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ひみつの裏庭

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Dec 27, 2006
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カテゴリ:未来の石板2
*****

辺境の岩山。
(…パルフェ様の会議、まだ続いてるのかしら)
再び「魔女の爪」を採りにきたルナ。
既に採取を終え、女王城目指しほうきを駆っている。
「魔法ラズベリーも採ったし」
リリの大好物。そしてルナ自身も好きな魔法の果物。
真っ赤な果実。

(赤か…)
ルナはパルフェの真紅の瞳をまず思い出した。
そして…
(あの魔女の髪)
パルフェは以前このあたりで見た三人組の魔女を思いだした。
(いるかしら、今日も)

その時冷たい風がルナに吹きつけた。
「寒っ…」
マントの襟元に顔を竦め入れた。
(嘘でしょ?今の時期の風じゃ…)
もう一度吹きつける、冷たい風。
(でもなんか変ね…)
しかし肌を切り裂くような力は無い。

(ただ、寒いだけ)
まるで風の精の息吹が感じられないような、ただ動いているような風。

「…
 ああ、そういうことか…」

ルナは一つの事実に気がついた。
そしてほくそ笑む。
(ハナの力が衰えてきているから…か)
小さく声に出して笑う。
「だんだんと面白いことになってきたわ…」

ぼそっと呟いたその途端、下の方で爆発音が聞こえた。
「ん?」
鳥たちが数十羽、ばさばさと音をたて飛びたった。

(あの魔女達…か)
そう言うと、ほうきの柄を握る左手にほんの少し力を加えた。
(まだ時間はあるわね…)
ルナは細い煙が上がっている方へ向かった。

*****

ガブガブの森に聳える、小さな岩山の南麓。

(いたいた…)
少し離れた木の枝の上に腰かけ様子を窺う。

前と同じ白・黒・赤の髪をした三人の魔女。
黒コゲのガブガブを解体している。

(またガブガブか)
木の幹にもたれながら、三人の行動をじっと見つめている。

「ふんふふ~ん♪」鼻歌交じりでガブガブを切り裂く赤い髪の魔女。
「ルビィ、あんた何が楽しいの?」
ばらしたガブガブの破片を、次々と魔法で小さくしながら、
感情のこもらない声で尋ねる黒髪の魔女。
「んふふ~♪」
鼻歌か笑い声か分からない声を上げながら、最後の一切れを切り裂いた。

「…だって、お客さんきてるし」
微笑みながら魔法のナイフをベルトの鞘に収めた。

(…)ルナは少し息を詰めた。

「ええ、そうね」
白い髪の魔女がルナが腰かけている木の枝の方を見た。
「…前の魔女さんね」
その声に黒い髪の魔女もルナのいる方を向いた。
「出てきたら?そんな所にいないでさ」

(ふふ…なかなか)
ルナがさっと腕を払うと、風が体を掻き消した。
次の瞬間、ルナはその風を身に纏い、三人の前に現れた。

そんなルナに対して、三人は全くたじろぐ様子もなく、口々に呟いた。
「お客様?」
「何?」
「追っかけ?
 …それとも覗き?」
妖しげな赤い髪の魔女・ルビィの口調に苦笑しながら謝るルナ。
「うふふ…ごめんね、こそこそ隠れてて」
黒髪の魔女が首を横に振る。
「ううん、ってかあれで隠れてたつもりなの?」
「言うわね…」
ルナもそれに応じ、口の端を歪ませた。
「…ま、いいわ。私はマジョルナ」

三人は顔を見合わせた。
それから白い髪の魔女がにこっと微笑んだ。
「私はアルベド」
「ニグレド」じっとルナの目を見据える黒い髪の魔女。
「ルベドよ」ウィンクして名乗る、赤い髪の魔女。

