増永広春 走墨作品展「いのちの樹林」@ぎゃらりい おくむら
増永広春先生の走墨作品展「いのちの樹林」を見に、渋谷の"ぎゃらりい おくむら"へ行って来ました。あいにくの雨・・"ぎゃらりい おくむら"は明治通り沿いにひっそりありました。モノトーンを基調にした、意外に硬質なシャープなイメージの小さなギャラリー。中に入ると、小さいながらも2階吹き抜けになっていて、高さも生かした展示方法になっており、思わずぐるりと見上げてしまいます。「濡れたでしょう」とオーナー夫人が微笑しつつ、タオルを貸して下さいました。こんな心遣いは嬉しくなりますね!ぱたぱたと濡れた服や髪を拭き、名簿に名前を書き、先生もいらっしゃったので、ごあいさつしました。今回は、「いのちの樹林」というタイトルで、まず山や木々をテーマにした大きめの作品群が1階に並んでいました。それらは墨の濃淡だけで描かれたものが多く、お軸に仕立てられていてその表装の色あいや風合いと相まって、大らかでどっしりとした、それでいて穏やかな風が吹き渡るような何とも言えない心地いい"気"が満ちていました。大きな家に住めたら、こんなゆったりしたモダンな掛け軸をかけて眺めてみたいものです。山や木のコラージュ作品は、前回の作品展のとき初めて見かけ、面白い!こんな作品も創るんだ・・・と、走墨という世界のイメージをいい意味で打ち崩されました。1階の奥のほうと、階段に沿ってさまざまな小品が並び、2階には染付けの焼き物や、より絵画的な作品が展示されていました。サッカーや相撲、自転車競技など、スポーツを描いた躍動感あふれる作品、さまざまな花を主題に、文字が花の姿となり色彩をまとった作品、「和」「気楽」「炎」など、文字がそのまま情感をかもし出し、しかも台紙や額縁の色との心憎い絶妙なハーモニーを楽しめる作品などなど。また、天井近くに貼られた大きな作品は、与謝野晶子の詩が朱文字で書き付けられたもので、その、まるで淡い心の血で書かれたような作品を2階の手すりから身を乗り出してじっくり堪能しました。私は1階の奥にさりげなく置かれた、牧水の短歌を書いた作品にとても魅かれ、飽かず見入ってしまいました。「白鳥は哀しからずや空の青海のあおにも染まずただよふ」この歌は中学の教科書に載っていてとても好きな歌でした。その歌が流麗に斜めに配置されているのもすてきだったし、文字のラインの美しさはただただため息。そして"鳥"の文字は鳥の姿に変容しつつあり、その歌の中からさえも、今にも飛び立とうとしています。可能であれば、入手して部屋に飾って毎日目にし、自分でも書いてみたい作品でしたが、先生に伺ってみるとすでに売約済みになっていて残念!じっくりじっくり見ていたら、オーナー夫人から声をかけられました。「先生についてお稽古されてるの?」「あ・・はい。月1回のお稽古ですけど」「毎日書かれているの?」そう尋ねられて、とても恥ずかしくなりました。毎日毎日。本当に芸術の世界に入っている方は、まみれるように毎日、書いたり描いたり創ったりしているのだろう。そんな姿をたくさん見てきているに違いない。日々の思いの積み重ねは、その人ににじみ出てくるものだろうな・・さすがに毎日は難しいけれど、せめて私も、ばたばたとお稽古前に宿題をやっつけるのではなく、日常的にもう少し筆を持ち、ラインや空間を創ることを追求する意識を持っていたいなあと思いました。オーナー夫人によれば、このギャラリーでは音楽のライブもときどき開催され、先日は日野皓正さんのミニ・ライブも開かれたそうです。確かにそういうのも似合いそうな空間!ギャラリーでのジャズ・ライブなんて、とってもおしゃれ!見てみたいです。案内を出しますよ、と言われとても楽しみになりました。小さな空間で、作品たちに囲まれて過ごした短い時間でしたが、やわらかで清々しい気に満ちた、目に見えない樹林のようでした。●●増永広春 走墨 作品展のお知らせ●●「いのちの樹林」2007年7月11日(水)~18日(水)11:00~18:00(最終日は17:00まで)会場:渋谷 ぎゃらりい おくむら〒150-0011 渋谷区東1-27-10