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July 11, 2008
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カテゴリ:楽しむは音
昨年の12月に行われるはずだった予定が、ご本人のオートバイ事故のために延期になった、

軽井沢大賀ホールでのクリスティアン・ツィマーマンのリサイタルへ。

一日千秋の思いの7ヶ月は長かった!


<プログラム>

W.A.モーツァルト:ピアノ・ソナタ第10番ハ長調K.330

L.v.ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第8番ハ短調op.13「悲愴」

F.ショパン:ピアノ・ソナタ第3番ロ短調op.58


「~大賀典雄さんへ感謝をこめて」との見出しがついたチラシとプログラム、ポスター。

この演奏会は、もともとツィマーマン氏ご本人から申し出があったチャリティ・リサイタル。

昨年発表されていたプログラムは、「ベートーヴェンの32番のソナタ他」となっていたのが、

がらりと変わった模様。その理由は、後ほど知ることになる。

大賀典雄氏は、ツィマーマンが真正面に見える位置にご着席。


ステージに現れたツィマーマン氏。

席に着くや否や、モーツァルトをいきなり弾きはじめる。

この方は、演奏前の瞑想だとか、ひと呼吸入れるだとか、そういうものは不要なのだっ。

以前、BSの番組で観た、サントリーホールの時とまったく同じ始まりに、完璧主義者の彼ならでは

の、心意気を感じた。

このモーツァルト・・。ああ、あの時と同じ。

「ねえきみ・・、昨日庭に咲いたユリを見たかい」と、ツィマーマンは、今日は、私に向かって

語りかけてくる・・。

涼やかで潤いのある彼のモーツァルトは、会場を楽しい気分で満たして。

このあとへの期待度が高まる、素敵な演奏。


「悲愴」は、同じ人が弾いているかと思えるような、力強くて激しい第1楽章で始まり・・。

抜けが良くズシンと響く低音、手にとるほどそばに聞こえる高音・・。彼が日本に所有している

スタインウェイの、鳴りのよいこと!

ベートーヴェンから与えられた、限られた法則の中で、彼は、自らの力で、無限の表現法を編み出し、

それを音に置き換え、我々に手の内を差し出している。

第2楽章。・・聞こえる、彼の声が。ピアノの音になって。「肩の力を抜いていいんだよ」と。

森羅万象を包みこむ、なんという、許しにあふれたあたたかな音色。

私の席から、彼の指がよく見える。血のかよった彼の指から生まれ出る音のやさしさに、涙が出る。

ふと、彼の背中が、誰かのそれに似ていることに気づく。ピンと伸びて、真摯に鍵盤に向かう背中。

・・夫の背中だった。「肩の力を抜いていいんだよ。子どもは、なるようになるんだよ。そう思ったら、

気持ちも楽になるよ。」

夫の声も重なった。涙が出る。

  *********

休憩後、ステージに現れたツィマーマンは、椅子に座るなり、客席に向かってスピーチを始める。

「皆さん、今日は来てくださってありがとう。昨年来られなかったことをお詫びします。それにも

かかわらず、今日来てくださった方に、感謝を。そして、大賀さんに感謝を!今日の曲は、

大賀ご夫妻のリクエストによるプログラムです。私の心をこめて・・・」

・・・というような内容。途中、場内の笑いを取る話もしたようだが、私の席からは遠いので、

肉声がよく聞き取れなかった。


・・・その後、突然くるっとピアノの方に向きを変えると、ショパンへと突入!

ああショパンの3番!ショパンの、私にとっての「三種の神器」の中のひとつに入る3番のソナタ!

その3番が、目の前で!ツィマーマンのピアノで!

思っていたとおり、彼の第1楽章は、転調を2回繰り返すあの甘美な旋律のところで、私を気持ちよく

酔わせてくれる。もう、夢のよう。

彼は、この曲を、ポーランドの「血」と「DNA」で弾いている。

誰にも真似のできない3番だ。

白眉は第3楽章。彼はここで、彼の哲学を語る。

郷愁と、果てしない人生の寂しさと、そして、その先にあるやさしさを、雄弁に。

彼の人間味が溢れる楽章だった。


第4楽章は、ご本人もノリノリ。私も身体がスウィングする。

最後の和音が消える前に、拍手とブラヴォーが来た。

大賀氏も、中央通路から花を持ってまっすぐツィマーマンの元へ。

ツィマーマンは、ステージの突端で膝まづき、大賀氏を迎え、ハグを交わす。あたたかな拍手。

あたたかな光景。音楽家同士の心の通い合い。信頼関係。

人は、こうして理解し合えるのだ。


アンコールは、翌日新潟で弾く予定のブラームス。作品119から2曲。やはり、あたたかい。

そして、もう1曲。これが凄かったっ!!!!

あとでホールに確かめると、シマノフスキの変奏曲ではないか・・と。

あれはもう、神業!

10本の指が、鍵盤の上から下まであちこちに絶え間なく飛び交い、そして低音部では鳴り響く

轟音の、嵐のような超絶技巧曲!

長大なソナタを3曲、アンコールに2曲弾いたばかりの彼のどこに、あの余力が残っていたのか!

言い古された言葉だけれど、さすがは、世界で5本の指に入るピアニスト。

生半可ではないのだ。腕も、精神力も。


本当に、7ヶ月待った甲斐のある、素晴らしい演奏会だった。



リサイタル終了後は、「Ho~~~wっ good lookingっっ!!」な、ご子息と共に、

車に乗り込むのを拍手でお見送りしてから、帰路に着いた。

帰りの車中では、何も聴きたくなかった。余韻に浸っていたかった。



上弦を過ぎて、少しふっくらとした月が、赤く染まりながら西の山の稜線に沈んでゆくのを正面に

見送ってからは、ひたすら南下。そこからはあたたかな光の木星がずっと目印にお供をしてくれた。

バーソロミューさんの「木星おじさん」のお話しを思い出し、「ほんとだ、見守っていてくれる」と、

嬉しい気持ちになる。

途中、昨年、会社の人が鹿に出くわして社用車とぶつかったというあたりを、気をつけながら通る。

幸い、無鉄砲な鹿には会わなかったけれど、少し前の道をキツネが横切った。

帰宅は12時を回ったが、新たな力が湧いてくるような、不思議な感覚が身体に残っていた。





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Last updated  July 15, 2008 07:25:35 PM
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