ルナは訝しげな表情で三つの名前を反芻した。
「アルベド、ニグレド、ルベド…?
 それって…」
「私たちの名前」ニグレドが無表情なまま答えた。
「髪の毛の色よ、そのまんまだけど」アルベドが自分の白髪を指差しながら答えた。
「ああ」ルナは肯いた。
「別に黒・白・赤でもいいんだけどねっ☆」ルベドはウィンクしながら答えた。
「そう。シュヴァルツ・ヴァイス・ロットでも」アルベドは目を閉じて呟いた。
「あたしはノワール・ブラン・ルージュの方がよかったんだけどね」
ニグレドは、セリフとは裏腹に無関心丸出しの口調でそう言い捨てた。
「…っていうか、名前なんて私たちにとってはどうでもいいの」
「名前なんて、もともと無いんだから」アルベドは少し悲しそうに呟いた。
「普段はね、ニグ・アルビィ・ルビィって呼んでるんだよ」と言いながらルベドは
二人に抱きついた。
「暑苦しい」露骨にイヤな顔をするニグレド。
「うふふ」困ったような笑みを浮かべるアルベド。

「で、何?
何の用?」抱きつかれたままのニグレドが、冷たい声で尋ねた。
「別に。前に見掛けたから、ちょっと気になってね。
今日もいるかなーって思ったら…」
ニグレドの金色の瞳を直視した。
「いた」ニグレドは感情のこもらぬ声で呟いた。
「ええ」肯くルナ。
「そう」顔の筋肉を緩めることなく、そう呟く。

「なんか爆発させてたみたいだけど、何してるの?」ルナは三人に尋ねた。
「ごはんを狩ってたの」ルベドはにこっと笑った。
「っていうか、あなたはこんなとこで何してるの?」
(…)ルナは少し考えてから、バスケットを取り出し、
中に入った魔法ラズベリーを見せた。
「これ、取りに来たの」
「魔法ラズベリーか」ニグレドは一瞥して呟いた。
「ええ」
「このあたり多いですからね。…んー…」アルベドは辺りを見回す。
「ほら」そして指差した。その先には鈴生りの赤い実。

「あたしは酸っぱいからあんまり好きじゃないけどね」
ルベドはすっぱそうに口をすぼめた。
「ジャムなんかにすればおいしいけどね」

その時近くで聞こえる、ガブガブの呻り声。

「ガブガブ」そういって、呻り声がした方を指差すルベド。
「ええ、行きましょう」ニグレドも肯き、ルナをチラッと見た。
「そうね。
 …じゃあね、お仕事中失礼したわ」
ルナはその視線に気付き、ほうきに跨った。

「ええ、それじゃ」
ニグレドはルナから視線をはずさずに言った。
「ばいばい、あたしの追っかけさん」ルベドは軽く手を振った。
「お気をつけて」
アルベドは優しい口調で、しかし警戒していることを隠さずに別れの挨拶をした。
「ええ」三人の顔を順番に見ながら、ほうきに魔力を込め、一気に駆け上がった。
下を見ると三人の姿はもう見えない。

(アルベド、ニグレド、ルベド…か…)
「でも、あの三人…」
(不自然なほどくっついていた)
アルベドとニグレドに、嬉しそうに抱きつくルベドの顔が思いうかんだ。
「…変な趣味でもあるのかしら。それとも…」
下卑た想像をしてしまったルナは自嘲的に笑った。
「ふふ…まあいいわ。
それじゃパルフェ様の所に…」
そう呟くと、柄を握る左手に魔力を込めた。


*****
一方これより少し前、女王城。

既に会議は再開されている。

「…でありますので、元老の方々の定員を削減すべきであるように思います」
マジョリカはこう述べ終わると、一礼して席についた。
マジョサリバンはそれを横目で睨んだ。と、ほぼ同時にマジョドンが激昂した。
「マジョリカ!!お前は元老でも無いのに口を慎め!!」

