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Maryam's HP 日記

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2015年07月08日
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カテゴリ:Short stories
短編 〜織姫〜



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三つ目の湯呑を空けたお天道様が、

”それじゃそろそろ・・・”

っと重い腰をあげた時、織姫さまはホッとした。


”お天道様ったらいつものように、

小一時間もここに居座っていらっしゃるんだから・・・

きっと今日が何の日なのかすっかり忘れていらっしゃるのね。”




今日に限らず、織姫さまは忙しい。

年に一度しか戀しい人に逢えないから暇なんじゃない?ってみんなは思い込み、

彼にあえなくて寂しいんじゃない?なんて勝手に同情して、

招きもしないのに、お茶の時間になれば、毎日のように誰かしらが戸を叩く。


”ご心配無用、そんなこと全然ありませんから、ひとりにさせて!”


なんて本心を言おうものなら、遠いあの人の耳に届く頃には


織姫さん、悠々自適にお暮らしよ、誰かいい人できたのかしら・・・


なんて話になっているのが怖くて、本当の気持ちなんて言えないけれど。



織姫さまことアタシは忙しい。

年に一度しか戀しい人に逢えないから忙しいのに・・・


だって、一年の間にしてさしあげたいことを、

たったの一日、この許された一日でしなければいけないんですもの。


彦星さまが春夏秋冬過ごしやすく、快適にすごせる衣服をこしらえるだけでも、

大変なことだって、なんでわかってくれないのかしら???

しかも、この一年の間に彦星さまがいったいどれぐらいお太りになられたのか?

お痩せになられたのか?去年のままなのか?

わたしは知りえようもないのだもの。

だからわたしは少し太めと、細めと、そのままの大きさで毎年仕立てるの。




それから旬の山菜や木の実、果物を日持ちするように大量に乾かしたり、

たまに貴重な兎や鹿や猪の肉が手に入ったら塩漬けにしたりもする。

これも一年分こしらえて差し上げるの。



晴れて所帯をもつその日まで、

彦星さまにはお健やかでいてもらわなければ・・・

健康の要は口にするもの、そうよ食材でしょう?

彦星さまはアタシより十以上も年が離れているんだもの。




一年に一度しか逢えないから、涙が川になっちゃうほど泣き濡れてる女だって、

アタシは今も世間にそう思われている。

確かにそうではあったけど・・・


一年でも二年でも、泣くだけないたら女は、

現実に沿った将来設計をして、日々を生産的に過ごすようになるものよ。

諦めるんじゃなくて、今許されていることを黙々とこなして日々を過ごすの。

夢見る甘ちゃんだったアタシだってその例外じゃなかったってこと。


彦星さまに差し上げるものを捻出するのも大変だって、

そんな素振りは微塵もみせはしないけれど、

生きるってことはタダじゃないし、タダじゃすまない。

わたしは職業婦人でもあるのよ。


ロマンを食べては生きていけない。

いつまでもロマンを食べ続けられるのはむしろ男性、彦星さまの方じゃないかしら?



泣いてる暇なんてありゃしない、これは本当のことだけど、知られてはいけない・・・

決して誰にも、彦星さまにも!


大和の国のジュリエットを名乗り、

ロマンを背負い、胸に抱き、美しくも切ないヒロインであり続けるの。





嗚呼、今宵はいよいよ天の川を渡り、あの人のもとへ。


戀しくない、、、なんていったらそれはそれで、もちろん嘘になる。




水面にアタシを映してみると、

一人暮らしが身に染まり、たくましく過ごす生活感が

顔にも心にも滲みだしてきたみたいにみえる。

容姿も衰えていく一方なのね・・・

目の下の隈も、ほうれい線も影を増し、

今夜はもう、隠し様がないんじゃないかしら?

どうか褪せた色香が、少しでも闇夜にまぎれますように。



・・・ダメよ、ダメ!そんな弱気は絶対にダメ!


疲れてしょぼしょぼになった瞳を見開き、

口元には夜露にぬれた花びらのような笑みを浮かべ、

張り詰めた肩、前かがみになって丸まった背筋は

天井から吊り下げられたようにピーンと伸ばし

去年よりも更に厚目に化粧を施し、

この肌の色が少しでも映える衣の袖に腕を通し、


千年、万年までも褪せず変わらぬ想いを胸に、

年に一度の待ち焦がれた逢瀬への溢れる想いに瞳を潤ませ、


今宵、天の川原で同じように、出逢った頃と変わらぬ瞳で待っている


あの人の元へ

あの人の胸の中へ














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Last updated  2015年07月09日 02時27分13秒
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