小雨の午後に若冲・・三の丸尚蔵館「花鳥~愛でる心、彩る技」
「花鳥─愛でる心、彩る技<若冲を中心に>」の第2期終了まぎわ、小雨のそぼ降る中、三の丸尚蔵館へ若冲の「動物綵絵」を見に行った。「雪中鴛鴦図」、枝々と、鮮烈な雪のしぶきが印象的。枝が、枝という感じがしない。太い枝は画面分割の役割を担っているようだし、細い枝は縦に平行に垂れ下がっていて、自然ではない。まるでマンガの効果線のようだ。鴛鴦(おしどり)のまるい瞳が愛らしい。羽の、実にさまざまな色や質感が描き分けられている。椿の花だろうか?濃いピンクが目に鮮やか。水にもぐるもう1羽のおしどりは、お尻だけが見えている。水は背景色の緑灰色と一体化し、透明性が描かれていないので、水というより砂か泥にもぐっていくように見えてちょっとユーモラス。「梅花皓月図」、少し暗い画面なのは夜の図だからだろうか。画面をおおうおびただしい梅の枝と、花。それぞれの枝の二股のデルタの空間に、ほんのりと翳りがつけてある。なんとも細かい表現。細めの幹に付着している苔の青の妖しさ。幹には細い草のようなものも生え、それもりんりんと青い。その青は徐々に密かに、梅の木に増殖し蝕んでいくかのような、生理的に訴えてくる色だ。声なく月に吠える梅の木。狂気への入り口。「梅花群鶴図」、構図の面白さ!ユーモラス。ぱっと見、鶴が三体いるように見えるが、よく見ると六体いて、くっつきあってこちらの目をあざむく。センターの一体は、こちらにお尻を向けているという、茶目っ気たっぷりな構図。そんな鶴たちの間をかいくぐって、奥から顔をにゅっと突き出し、真正面を見る一体の鶴と目が合う。左端の一体の目は、諧謔あふれる流し目をしていて、ほとんどマンガのようだ。若冲の描く鶴の胴体はいつもまるまるしていて、マシュマロのようにやわらかそう。むにゅ~っとした感触を想像させる。「棕櫚雄鶏図」、交差しにらみ合う、白と黒の鶏の対比、緊迫感。背景のシュロの直線的な葉の造形の鋭利さと、2羽の鶏の間にあけられた空間とが、張り詰めた空気を強調している。あいかわらず鶏の白い羽の丁寧な彩色、黒の羽の上品な濃淡が美しく緊迫感と同時に安定感のある構図とあいまって、非常に明確な、インパクトの感じられる作品。「桃花小禽図」、幹の描き方が踊るような筆致。おっとりした桃色の、小さな花々がいっぱい。若芽が萌え、上へ上へとなびき、動きとリズムが感じられる。春の息吹のダンス。「菊花流水図」、不思議な構図。水の流れに、青緑の不思議な岩のような木の幹のような物体、空(くう)に浮いている菊の花。もはや宇宙のもの、かもしれない。ところで、今回は落款の押す位置もじーっと見た。走墨をやっていて、最近は作品ができると自分の印を押すのだが先生にアドバイスをいただかないと、印を押していい位置がいまいちよくわからない・・(^^;)走墨の場合は空間を殺さぬよう、位置を決めるのだが若冲の場合はこう画面にモチーフが詰まりきっているとどういう基準で押すのかな~と、そんなことも6幅見比べてみた。枝と枝の間とか、こんなところに!と思うような押し方もあって面白い。また、前回は見なかったけれど、今回は図説を見た。「旭日鳳凰図」という絵に目を奪われた。何だ、これは。あまりにもポップ!ポップすぎて、なんだかざわざわする。若冲という人は本当に、日本画とか日本国とか江戸時代とかそういう枠を超えている。これは第4期に展示されるらしい、今から楽しみだ。帰りも小雨の中、平川門へ向かって歩く。桜の木の下に、何が落ちてるんだろう?と思ったら、さくらんぼの枝だった。ほんのり赤い実が、美しくて。なぜいくつも枝ごと落ちてるのかわからないけど。平川門からつつじの庭とパレスサイドビルディングをのぞむ。門が絵の額縁みたい。小雨のグレーの景色の中、赤いつつじが映えていた・・・けど写真だと暗いなあ・・帰りに寄った落ち着いた雰囲気のカフェには私の好きなマリリンのモノクロ写真が飾ってあり、気に入った♪美術展のあとはこうしてカフェでぼーっと今見てきた絵の反芻をするのが、本当に楽しみだなあ。