地元出身のピアニストのリサイタルが、近くの小さなホールであり、事前にホールから
お葉書をいただいていたので、友人を誘ってふたりで出かけました。彼女は銀行員
なのですが、お堅い職業の割には、今までクラシックのコンサートにはあまり縁が
なかったそうで、とても楽しみにしていてくれました。
ホールに向かう途中の農道で、思いがけず、道路を横断するカルガモの親子に遭遇!
胸を張って歩くお母さんガモの後ろから、7羽のヒナがよちよちとした足どりで必死に
ついてゆきます。お母さんガモは、全部のヒナが渡り終わるまで、ちゃんと立ち止まって
見守っていました。嗚呼、見習うべき姿でございます。
「かわいいっ!!」「本当にお母さんのあとをついて行くのねー!」「いいことありそうね!」
と感激しながらの道中でした。
6時開演ですので、あたりはまだ明るく、大きな窓のある開放的なホールからは、美しい
稜線の山々や、緑の田園風景を望むことができます。
熟年層を中心に100余人ほどのお客様でいっぱいになったホール。粋な和服姿の
お嬢さんもいらっしゃいます。和やかな雰囲気の中、ピアニストの彼が登場しました。
バッハ、ショパン、ドビュッシー、ラヴェルと、彼の十八番のプログラムです。
今年1月以来の彼のピアノ。わたくしの今日いちばんの楽しみは、ショパンのスケルツォ
op.31。高校時代のある一時、耽溺した思い出のある大好きな曲でございます。
「曲のはじまりの部分は、ちょっと、墓場から何かが出てくるような感じです。」と、演奏前に
ユーモアたっぷりのMCがあり、そして演奏に入りました。
う~ん、3オクターヴを一気に下りてくるメロディの、右手のダイナミックな指運び!
そのあとの左手のアルペジオの美しいこと!ここは極めてロマンティックな部分なので、
左手がおろそかですと、曲が壊れてしまいますが、彼は完璧で流麗な音楽を奏でました。
中間部、少し回顧的で幻想的な旋律のあとの、泉が湧き出るようなメロディの数々・・。
・・素晴らしいスケルツォです!彼の「世界」を感じることができました。
演奏中、時折、すぐ近くからキジの声、そして遠くからはカナカナゼミ(ヒグラシ)の声も
聞こえてきて、ピアノの音色と、山の生きものの声がコラボレートするという偶然が重なり、
素敵なリサイタルになりました。終始リラックスしていた彼、このように客席の近い、
小ぢんまりしたホールの演奏会は、お客様の反応がダイレクトに伝わって、演奏家に
とっても良い経験になることでしょう。
アンコールはショパンのノクターンop.9-2。左手の伴奏がアルペジオになったり、ちょっと
「ため」を持たせてみたり・・と、彼独自の解釈で楽しめました。
友人は、すっかり彼のファンになった様子。お母様から「来年にはまた地元で、演奏会が
ございます。」とお聞きし、「絶対に行きます!」と気合をこめて応えていました。
またひとり友人を、クラシックの魅力に引き入れてしまったわたくし・・。うふふ。
気に入ってもらえて何よりでございます。
次回は、音コントリオでの演奏会。また楽しみが増えました。
当日使用されたピアノ。 アジサイのアレンジ。
つや消しの黒が上品な印象。