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中高年の生涯学習

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2024.09.29
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中高年になると漢字が書けなくなったという経験はないだろうか。
役所の申請文書や病院での病状申告で漢字が思い出せない。仕方がないのでひらがなで誤魔化す。なんとも恥ずかしい思いがする。
年だなと思う。本は目で読むだけ。日頃はパソコンやスマホでメールを出すが、手紙やはがきをほとんど使わなくなった。パソコンやスマホは予想漢字が出るので、それをクリックするだけである。
​これでは漢字を忘れるのは当然である。予防する手段はあるか。一つの方法は書き写しである。これは時間がかかるし、非常に非効率な方法であるが、「言葉」を自分のものにする最良の方法である。​
 
​「通販生活」という雑誌がある。通信販売の商品カタログであるが、記事も付いている不思議な雑誌である。最近号(2024年初秋)では特集が「なぞり書き日本国憲法」で憲法の条文が薄い文字で書かれてあり、それを鉛筆でなぞり書きするという記事になっている。これは今の日本が憲法をないがしろにしている状況に反発した編集者のアイデアだろう。なぞり書きする意義についての法律家のコメントも掲載されている。自民党総理選挙が盛んに行われている。候補者の大半は憲法改正を訴えている。裏金議員で法破りしている人が憲法改正などと訴えているのは笑止千万であろう。​
 
​憲法と言えば、聖徳太子の「十七条憲法」は歴史の教科書に出ているくらい有名である。これを書き写すのも面白い。「世間虚仮(こけ)、唯仏是真(ゆいぶつぜしん)」という言葉が出てくる。世の在り方は虚仮(空、無常)と見て、仏の悟りこそが真実だ、という仏教思想の核が述べられている。まさに裏金議員の憲法改正議論など虚仮(こけ)と見通されている。​
 
新聞の一面の一番下に各新聞社のトップライターの随筆が置かれていることが多い。朝日新聞でいえば「天声人語」である。これを書き写している人は多い。普通のノートでも構わないが、朝日新聞では「天声人語書き写しノート」が作られていて、講読者であれば、新聞販売所に申し込めば届けてくれる。新聞の「天声人語」を切り抜いて貼る欄が設けられ、「天声人語」と同じ字数、行数のマス目が作られている。販売価格は200円(現在は変更されているかも?)。
 
今年のラジオ講座「基礎英語レベル2」にはその日の重要構文であるターゲットと称する文章を書き写す欄が設けられている。英語を書くという機会はあまりないが、英語の書き写しは、日本語の漢字の書き取りと同じ作業で、スペルを覚えるのに重要で、じっくり学習する人には大切な作業である。レベル1,2で海外で通用する英文構造は、ほとんど学べる。レべル1は中学1年生対象の初歩の英語で、テキストは空きスペースが多い。この場合はテキストにそのページの英文を直接書き写すことができる。重要単語はほとんど網羅されており、スペルを覚えるのに適切である。基本単語のスペルが分からないということは無くなるはずである。
 
​書き写しで有名なのは写経である。京都の大きな寺で行われているのは般若心経の写経で、このお経は短いので写経によく使われる。正式には筆、墨、紙、経本を用意し、色々な作法があるが、自宅ではノートと鉛筆で行うのが簡単である。書店に行けば「般若心経」の本が多種置いてある。折り込みで写経用の見本が付いているものがある。読誦用のCDも付いている。これも色々なものがあり。工夫がされている。CDの一文の読誦音声の後が空いているものがある。英語のリピーティングと同じである。いずれにしても、本の解説をよく読むことが重要で、解説には写経の心構えが書かれているはずである。こういうのを参考にノートに書いてみることである。短いとはいえ全て漢字である。なかなか骨の折れる作業である。​
 
​小説の書き写しは作家修行する人のよく行われる勉強法である。志賀直哉とか文章の神さまと言われる作家の短い小説が使われる。作家は誰でも構わないお気に入りの人でいい。俳句、短歌の勉強も書き写しは有効である。俳句の本でモデルの句が大きく書かれ、その後3行分のスペースがあり、モデルの句を書き写すという作業の本がある。3回同じ句を書くのである。その先生の句会での指導法が本で再現されている。100句のモデルとその句の解説がある。まるで小学生の勉強法であるが、どのくらい力がつくか、やってみないとわからない。こんな本をわざわざ買う必要はない。適当な俳句の本の例句を3回書くのである。俳句は短いので簡単である。重要なのは書いた句を自分なりに解釈してみることである。書くことで自分なりに一歩踏み込んだ解釈になるはずだ。ついでに漢字の読み、意味を確認しておく。​
 
受験で有名な灘高の国語の先生が古文学習法で兼好法師の「徒然草」を使った書き写し学習を伝授していた。その本では大学受験でよく使われる五段(5つの文章)の指定があったが、生涯学習的には冒頭の5つの段が対象である。ノートは縦書きがいいが、横書きノートを縦にしてつかう。ポイントは2行空きスペースを置きながら書き写すのである。その空きスペースには、読み仮名、意味を書き入れる。数回音読しながら、兼好法師になりきるという学習法である。段はお好きなところでいい。樋口一葉もやってたようである。一葉の作品のなかに徒然草の仏教思想の言葉を使って綴られている所がある。書き写していなければ、この言葉に気づかない。
 
本格的に、その先生の学説を学ぼうとする人は、先生の本を丸写しするという勉強法を取る人もいる。いずれにしても書き写しは大変な作業である。覚悟が要請される。のんびりやる人は、大げさに構えないで、思いついたとき、気持ちが静かな時、ちょっと(ノート2ページくらいか)やってみるくらいでいい。やって見て自分に効用があると認識出来たら本格的に勉強法として取り入れたらいいだろう。
 
書き写しの効用を脳科学のメカニズムから説明しているリハビリの理学療法士が説明している個所を最後に引用しておく。​
 
「文字を書くときには大脳が働きます。大脳は前頭葉、頭頂葉、側頭葉、後頭用の4つの領域に分けられます。文字を書くとき、まずは前頭葉の一部である前頭前野の言語領域を使って、言葉や文章を考えます。そして考えた言葉や文章を作動記憶(ワーキングメモリー)の中に留めます。次に側頭葉で書くべき文字の形を引き出して、前頭葉の運動領域で書くための運動プログラムを作成します。同時に頭頂葉で適切な文字の大きさ、形、位置などの情報を付け加えます。作動記憶中の情報をもとに文字を書いていきながら、後頭葉で書いた文字を解析して、運動プログラムの修正を行います」(和田祥平「足腰の教科書」(メディカルパブリッシャー))より。
 
これは文字を書くことが大脳をフル活用していることになる。機能的MRIをつかって脳の血流を調べた研究から明らかになっている。
 





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最終更新日  2024.09.29 11:08:56
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