カテゴリ:NHK朝ドラ
朝ドラ「虎に翼」は、
前半の3ヶ月が終了しました。 ◇ 当初、わたしは、 大森美香の「あさが来た」みたいに、 明るくて幸福なドラマになると予想したのですが、 ぜんぜん違いましたね…(^^; 内容は驚くほどシビアだし、 朝ドラのいろいろなセオリーも破ってる。 あまりに型破りなので、 正直、解釈が追いつかない面も多いです。 それでいて、 ずっと高視聴率を維持してるのもスゴい。 1.まったく恋をしない! 近年の朝ドラのヒロインは、 「イケメンと純愛のすえに結婚する」 というパターンがほとんどなのだけど、 今回のヒロインはまったく恋をしない! 主人公の寅子は、 打算的な結婚のあとに夫と愛情を育んだものの、 すぐに死別してしまいました。 ヒロインも美女じゃないけど、 イケメンらしいイケメンも出てきません。 これほど恋に無縁なヒロインも珍しい…。 ◇ 従来のNHKの朝ドラは、 家どうしの封建的な結婚ではなく、 個人の恋愛結婚のほうを理想化してきたけど、 今回の「虎に翼」は、 あえて史実に反して打算的な結婚を描きました。 ※モデルの三淵嘉子は下宿人の男性を慕って恋愛結婚してます。 実際のところ、 現代の日本では恋愛結婚が行きづまりを見せてるし、 打算的な結婚をする人は今も沢山いるはずだから、 そこには一定のリアリティがあるのだと思う。 2.家族が死んでも泣かない! 戦争の不幸もかつてないほど過酷でした。 これは、脚本家の意図というより、 史実にしたがった結果ではあるけれど、 いちどに家の男性が3人もいなくなって、 ほぼ女だけの所帯になってしまった。 上流階級の裕福な家庭だったから、 なんとか乗り切ることができたとはいえ、 これほどの不幸が重なるのは、 朝ドラ史上、例がなかったかもしれない。 ◇ その不幸の乗り越え方も、 従来のヒロインとはだいぶ違ってました。 ほとんど涙を見せなかったのです。 母が死ぬときには、 まるで子供みたいに大泣きしてたけど、 夫が死んだときや、 父や兄が死んだときには、 なぜか寅子はほとんど泣きませんでした。 ◇ 兄の戦死に対しては、 ただ沈黙してただけです。 夫の戦死が分かったときは、 隠していた父に怒りをぶつけたものの、 しばらくして悲しみが襲ってくるまでは、 やはりずっと沈黙しつづけていた。 そして、 父の死の前日には、 家族みんなで爆笑してましたよね。 ◇ その日を生きつづけることに必死で、 泣く余裕もないような状況だったから、 たとえ泣くシーンが描かれなくても、 家族の死の重みは十分に伝わったのだけど、 従来の朝ドラの死の描写に比べて、 その独創性は際立って異色だったと思います。 3.努力がちっとも報われない! 女性の社会進出を描く物語としても、 甘ったるいファンタジーの要素は一切なく、 むしろ挫折の描き方こそがえげつなかった。 同窓の友人たちはほぼ全員が挫折してしまった。 ヒロイン自身も、 打算的な結婚によって乗り切ろうとしたものの、 その後の出産が仇になって、 弁護士の道は戦前の段階で諦めることになった。 ◇ 当初の「男女平等」という理想は、 恩師や友人との努力の賜物としてではなく、 日本が戦争に負けた結果として、 占領軍から"棚ぼた的"にもたらされました。 夫や父や兄を殺した戦争こそが、 日本に「男女平等」の社会をもたらした形です。 しかも、ヒロインは、 その事実を法曹関係者としてではなく、 闇市の焼き鳥を包む新聞紙によって知ることになる。 そこにも容赦のない皮肉がありました。 これは、 努力が報われる一般的なサクセスストーリーではない。 むしろ、それを拒否するような物語になってます。 4.親友や恩師に仇で返す! 親友の寅子に対して、 よねが絶えず攻撃的な態度を取るのも、 しばしば驚かされるのだけど、 恩師の穂高先生に対して、 寅子がしばしば攻撃的な態度を取るのも、 けっこう驚かされましたね。 これは史実に忠実な結果なのか。 一般的なリアリティを追求した結果なのか。 それとも脚本家が自分自身を投影した結果なのか。 ここでもやはり、 視聴者の安易な共感を拒絶してます。 5.それでも高い視聴率! それにもかかわらず、 この作品がずっと高視聴率を維持してるのは、 やはり、 女性が社会で生きていくことの葛藤と軋轢が、 現代にも通じるリアリティをもってるからだと思う。 これはけっして過去の話じゃないってこと。 この物語のなかには、 悪者らしい悪者はひとりも出てこないけれど、 それでも女性が生きることの困難は絶えません。 社会のなかでも、家庭のなかでも、 それぞれの立場はぶつからざるをえない。 働く女には働く女の苦悩があり、 主婦には主婦の苦悩があります。 若いときは「はて?」を連発していた女性が、 はからずして「すん」の女になりさがることもある。 そこに現代にも通じるリアリティがあります。 ◇ こういう型破りな内容で、 若い脚本家が成功を収めてるってのも、 なかなかの脅威じゃないかと感じてます。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2024.07.10 00:49:19
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