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ずっと、転勤族だった私。数年前、岡山から広島へ引越した。そして、初めて美容院へ行ったときのこと。店内は、ハイセンスな感じで、店員さんも黒の服で統一されていた。来ているお客さんも、ちょっとそこいらのねえちゃんというのではなく洗練されたOLといった感じで「さすが、広島は都会だわ。」と緊張した面持ちで待っていた。やっと呼ばれ、しゃなり、しゃなり(実際は、あたふた)と、すすめられた椅子に座った。そして、笑みを絶やさない店員さんが、手際よくケープをさっと私の前からくるっと掛けた。そこまでは、大抵どこの美容院も一緒である。そこからが、問題だった。なんと店員さんが「したの方出していただけます?」と言ったのだ。「した」変換すると、「下」か「舌」。一瞬、頭の中をその二つの漢字がよぎった。「まさか、パンツは脱がないよね。」そしたら、「舌」しかない。まあ、広島の美容院では「舌」の健康状態まで見てくれるのね。すぐ自分の意見に納得してしまう私は、ためらわず「べぇー」っと店員さんに向かって見せた。そしたら、今度は顔を伏せるようにしてもう一度同じことを言うではないか。あれじゃよく見えなかったんだ。またまた自分で納得して、もう一度。よく見えるように、目の前で。舌の付け根まで見えるように。それからは、店内は、不思議な雰囲気に包まれ、誰も目を合わしてもくれず、私の髪をカットする手も心なしか震えていた。「した」はケープの下の方から手を出せということだと分かったのは、週刊誌を読もうにも手が出せず、股に挟んだ時だった。店員さん、お願いだから主語を言ってね!
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