「新春の寿ぎ(ことほぎ)」展@三井記念美術館
東京駅に用事があったので、帰りにてくてく日本橋まで歩いて三井記念美術館へ「新春の寿ぎ(ことほぎ)」展を見に行った。初めて行く美術館は、いつもわくわくする。一村雨さんおすすめの、円山応挙の国宝「雪松図」。塗り残した雪の白と対照的に、幹の墨の黒の力強さ。私にとっては、ちょっとコントラストが強すぎて、少々威圧的にも感じられる。しかしふんわりした雪、特に小枝につもった雪が軽くやわらかそうで塗り残しによってあれだけ質感を表現してしまう描写力には圧倒されてしまう。左に割合細めの枝や幹をしならせた若木、右にどっしり直線的で鋭角的な老木を配している。その様子は、若木は蜘蛛の姿にも似て、下から這い登ろうとしているよう。虎視眈々と老木に迫り来るようなしなやかなパワーを感じさせる。対して老木は腕を突っ張ってNO!と拒絶している人の姿に見えてくる。追う側、逃げる側のように見えて、その造形の対比が面白い。狩野常信「寿老人・松竹図」、3幅で1つの作品だが、右の松図が特に素晴らしかった。幹を描く筆が踊っている。かさかさごつごつとした表皮の様子に目を見張る。自在な筆さばきが非常に魅力的。江戸初期の作品、土佐光起「女房三十六歌仙帖」は、平安時代の女房の姿絵とその人物の歌が一首書き散らされている。女房ひとりひとりの十二単の色あいの美しさ、配色の妙、繊細さが楽しいが、それにも増して、御簾に隠れ、髪と衣装のすそしか見えない女房がその奥ゆかしさゆえか、より美しく感じられてしまうというのは不思議なことだ。焼き物では、本阿弥光悦「黒楽茶碗 銘雨雲」、光悦はほんとにマルチ人間だとため息。野々村仁清「色絵鱗文茶碗」、赤と金の三角模様の意匠が、モダンでかわいい。仁清って初めて見たけれど、こんなモダンなものをつくる人なんだな・・国宝「志野茶碗 銘卯花墻(うのはながき)」国宝である焼き物は2つしかなく、その1つを初めて目にすることができた。写真で見るより、予想以上に大きく、またゆがみも大きかった。こんなにゆがんでいるとは・・・写真にだまされちゃいけません。いつものことながら、美術館で見る茶碗にはもどかしさを禁じえない。いいものであればあるほど触りたくなるのに、それは当然叶わない。表面のざらざらやごつごつに触れ、またその重みを味わいたい。しかたがないので、ガラスケースのまわりをぐるぐる回って、視覚だけで白い釉の下に秘められた、じっとりした朱を味わった。楽吉左衛門「焼貫き茶碗 銘●雨(あめにささぐ)」は、現代の作品。(●は"敬"の下に"手"をつけた漢字)モダン&シックで、落ち着いた中にも黒や緑の釉が弾み、交わり、心地よいリズムを感じる。銘が「あめにささぐ」だからか、暗い雨空と、濡れた葉、静かな雨のリズム、水や湿った空気の流れ、など思い起こさせ強引に私の誕生月の6月にぴったりだと、密かに楽しく思ったりする。最後出口近くに、室町時代の絵巻物「放屁合戦」というのがある。男たちの表情がとてつもなく楽しそうで、微笑ましい。かわいく、おおらかで、案外現代的だと感じた。たそがれとともに、ライトアップされる三井記念美術館、その側面は、ルーブル美術館の円柱を彷彿とさせる・・・日本じゃないみたい!国宝2点を見られる「新春の寿ぎ」展は、三井記念美術館にて1月4日(木)~1月31日(水)まで。