Ｌａ　Ｖｉｅ・音楽とともに　～標高１，０００ｍの高原だより～

ＴＡＮＴＯクラシックで、今年５月の、庄司紗矢香さんのプロコフィエフの１番のヴァイオリン協奏曲の

演奏を見ました。オーケストラは読売日響（←当たり前）、指揮はユーリ・テミルカーノフ氏。

彼女は２００４年、ヨーロッパで同じ曲を、テミルカーノフ氏、サンクト・ペテルブルク・フィルとも弾き、

ＦＭからの録音も持っているので、とても興味深く見ました。

（このブログでは、しつこいくらいにもう何度も書いていますが、この曲は、私がブラームスの

ヴァイオリン協奏曲と並んで、こよなく愛する曲です。）


紗矢香さんは、この曲には独自の世界観をお持ちで、「ロシアの童話の魔女ババヤガーが出てくる

イメージ」と表現していました。

落ち着いて、おだやかで丁寧に言葉を選びながら話す彼女。

一昨年、ＮＨＫ音楽祭でブラームスを弾いた時の、ちょっと危なげな少女のようなあどけなさは消え、

世界を飛び回る、ハードでタイトなスケジュールをこなしながら、さまざまな人々との出会いをも通して、

確実に、演奏家として、そして人間としても成熟を深めているように感じました。

この日の衣装は、シンプルな真紅のシルクサテンのドレス。

とてもよく似合い、メイクも彼女の美しさと艶（あで）やかさを際立たせています。

六ヶ国語を使い分ける才媛も、すっかり大人の女性ですね。



ああ・・、どうしよう！

演奏が始まると、まるで彼女は、ババヤガーが乗り移ってしまったかのようになりました！

「ババヤガー」。ロシア民話にでてくる魔女。日本でいうところの「やまんば」のような存在といえば

おかわりいただけますでしょうか・・。

物静かな彼女とは対照的な、饒舌で密度の濃い第１楽章。

鋭い、射抜くような視線でテミルカーノフ氏を見つめ、アップ、そしてアップ、・・跳ね弓、跳ね弓。

演奏の激しさに、弓の毛が数本切れているのがわかります。

超絶技巧の続く第２楽章では、彼女が「悪の存在」とするところのスル・ポンティチェロ（駒のそばを

こする奏法）が決然とこなされ、時々、テミルカーノフ氏を挑発するかのように妖しく微笑みかけ・・・。

しかし、今更ながら思うのは、揺るぎない音程の正確さで定評のある彼女の演奏でこの協奏曲を

聴くと、超困難と思われる数々のパッセージも、耳を澄ますほどに、一音一音がきちんと楽譜どおりに

弾かれているんですよ、これが。実に驚異的です。いくらでも誤魔化せる演奏家が多い中（昨年、

来日した某ナイスミドルのヴァイオリニストもそうでした）、真の意味でのヴィルトゥオーゾですね。

第３楽章も見事でした。厳しい自然環境の、ロシアの大地に根を下ろした大樹を思わせるような

芯のしっかりした、それでいて重くない、軽妙洒脱なフィナーレでしたね。

天晴れ、紗矢香さん！演奏後の笑顔も素敵でした。



さて、ババヤガーで思い出したのはこの絵本。

「ババヤガーのしろいとり」。ババヤガーの使いの鳥達に弟ワーニャをさらわれた少女マーシャが、

ババヤガーの家から弟を救出、追っ手となったしつこい鳥達を辛くも撒いて、無事自宅に帰る・・

というお話です。「おおきなかぶ」でも知られる佐藤忠良氏のやさしい色合いの絵本。

私の弟が保育園で毎月購入していた本の中の１冊で、いつから（強制か？）か、私の宝ものです。

ちゃんと、ここにありました・笑


付け足し：そういえば、ムソルグスキーの「展覧会の絵」組曲にも、「バーバヤーガのなんとか・・」

ってテーマの曲がありましたよね？やはり、ロシアではポピュラーな人物なのですね～。

日本の「やまんば」、イギリスの「スクルージ爺さん」・・・の感覚？？？