天使になったシュンタ物語ー2
医者を大嫌いなシュンタだけれど、血を吐いたのは、普通じゃない。いろいろなことを思い巡らせました。 あんなに赤くキレイな血・・・きっと、きのうなにか硬いモノを飲み込んで、その時にのどとか食道とかを、傷つけたに違いない・・・きっとそうだわ、胃からの血が、キレイなわけないもの・・・量も少ないしね・・・ 犬がストレスで胃潰瘍になった話はよく聞いていました。だから、犬の胃潰瘍というコトは充分に考えられるコトでした。 私の中ではすっかり、異物を飲み込んだ末の傷、そこからの出血、ということになっていったのです。でも、やはり今までに一度もそんなことはなかったし・・・ 土曜日の朝でした。papaにそうだよねえ、傷したんだよねえ、となかば強引に 「ウン」と言わせるような話し方をしましたら、 「明日は、日曜日で、病院は休みだろう? そんなこと言っていないで病院へ連れて行けよ」 と、言われました。5年前にシュンタが手術をした病院です。暴れるに違いないシュンタを一人で連れていく自信はありません。 「俺が連れて行ってやる。」 二人でシュンタを車に乗せて出かけました。シュンタが家にやって来てからは、いつもビクトリアとシュンタは一緒でしたから、papaとママとシュンタ、この組み合わせでのお出かけは、初めてのことでした。 シュンタは、不思議そうにしていましたが、少しいつもより元気がないだけで、めずらしそうに外の景色を眺めたり・・・私は、どうぞ何事もありませんように、と祈っていました。 病院では、シュンタは私が思っていたよりずーっとおとなしくしていました。今から思えば、もうすでに病魔が身体を浸食していて、生命体としてのシュンタは、衰えていたのでしょう。私は、シュンタのおとなしいことを、不思議に思い、深く考えることを止めていました。 血を吐いたが、他はなにも異常はなく、快食、快眠、快便であることを、医師に告げました。 「きれいな血でしたか?」 「はい、透明感のある、きれいなイチゴジャムのようでした。」 「なにか混ざっていましたか?」 「液体はあったと思いますが、固形物はありませんでした。」 レントゲンを撮りましょう。 レントゲンの結果は、私たちの予想もしない、到底 考えの及ばぬコトでした。 「まず、吐いた血は胃から吐いたものではありません。食道でもありません。吐血ではなく喀血です。」 「喀血って、胸から・・・」 「そうです。見てください、ここが、食道です。ここが、肺、これが心臓です。ここに白い固まりが見えますね。異物がこんなに大きくなっています。骨がこの色ですから、骨よりも白いということは、この異物は骨よりも硬くなっている ということが言えます。」 「・・・・・・・・・」 「こんなに大きくなっていますから、昨日、今日出来たモノではありません。ずっと咳をしていませんでしたか?」 「全く咳はしていません。そんなに前からなら気づくはずですが・・・」 「とにかく、かなり前からできていて、この場所は血管がたくさん集まっているところですし、手術はできません。」 「・・・・・・・・・・・・・・・・」 「咳をしたら、また血を吐きます。咳をさせないようにしてください。そして、咳をしたら、休日でも真夜中でもかまいませんから、電話を下さい。大出血をして、気道をふさぎ、簡単に死んでしまいますよ。充分、お気をつけ下さい。」 「薬を一週間分出します。一週間後に様子を見せに連れてきてください。」 と言われ、スゴイ量の薬をいただきました。 ウソのような、という表現がありますが、その時の私たちは、ウソのような話を聞かされた感覚でした。もちろん、信じられませんでした。だって、シュンタは、昨晩も、それまでのいくつもの夜と同じに、私のベッドで、ゆったりと眠り、いつもと同じ時間に目覚め、血は吐いたけれど、ビクトリアと走り、遊んでいたのですから・・・病院に来るまでは・・・ その夜も、シュンタはいつもと同じ食事を、いつもと同じようにしました。なにも変わったことはありませんでした。 深夜になり眠る前、シュンタが咳き込みました。 私とpapaは、瞬間、顔を見合わせ、シュンタのところに走り寄ります。 胃液に混じって薄茶色の4センチくらいの丸いモノがありました。 手にとってみると、硬い枯れた芝生の茎、根に白い毛が絡まりついているモノでした。 「このイガイガの形って、レントゲンに写っていた白い形にそっくりだよ。」 「本当によく似てはいるなあ。」 「これが、出かかってて、吐きあげきれなくて、傷つけたんじゃないのかなあ。」 完全に、祈りをすり替えて、事実に逆らおうとしている私がいました。 そうであって欲しい。シュンタが死んでしまうなんて、あるわけがない!!