「え?なんで!?」 「態度が悪い。 だから」 そう言って陽介はその袋を開けようとしました。が… 「…一人で食…ん?」 「開かな…」 力任せに引き破ろうとする陽介。当然の如く、 「うわっ!!」 思いっ切り中身をぶちまけてしまいました。 「ちょ…おにーちゃん?」 「あ~あ…やっちまった」 陽介は袋の中に残ったのを落とさないようにテーブルの上に置きました。 「全く…何やってんのさぁ」 呆れ顔で呟くふぁみ。 「…うっせぇ」 陽介は顔を真っ赤にして怒りながらも床に散らばったポテトチップスを拾いあつめます。 「ドジなんだからさぁ、陽兄ぃは」 笑いながらも手伝うふぁみ。 「お前には言われたくねぇよ」 「まあきょうだいだからね、似るのは当然だよ」 ふぁみは何気なく呟きました。 「……」 「…」 暫くの沈黙。不意に陽介が口を開きました。 「…ドジっていえばどれみばあちゃん似だよな、俺ら」 「…え?」その顔を見るふぁみ。 「ばあちゃん、天国行くまでドジだったもんな」 懐かしそうにふぁみの机に置いてあるふぁみとどれみの写真に目をやりました。 「…うん。よく転んでたし」 そう肯くと、手を止め、その写真を見つめるふぁみ。 「どれみおばあちゃん、か」 (もう三年…) さっきより少し重い沈黙。 (…) そんな時、陽介は再びふぁみに話し掛けました。 「…っていうかさぁ、お前」 「?」きょとんとした表情で陽介を見るふぁみ。 「スカート履いてる時ぐらい、脚閉じろよ」 「…え?」ふぁみは自分のスカートの裾を覗き込みました。 「あ!?」慌てて脚を内股にしてスカートを押さえます。 「丸見えなんだよ」 陽介のその言葉に顔を真っ赤にして大声を上げます。 「な…このへ…ヘンタイ!!」 「変態っていわれてもなぁ…」そう言って頭を掻きました。 「…つーか、漫画かなんかの服なのか?それ」 と陽介はふぁみの服を指差しました。 「へ?」ギクッとするふぁみ。 「い…衣装?」と、上擦った声で答えます。 「へぇ。何の?」 「ま…」 と言おうとしてあわてて口を噤みました。 「ま…まぁ…あ、妖精妖精」 「へー…劇かなんかか?」 「う…うん。そうそう」 かくんかくんと何度も首を振るふぁみ。 陽介はぼそっと呟きました。 「全然似合ってないな」 「ほっとけ!!」 そんなふぁみの怒鳴り声を無視し、陽介は視線を下に落とします。 そしてため息まじりに 「…っていうかお前気ぃ抜いたらすぐ脚開くのな」 陽介は再び指差します。 「!? ほっといてよ!」 ふぁみは裏返った声で非難しながら、 再びスカートを手で押さえました。 「…っと。 よし、大体片づいたな」 そういうと陽介は立ち上がりました。 「部屋汚して悪かったな」 「うん」こくりとうなづくふぁみ。 「めちゃ悪かったよ、ほんと」 冗談とも本気とも付かぬふぁみの冗談に憮然としつつも、 「…じゃあ、おやすみな」 そう言って部屋を出て行こうとする陽介。 そんな背中に向かって、ふぁみは微笑みかけました。 「うん、おやすみ。 おにーちゃん、勉強がんばりなよ」 (…) 少し振り向き、笑顔を浮かべて、陽介は肯きました。 「おう。 …お前も練習がんばれよ」 「えっ?」ビクッとするふぁみ。 (魔法、バレてた!?) そんなふぁみを不思議そうに見ながら尋ねます。 「? いや、劇なんだろ?」 「あ…ああ、そうそう。頑張るよ」 小さく肯くと、陽介はふぁみの部屋のドアを閉め、 自分の部屋に戻っていきました。 「…」 陽介の部屋のドアが閉まる音を聞き届けると、 ふぁみは「ふぅ…」と一息つきました。 ふとテーブルの上を見ると、陽介が残していった激辛カレー味のポテトチップス。 一枚手に取りました。 「真っ赤っかだ」 一口パクッとかじってみました。 最初、ほんの少し舌を刺す辛さ。 「なんだ、激辛ってあんま辛くな…」 そこまで呟いた瞬間、強烈な辛さがふぁみの舌を突き刺しました。 「か…辛っ!」 舌を出して犬のようにハァハァしながら刺激に堪えようとするふぁみ。 「マジめちゃ辛いじゃんかこれ!」 涙目になりながら手で舌を扇ぎます。 もちろんこんなことで刺激がおさまるわけがありません。 「水!水!」 机の上に置いてあったミネラルウォーターを口に含み、 そして冷やし癒すようにゆっくりと、しかしがぶがぶと飲みました。 ***** 「ふぅ…酷い目にあった」 しばらくして落ち着いたふぁみ。 見習い服から部屋着に着替え、机の前でぼーっとタップを見ています。 「やっぱあたしってドジだよなぁ…」 ことん、とタップを写真立ての前に置き、ふぁみは一人呟きました。 「魔法も下手くそだしさ」 写真立ての中で微笑む祖母。 「ね?おばあちゃん」 机に突っ伏して写真に話し掛けます。 「でもね、あたし魔女見習いになれたんだよ。 おばーちゃんの言ってた通りだよ。 魔女って…本当にいるんだよ」 そういうとふぁみは写真立てを手に取りました。 そしてぎゅっと胸に抱き、呟きました。 「見ていておばあちゃん。 あたし、立派な魔女になるから。 そして…」 (その時は… あたし、たぶん… …ううん、ぜったいに強くなるから) もう一度、写真を見つめました。 肯いたような、そんな気がしました。 (うん) ふぁみもそれに肯きかえすと、 写真立てをそっと元の位置に戻しました。 「おやすみなさい、どれみおばあちゃん」 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
Dec 24, 2006 12:08:39 AM
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