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テーマ:短編を作る(405)
カテゴリ:Short stories
ウサギ あの娘は俺のこゝろをチラリと覗いてから こう伝えてきたっけ・・・ ”こゝろの地下鉄駅には出入り口がなくてさ 嗚呼 っと 小さいため息もらしたって トン っと 崩れた膝が地面と鳴らす微かな音だって どんどん大きく響いてく あんたが出したそれらの音に あんたのウサギが血走った眼をして身を縮こませるの” っと・・・ ********** あの娘がどこの誰かなんて俺は知らない これまでどうしてたなんてことも 知らん顔して過ごしてるさ 俺だって俺自身が いつからここにこうして座って過ごしているかなんて すっかり忘れ去ってるんだし 俺はこのギターとともに うつろう太陽と月の満ち欠けと流れる星を背景に このベンチで寝転んだり座ったりしてきたんだ 来る日も来る日も 来るあてもないバスを待つベンチで… でも そう想っているのは俺で 俺は流れ来ては去ってく窓の景色を遮断してるだけで このベンチこそがもしかしたら 俺の日常というバスかもしれないけど… 陽が傾きかけた時刻だったか 俺の傍らにもう一人ぐらい座れるだけのスペースをあけて 気がついたらあの娘の影があったんだ 俺と同じようにあの娘の胸の真ん中にも ウサギ が住み着いていた 憂さ という毛を纏った生き物さ あの娘の胸の真ん中の大きくポッカリ空いた穴に頭からその身をつっこんで 真っ白いフワフワの毛のしっぽと後ろ足だけこちらに晒してたよ 俺の胸の真っ黒いウサギも顔出して あの娘のウサギのまあるいしっぽを怪訝そうに覗いてた 俺もあの娘も俺たちが胸に抱えてるウサギになんか ちっとも気づかない素振りしてたけど あの娘は下ろしたリュックの中から ノートと鉛筆を取り出して描きはじめた あの娘より高い座高を利用して 俺はそのノートの中身を横目で覗いたんだ そのノートはウサギの森のウサギの住処だった きっとあの娘は毎日毎日飽きもせず ウサギの森を刻銘に描いて過ごしてきたのだろう 絵を描いてるあの娘の横顔の唇と頬が 澱んだこの俺の瞳にさえも愛らしくて 俺の存在を重苦しくあの娘が感じないように 俺はギターを引き寄せ 毎日欠かさず指慣らしがてらに弾く曲を鳴らし始めた 俺がギターを鳴らし始めたって君は振り向くこともなく 聴いているのか いないのか? その耳には届いているのか? 君はノートの白地に線を引いて陰影を描き続けてた まあいいさ 俺はそのうち 君の素振りや存在が気にならなくなるほどに ギターが放つ音の波に深く沈んでいったのだった 藍色のveilを纏った海底に 金粉を撒き散らして鈴のような唄声がきこえてきた 俺にはわからない言葉響かせ その言葉は 牛馬のように鎖繋がれ連れ回され 売られて散々働かされる人々が 仲間同士で遣う言葉だろうか そんなことはどうでもいいさ 押し寄せる波が渦巻くような 俺のギターが奏でるメロディーにぴったりの声色なら 君が征服者に従う婢なら 俺はフラフラ土地から土地へ 竪琴片手に唄い彷徨う吟遊詩人で その吟遊詩人はいつしか 竪琴に合わせて唄う声を失っていたのだから スっとまっすぐ俺に向けられ 君が差し出した真っ赤な林檎は 綺麗に半分に割られてた 嗚呼 そうだね この林檎は君が鎖につながれ 昼夜を問わず働いて得た林檎 そして君は 俺の胸のウサギにも食べさせてやるようにと 小さくて白い手の 鉛で真っ黒に染まった指で 俺にそう伝えてたんだ にほんブログ村 にほんブログ村 にほんブログ村 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2015年05月15日 06時39分09秒
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