カテゴリ:ドラマレビュー!
シッコウ!!〜犬と私と執行官〜。
ぜんぶ見終わりました。 大森美香のテレ朝作品ですが、 「未解決の女」のスタイリッシュな作風とは、 だいぶ印象が違ってました。 おじさんばかりの荒っぽい職場のドラマ。 ◇ 最終回は、 父親が子供を連れて家を出てしまうお話。 福原愛ちゃんの逆パターンですね。 実際、これって、 虐待でもないかぎりは、 どちらが正しいとも言いきれないだろうなと思う。 ドラマはわりと美しい終わり方になってて、 全9話のなかでは、いちばん「落着感」があったかも。 ◇ このドラマの「一件落着」とい言葉は、 名探偵コナンcase closed のパロディであるだけでなく、 あきらかに遠山の金さんを逆手に取ったものですね。 遠山の金さんでは、 桜吹雪を見せつけ、悪者を退治し、 不幸な人たちが救われて一件落着となる。 大岡越前も基本的には同じ。それが世にいう「大岡裁き」ってやつ。 でも、このドラマでは、 債務者の不幸が救われるわけじゃなく、 むしろ路頭に迷わせると言うほうが正しい。 それが近代司法の現実というわけですね。 いろんな形で「犬」も絡んでいる。 老子いわく、 天地は仁ならず、万物を以て芻狗と為す。 自然界には仁愛など存在せず、 万物は「わらの犬」も同然である。 人間も犬もゴミも区別されることはない。 実際、 裁判所は不遇な人間に対して非情だし、 ペット業界も犬や猫に対して非情です。 織田裕二が演じる執行官は、 犬嫌いなのに「裁判所の犬」だと蔑まれている。 そんななかで、 伊藤沙莉は、いわば「犬奉行」の役回りでしょうか。 ◇ わたしは以前、 朝ドラ「風のハルカ」や「あさが来た」について、 大森美香は、ただ不幸を遠ざけてるだけ! …と批判したことがあります。 https://plaza.rakuten.co.jp/maika888/diary/202108280000/ たとえば… 朝ドラ「風のハルカ」でいえば、 アスカや正巳や奈々枝が不幸だった。 朝ドラ「あさが来た」でいえば、 姉が嫁いだ眉山家の人々が不幸だった。 大河「青天を衝け」でいえば、 尾高家の長七郎や平九郎らが不幸だった。 大森美香のドラマにおいて、 主人公は基本的にずっと幸福なのですよね。 しかし、不幸な人々は、 主人公から少し離れたところを通り過ぎるだけで、 けっして救われることがないし、 その不幸は主人公に降りかかることもない。 ◇ 今回のドラマでは、 人々の苦境に正面から向き合っているけれど、 やはり彼らが救われるわけではないし、 ただ、目の前を通り過ぎていくだけです。 主人公にその不幸が襲いかかるわけでもない。 その意味で、 大森美香の「不幸」の描き方は、よくもわるくも一貫してる。 ◇ 実際、不幸というのは、 そう簡単に乗り越えられるものでも、 そう簡単に救われるものでもないのよね。 ユゴーの「レ・ミゼラブル」や、 モンゴメリの「赤毛のアン」のように、 不遇な環境に生まれた主人公が、 そこから救われて不幸を乗り越え、 最終的に幸福を勝ち取る物語なら、 さぞかし劇的になるだろうけど、 それを安易にやったら、 ただの噓っぽいファンタジーになってしまうし、 大森美香がそういう物語を書かないのは、 よくいえば彼女の誠実さゆえかもしれない。 ◇ とはいえ、 今回の主人公の場合、 両親の離婚のような境遇を乗り越えた前提があり、 それだけに苦しみを強いられた債務者たちに共鳴したり、 その不幸が乗り越えられるよう祈る気持ちがあります。 終盤には次のセリフがありました。 > たしかに胸が痛いこともありました。 > けど、人間って案外悪くないって思ったんです。 > どんなに辛い状況になっても、 > もういちど生きていこうとする人がいた。 > 目をつぶらずに歩き出そうと人生をリスタートしてた。 > ときには図太くて、ときには気高くて、 > そういう生きていく力を人はもってるんだなって。 > そんな人生に触れるたびに、 > 仕事とかを忘れて勇気をもらいました。 > 私、執行官になって、もっと人間を知りたい。 これは、 大森美香自身の言葉のようにも思えたし、 ある意味では、伊藤沙莉が、 大森美香の分身のようにも見えました。 ◇ 作品の出来からいうと、 題材そのものがちょっと地味だったうえに、 遠山の金さん的な「落着感」にも乏しかった。 債務者の苦境を描いて最後に執行! …というワンパターンだったので、 中盤はマンネリ感があったのも否めない。 でも、 視聴率や評判は悪くなかったようですね。 織田裕二も、従来の圧の強いイメージが払拭されて、 役の幅が広がるきっかけになったでしょう。 伊藤沙莉は、見ててとても面白かった。 エンディングでは、 5年間の実務を経て執行官になったっぽいけど、 未解決の女のように第2シーズンもあるのかしら? お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2023.10.15 16:29:53
[ドラマレビュー!] カテゴリの最新記事
|
|