カテゴリ:北斎と葛飾応為の画風。
時代劇「広重ぶるう」を見ました。
製作はNHK&松竹。 脚本は「くるり」の吉澤智子。 主演夫婦が阿部サダヲ&優香で、 版元の竹内孫八を演じたのは高嶋政伸。 今年3月に放送した110分のBSドラマを、 総合では全3回に分けたようです。 ◇ 長塚京三が、 7年前の「眩」に続いて北斎を演じてました。 あのときは、やや迫力に欠けたのだけど、 今回はギラギラした北斎の狂気を感じさせていた。 娘の応為(お栄)を演じたのは、 あおいちゃんではなく、中島ひろ子。 ちょっと下品な雰囲気が、 より応為の実像に近かったかもしれません。 ◇ 葛飾北斎はクレイジーな天才だった。 歌川国貞はビジネスに徹した美人画の職人だった。 それに対して、 歌川広重は平凡な良識人だった…という設定です。 本来は火消を生業とする下級武士で、 最初は副業として絵を描いてたらしい。 年下の叔父に家督を譲ってから専業の絵師になった。 凡庸な下級武士の男が、 出来すぎた武家育ちの奥さんや、 有能なプロデューサーとなる版元の力を借りて、 名所絵の揃物「東海道五十三次」で成功を収める。 … 善良なおしどり夫婦の物語だから、 松竹のホームドラマには最適な題材だったのね。 ただ、 松竹の芸風なのか知りませんが、 カメラがいちいちズームを使うのがところどころ目障りでした。 ◇ 妻の加代はこう言います。 主人は、 大袈裟に女の人を描いたり、 あり得ない姿勢の格好のよい役者を描くことができないんです… 一方、 版元の竹内孫八は次のように皮肉ります。 甘くて馬鹿正直な、 つまらねえ御亭主をもってお可哀想に。 つましく暮らす、つまらぬお人ゆえ描ける絵もございましょう。 絵を買う者も、つましく暮らす、つまらぬ民でございますれば。 いうならば、広重の作品は、 「凡人の凡人による凡人のための名所絵」ってこと。 きわだった美女や役者のブロマイドじゃなく、 平凡な市井の人々の平凡な姿を、 美しい名所絵のなかに織り込んだわけですね。 後世に「広重ブルー」と称賛される色彩も、 広重自身の手腕というよりは、 有能な刷り師職人の技にゆだねた結果のようでした。 ◇ なお、 北斎の「富嶽三十六景」も、 広重の「東海道五十三次」も名所絵ですが、 竹内孫八の話によれば、 十返舎一九の「東海道中膝栗毛」が世に出てから、 伊勢だ富士山だって神仏に手を合わせると言い訳つけりゃあ、 誰でも旅に出られるようになった。 …という背景があったらしい。 関所の取り締まりが緩和されたのでしょうね。 ◇ ところで、広重一家は、 慎ましい暮らしを強いられていたとはいえ、 いちおうは武士の身分なので、 売れっ子の北斎父娘よりマシな家に住んでました。 北斎父娘は、 掘っ立て小屋みたいな汚い家に、 たくさんの弟子たちと共同生活してましたね。 まあ、 北斎の場合は引っ越し魔だったので、 たんに定住志向がなかっただけかもしれませんが。 ◇ ちなみに、 広重の未完の遺作「名所江戸百景」は、 安政の大地震からの復興を祈念した作品だったっぽい。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2024.07.24 06:20:22
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