テーマ:浮世絵の世界(185)
カテゴリ:北斎と葛飾応為の画風。
NHKの日曜美術館「美を見つめ、美を届ける」を見ました。
第1週は、辻惟雄『奇想の系譜』。 第2週は、高階秀爾『名画を見る眼』。 どちらも1960年代末~70年代初めに書かれた美術史の著作。 ◇ 辻惟雄は、 伊藤若冲とアンリ・ルソーに《奇想》の共通性を見出してて、 さらに華園力という精神科医は、 若冲の絵を「自閉スペクトラム特性」の観点で語ってました。 自閉症スペクトラムは細かいところに注目して全体を見ないっていう特徴があります。これを「細部への焦点化」というんですけども、全体を俯瞰するように総合的に見るんじゃなくて、細かいところだけに焦点を当てて集中するという見方をすることがあります。若冲も、やはりそういう特性を持っていたのではないか。たとえば「南天雄鶏図」というのがあります。主題は鶏でしょうけれど、背景の南天と同じ密度やエネルギーをもって強調されているので、背景と主題の差があまりないんですね。南天の実にしても一つ一つがかなり細かく描き分けられていて、中には実の一つが熟しすぎて、ちょっと黄色いところが出ている。そういうところまで描き分けてるんですね。そういう「細部への焦点化」というのがはっきりと見られます。もう1つは「反復繰り返し」と言いまして、驚異的な集中力をもって同じことを繰り返していく、というのも特徴なんですね。そういうのが若冲の作品の中に垣間見られるということが言えます。 この説明を聞いて、 若冲とルソーの秘密が分かったというより、 「アストリッドとラファエル」の描写に合点がいきましたw なるほど自閉症スペクトラムって、そういうことなのね。
華園力は、 「伊藤若冲:創造性の地下水脈としての自閉スペクトラム特性」 という論文を2019年に発表して、 若冲の絵画表現に《特定の発達特性をもつ人との共通性》を指摘し、 以降、《認知特性とアート表現の関わり》を研究してるとのこと。 以下の論文もあるようです。 アート表現に認められる自閉スペクトラム特性─創造性の源泉として─ ◇ 一方、高階秀爾は次のように書いてます。 絵画の歴史には、時に奇蹟としか言いようのない不思議が起こることがある。様式の発展とか時代の動きなどというものとはまったく無関係に、思いがけない傑作が、まるで別の星の世界から突然やってきたかのように、われわれの目の前に出現する場合がある。 印象派以前と以後の様式の断絶は、 エキゾチズムの影響(具体的にはパリ万博の影響)ですよね。 同じことは音楽の印象派にもいえる。 日本の北斎らが、 西欧近代の影響を受けて遠近法を取り入れたのとは裏腹に、 西欧の印象派の人たちは、 遠近法を否定して、二次元表現の可能性を追求しはじめた。 平面で三次元世界を再現する西欧絵画の伝統を放棄した。 これは東欧やアジアやアフリカの影響ですよね。 あくまで非西欧世界の絵画は、 平面芸術=デザインの可能性を追求してきたわけだから。 ◇ しかし、 辻惟雄が言うところの「奇想」や、 高階秀爾が言うところの「奇蹟」は、 印象派が西欧美術の伝統を破ったこととは意味合いが違う。 若冲やルソーの特徴は、 むしろ異常なまでに微視的なリアリズムであって、 アジアの伝統的な様式美をも、 印象派の潮流をも逸脱するような偏執症的な過激さです。
◇ なお、第1週の対談では、 曽我蕭白の「群仙図屏風」が取り上げられ、 さらに画狂老人・北斎漫画の関連で、 「狂(アナーキー)」と「漫」についても触れられたのだけど、 そのテーマが第2週で掘り下げられなかったのは残念。
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最終更新日
2024.07.29 17:45:00
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