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テーマ:好きなクラシック(2317)
カテゴリ:楽しむは音
今年の夏も、もうおしまい。 この夏の、楽しく忘れ難い思い出をひとつ、記しておきたい。 8月のはじめに、大切な音楽の友であるKさんにお会いした。 この高原から程近い、山の上にあるホテルに、何日も籠もっての弦楽合奏セミナーを終えて、 ゆるゆると、東へ西へと大きく蛇行しながら標高を下げてくる電車に1時間以上揺られての、 下界へのご帰還。 その電車の終着駅の改札口にお迎えに行った。 Kさんに直接会うのは、昨年5月のフィリアホール以来。 ヴァイオリンケースを肩に抱えて、改札を出てきたKさんの素敵なこと!すぐにこちらを認めてくれ、 笑顔で握手を交わす。 「他のお荷物は?」 「これだけです!もうホテルから送っちゃいました」 駐車場に停めた車へと案内し、近くのホテルに食事に向かう。私のおんぼろ車では失礼なので、 今日は麻呂父の車を借りた。 眺めのよい最上階のチャイニーズレストランに行き、席に付くや、「今日の最後のコンサートで 聴いた、ボロディンの弦楽四重奏曲の2番が頭から離れなくて・・・ご存知ですか?」 「わあ!ボロディンの2番!大好きです!」 ♪「タ~ラ~ラ~ラララ~ラ~ラ~ラ~・・」♪と、第1楽章をいきなりふたりでハモり出し、レストランの スタッフのお姉さんはびっくりした様子でこちらを見ている(笑)ふふ、楽しい。 メニューを見て、互いに好きなものを注文し、ふたりでシェアすることに。 Kさんは大好きな生ビールも一緒に♪ 「今日はこれを弾いたんですよ」と、エルガーの弦楽セレナーデの楽譜を見せてくださる。 「1st、めちゃくちゃ難しくて~」と、明るく笑う。 お名前を聞いただけでびっくりするような講師陣で、それはそれは充実した数日間だったそう。 「W先生の『ラロ』に、魂のこもった音を感じましたね!」と興奮気味に話してくださる。 「ベートーヴェンといえば、『ジャジャジャジャーン!』が有名で、そういうイメージを持ってしまう けれど、本当の彼は、『ロマンス』の甘い旋律のような、そんな人物だったのだそうですよ」 「え!?そうなんですか!」・・と、大好きな「ロマンス第2番」を思い出す。 上の写真は、私がいちばん好きな演奏の、ロマンス第2番が入ったCD。チョン姉弟の息の合った1枚。 ビールが入ってだんだん興が乗ってきたKさん、クラシック界の内輪の話が次々に飛び出してくる。 Yさん(チェリスト・大御所)とサシで飲みました。 Iさんは大人数で勝負しているあの楽団の女の子といい仲だったそうです。 Nさんは、結婚しましたが、不倫の末でのことでした。 Kさん(ピアニスト)は、ものすごくいい方です! Tさん(ピアニスト)は、整形しているそうです。 などなど、楽しい話ばかりで、笑ったり驚いたりする私。 海鮮焼きそば、海鮮あんかけチャーハン、スープ、エビ蒸し餃子をふたりで好きなだけ いただきながら・・。 気づくと、時計は8時を過ぎ、Kさんが東京へと向かう、最終電車の時間が迫っていた。 エレベーターで1階へと下り、私の懇願で、Kさんに、ロビーのソファーでご自分の愛器を見せて いただく。 「300年以上前の楽器ですから、バッハやモーツァルトの音楽を、彼らと一緒に奏でたかも しれないですね」 そう言いながら、ヴァイオリンケースを開けて、見せてくださったのは、300年の時の流れの中で、 人の世の苦楽をすべて見知り尽くしてきたかのような、なんとも例えようのない、いい表情をした 一挺のヴァイオリンだった。 そして、発見!! 彼女の愛器のE線のアジャスターに、先日見たヴァイオリニストと同じような石が付いているのを! 「わあ~っ!!これって、流行っているんですか!?」 「これ、スワロフスキなんですけれど、ここに付けたらきれいだろうなあ~って思って付けたら、 案外同じことを考えてる人が多くて、この頃よく見ますね、今回のセミナーにも数人いましたよ」 とのこと。ふーん、やっぱり流行っているんだ! 素晴らしい楽器に会えたことに感動しつつ、少し時間を気にして、駅に車を飛ばしたら、余裕で 間に合った。 改札口で別れようと、立ったままふたりで話していると、切符を切る駅員さんに、「さあ、入って 入って」と促される。 「入場券、買ってないんですよ」「いいから、いいから」と手招き。駅員さんのあたたかなお気持ちに 感謝しながら改札を抜け、Kさんと一緒にホームへと向かう。 「私、NHK音楽祭、迷った末に、ジュリアン・ラクリンのコンサート、チケット買っちゃったんです」 とKさん。 えっっっ!それって、私が諦めたロイヤルコンセルトヘボウとのブラームス!! 「うわあ、それ、いちばん金額が高いコンサートですよね!」 「そうです!ジュリアン・ラクリン、クセがあるし、あまり好きじゃないけれど・・・」 「でも、ブラームスですものね!今年の音コンも、本選はブラームスですけど、行かれますか?」 「行きたいですね~」 「音コンのほうが先ですけれど、じゃあ、この秋はブラームス三昧ですね!」 「そうですね。・・ブラームス、あれ、難しいんですよ」 「どの部分?4重音のところとか?」 「第2楽章のあそこ、信じられないポジション移動があるんですよ」 ここでまた、ふたりでその部分をハモる。最後まで楽しい。 程なく電車が到着し、Kさんは再び手を差し伸べてくれて握手をし、「またお会いしましょう!」 「ありがとう!楽しかったです!」と、颯爽と乗り込む。爽やかな別れだ。電車はKさんを連れて、 あっという間に行ってしまったけれど、彼女の残してくれた明るい余韻に守られ、淋しくないのが 何より嬉しい。 駅員さんにお礼を言って、車に戻り、家路を急いだ。 今日、Kさんは私に、みどりちゃんのチャイコンのDVDをプレゼントしてくださり、私は、家の近くの 別荘地のベーカリーのパンをお土産にお渡しした。 以上、この夏の、いちばんあたたかい思い出。 つくづく思うこと。 こんな、何の取り得もない私(ヴァイオリンも弾けないし)に、よくぞここまで心を開いて、 仲良くしてくださるKさん! それは、彼女の人徳にほかならない。だから、誰からも愛される。Yさんとサシで飲めたのだって、 たくさんの人に出会っていらっしゃるYさんが、彼女のお人柄を瞬時に見抜かれたからに違いない。 いつ会っても楽しく、バイタリティに溢れ、仕事で諸外国を回り、訪れた先々からポストカードを 送ってくれる。仕事をこなしながらのヴァイオリンの練習にも、並々ならぬ努力をはらう。 知的できれいで、かつ飾らず気どらず、そんな彼女には、いつも元気と希望と励ましをいただく。 音楽という、共通の話題を通じて知り合えた友人のひとり。 このような友人を持てたことに、本当に幸せと感謝の気持ちを感じる。まさに音楽の賜物。 こうして、心から尊敬し、会うたびに、また会いたいと思わせてくれる、そんな何人かの友人は、 私のささやかな人生の道のりを、やさしく明るい光で照らしてくれる。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
August 22, 2008 09:51:23 PM
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