小鳥の寝坊
小鳥たちの囀りも未だ聞こえぬ、静かな朝。「う…ん…」マジョパルフェはゆっくりと目を開けた。強烈な朝焼けの赤。その光を、それ以上に赤い瞳で受けた。眩しそうに目を細める。目を細めたまま、時計を見た。「…寝坊したか」小さく溜め息をつく。頭を掻きながら隣に目をやると、仰向けで眠っているマジョリズム。「まだ眠ってる…」彼女は悪戯っぽくそう小さく笑うと、すーっと小さな寝息を立てるリズムの鼻をグリグリと押さえ付ける。「ふ…ふわ…」マジョリズムは苦しげな声を上げた。しかしまだ目は覚まさない。パルフェはその広い額をじっと見つめる。「…」(おでこ)パルフェは突然リズムの広い額を叩いた。ぱちん、という軽い音。「!? ふゃ」びっくりして目を覚ますリズム。「おはよ」何事も無かったかのようににっこり笑う。「…」リズムは、額をさすりながらそんな彼女を寝惚け眼で見た。「んー…」焦点の定まっていない目。近眼で、しかも寝起きなので当然である。「… …あ、おはよ」やっと気がつく。「おはよ」もう一度にこりと笑って挨拶を返す。「あれ?なんで私パルフェの所で寝てるの?」眠い目を擦りながら、これまた眠そうな声で尋ねた。「お酒。ってか酒臭い」「…う…」口に手をあてる。「あまり飲んでないのにねぇ?」「そうだっけ?」リズムは、寝ぐせのついた髪をいじりながら呟く。「グラスに一杯半ほどでしょ?ブドウ酒」「そんなに…飲んだかなぁ? …」そう言いながら、リズムはまた寝ようとする。「こらぁ、もう起きなさい!」パルフェはリズムの鼻をぎゅうっとつまんだ。「ふががあが痛い痛い!!」飛び起きるリズム。ぱっと指を離す。「もうっ、何よ?」少し赤くなった鼻をさすりながらリズムは抗議する。「何よって、遅れるわよ? もう6時半過ぎてる」パルフェはそう言いながら時計を指差した。「…うそっ!?」リズムも慌てて時計を見る。6時32分。「私は今日10時からの会議だけだから…もうちょっと寝るけど」そう言うと、小さくあくびした。「え? …ってちょっと、遅刻!?」りずむは飛び起きて指を鳴らした。「えいっ」輝くピンク色の煙に包まれたリズム。瞬く間に身仕度完了。そしてもう一度指を鳴らす。するとサンドイッチが現れた。それを二つ手に取った。「これ、昨日のだけど、まだ腐ってないと思うから食べてね」「おっけー…ありがとリズム~行ってらっしゃい…」そう言いながら再びベッドに潜り込むパルフェ。「うん」少しだけ羨ましそうな表情で指を鳴らすとリズムの姿は掻き消えた。「…」パルフェは目を開く。ついさっきまでそこにいたマジョリズム。まだその残り香さえある。耳の中にはまだ声が残っている。何気なくベッド側の小さな机を見ると、そこにはマジョリズムのメガネが置かれてあった。(ああもう迂闊者…)パルフェは大きく溜め息をつく。(どんな感じなのかな)そっとかけてみた。「おおう」思わず声が出るほどに歪んで見える部屋。(リズム、目かなり悪いのね…)そう思った瞬間、突然「あああ、メガネ忘れた」という声が聞こえた。「…おかえり」目を閉じて呟くパルフェ。「パルフェ、メガネ忘れたの。どこか知らない?」「ん?さてねぇ?」知らん振りをするパルフェ。「メガネ、メガネ…あ」パルフェの顔に目が止まった。「何やってんのよ」リズムはそのメガネに手を伸ばす。「ほい」メガネを外し、レンズを触らないように、そっと手渡した。「気を付けてね」「ん。んじゃ行ってくるわね」マジョリズムはそう言ってもう一度指を鳴らした。「…」また静かになった部屋。パルフェは無言でベッドに横たわる。さっきまでリズムが寝ていた場所に、そっと手をあてる。(リズムの体温)温かい。(ということは、まだそう遠くには…逃げて…)そんな訳の分からないことを考えている間に、眠りに…「…寝そびれたわよ」冴えた目を見開き、ぼそっと呟くパルフェ。時計を見ると6時52分。テーブルを見るとサンドイッチが無造作に置いてある。「そういや腐ってるって…」サンドイッチを手に取り、少し嗅いでみる。「大丈夫よね」一口囓った。少し乾いた食パン。(大丈夫っぽいけど、乾いてる)呟きながらもう一口、二口ともふもふと囓る。「一人で食べるって…なんだかなぁ…」はぁっと溜め息をつく。さっきより短くも重い溜め息。「…私も行くとしましょうか。 早いけど」サンドイッチを平らげると、ゆっくりと身仕度を始めた。いつもより、少し遅い朝。窓の外では小鳥が囀っていた。その声に気付いたパルフェ。「あんたたちも寝坊したのね」