(ふふ…好機、かな?)
パルフェはくすっと微笑んで、マジョドンを、そしてマジョリカを見た。
こちらの視線に気付かず、マジョリカを睨みつけているマジョドン。
マジョサリバンもマジョリカをじっと睨んでいる。
「何をおっしゃいます、マジョドン殿。
 私は先代女王様より現女王の補佐を嘱された身…
 この場における発言権はございますぞ?」
そうしてマジョリカは議長のユキの顔を見た。
「ええ」肯くユキ。
そんなマジョリカに対して、マジョドンは鼻で笑って吐き捨てた。
「虎の威を借る狐…いやカエルか…」
「おっしゃいたいことはそれだけでございますかな?」
真正面からマジョドンの目を睨むマジョリカ。
「マジョドン、少し言いすぎだ」
マジョリードは冷徹だが、ほんの少し怒りを込めた口調でマジョドンをたしなめた。
「マジョリカ、そなたの見解にも一理ある。
しかしやや性急のようにも思えるな」
マジョミラーはマジョリカにそう言った。続いてマジョハートも、
「もう少し詳しく説明してはくれぬか?」とマジョリカに説明を求めた。
「…そうでございまするな」マジョハートの言葉に少し萎縮するマジョリカ。

(煽らなくとも風はある、か)
パルフェは、憤怒の表情未だ冷めやらぬマジョドンを見た。

「…削減する理由につきましては、先ほども申しましたように…
 現在魔女の数が急激に増加しており、それに伴い…なんですかな…
 そうそう、システムも複雑化しております」マジョリカは一息ついて、さらに続けた。
「さらに人間界との交流も今後増えて行くでしょう。
 となれば、もはやたった8名の元老だけでは魔女達の要求を満たすことはできかねます。
 そこで元老院を廃し、人間界の方式を援用して…」
爆発しそうなマジョドンの表情を見ながら続けた。
「将来的にでございますが、議会制度を採りいれ、そこで元老の方々は
 それぞれの職掌に応じて大臣となっていただく…
 まあ、魔法使い界でも似たようなものがございますが」
マジョドンは発言が終わった途端に声を荒げた。
「ウソをつけ!
 元老院を破壊し、お主やマジョリズムら側近の権力を…」
「マジョドン様」マジョリカはため息をついて、辛辣な一言を放った。
「…マジョドン様こそ、経済界の利益しか考えておられぬのではありますまいか?」
みるみる顔が真っ赤になる。マジョドンは椅子を蹴って立ち上がった。
「何をぬかすかこのたわけめが!!」
マジョドンは水晶玉を取りだした。
「…お主、ケンカを売っておるのか?もしそうなら…」
「いいえ、ただ事実を述べているだけで」
「マジョリカ…」
「マジョドン!!女王陛下の御前であるぞ!」マジョハートはマジョドンを一喝した。
ハナはそれにこくんと肯き、マジョリカをたしなめた。
「マジョリカ、言いすぎですよ。
 マジョドンも、落ち着いて」
それでも怒りがおさまらないマジョドン。
「女王様、私はこんな元魔女ガエルに侮辱されたのですぞ?」
「魔女ガエルを悪く言うものではないぞ、マジョドン」
マジョリードは少し怒りを含んだ声でマジョドンに注意した。
「…すまぬ、マジョリード。
しかしな、こやつは…」
マジョハートはマジョドンの言葉を打ち消すように続けた。
「先ほどもリードが言っておったが、人間界の制度を我々魔女界にそのまま用いるのは
 如何なものか、マジョリカ」
そう言ってマジョリカを見る。ハナの姿がその視野の片隅に入った。
「マジョハート様、そのあたりはこれから詰めていかねばならぬ所であります。
 ただ、元老の方々の職掌を見てみた場合、著しい偏りが見られます」
ふむ、と肯くマジョハート。
「それはそうだな。私は医者。
 マジョスローン様は博物館長、マジョドンは魔女問屋の元締め」
そして不機嫌な表情のマジョドンに目をやりながら続ける。
「…マジョサリバンは試験官魔女長、幼稚園園長のマジョミラーに、図書館長のマジョリード…」
不意にマジョドンと目が合った。マジョドンはその視線をすっと外す。
「…そしてマジョプリマは芸術院長、マジョパルフェは留学生センター長…
 明らかに文教方面に偏りがあるからな」
「はい。
 私も早急に結論を出せと申しておるわけではありませぬ」





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Last updated  Dec 27, 2006 09:52:11 PM
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