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カテゴリ:書評、感想
感想『悪人(上)』
巷で話題の吉田修一『悪人(上)』を手に取ってみる。舞台設定が九州だったので、立ち読みしてみると、台詞が九州弁だった。これは読みだと思い購入。 保険営業員、石橋佳乃が県境の峠で遺体で発見される。誰が彼女を殺したのか。なぜ彼女は殺されたのか。その疑問が底辺に流れながら、周囲の人物が描かれてゆくことで、主人公を立体的に描いてゆく。 作者は長崎の人らしい。石橋佳乃、清水祐一を描くために周囲の人間の目線を利用している。 そのやり方はおもしろい。 宮部みゆきの『理由』にも見られたような方法だ。 しかし、物語に弾みをつけるためだろうか、やたらとへるすとかの性的な設定が登場する。 まあ、人間を描く上でははずせない部分なのだろうけど、そんなのを見てしまうと作品が低俗な雰囲気をだしてしまうと思うのは、自分の見識が狭いからだろうか。 ただ、上巻の帯表紙の裏に映画のことを載せるのはいいんだけど、犯人まで明かさないでよ。と思った。 かりにもサスペンス的要素を含んでいるのなら、その面白みが半減してしまう。 とか言いつつ下巻も買って読むんだろうな。 『悪人(下)』読後感 サスペンスじゃなかったのね。 人間を人物を描いた作品。 映画は公開中なので、あらすじは飛ばすとして。 まあ、整理のために少し書き込み。 後半は、祐一、光代の二人が中心。正直この二人の物語になんの感動も覚えなかった。自分が薄い人間だからだろうか。愛する人が殺人者で、自首を勧めるよりも、一緒にいることを選んだ。 そのような女性を、本当に愛しているんだねとか、純粋だねとか、思わず、というかこれを読んだ人は一つの純愛の形だと賛美でもするのだろうか? 寂しい女性だな。としか感じなかった。 結局は寂しいだけで、それを埋める存在が欲しかった。それが見つかり喜んだ。それを埋めてくれる存在を愛と呼び、執着をした。 こんなことを考える私は愛なんてものが一生分からないんだろうな。 理解できっこないと思う。 最後の部分は欺くための見え透いた嘘だが、なんだか哀れだ。 関係ないが殺人者が恋人に自首すると話す場面は、ドストの『罪と罰』を想起させた。 本筋の話よりも、感動して涙腺が緩んでしまったのは、祐一の母、房枝の物語だ。 戦争中を生き抜いた子供時代、娘が置いていった孫を育て、世の中で必死に生きてきた母親。夫は体を悪くして病院と家を行ったり来たり。孫の祐一は殺人犯として指名手配され、逃亡中。自身は悪徳商法に騙され、請求の電話に怯える毎日。 しかし物語の終盤、オレンジのスカーフを巻き、背筋を伸ばし、悪徳商法の業者の事務所での「馬鹿にされてたまるか」と啖呵をきるシーンはなぜか涙が溢れた。 きっと、世間の奔流に対して小さい体をピンと伸ばし、立ち向かう様子が、母親や母方の祖母を想起させたからだろう。 九州弁という点もそれを想起させた。 たぶん、ほかの人が読んだら何ともないシーンなんだろう。 でも自分には今この時を生きている母親の事が思い浮かんで、涙をこらえるのにこらえきれなかった。 同じことは他の作品でも言える。リリーさんの『東京タワー』のオカンなど。 自分は九州弁で話す母親の物語に弱いのだろう。 でも自分だけの感覚だろうか。 きっと誰かしらは理解してくれるはずだ。 九州の「母親」は本当に魅力ある人が多い。 母は偉大だ。 あ、感想からだいぶ脱線した。以上。 悪人(上) 悪人(下) お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2010/09/23 12:48:00 AM
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