「影の現象学」を読んだ
河合隼雄「影の現象学」(講談社学術文庫)を読み終えた。ずいぶん前に、私の敬愛するMさんのブログで取り上げられていて興味を持っていた。現象学の本かと思っていたけれど、心理学的な内容だった。非常に興味深く、思い当たることが多く、示唆に満ちた本だ。"影である無意識は、しばしば意識を裏切る。自我の意図する方向とは逆に作用し、自我との厳しい対決をせまる。"裏表紙に書かれている要約だけでも、自分にしっくりくるし、ユングを中心に、ニーチェ、仏教などやはり好きな方面の思想が関連づけられていて、より興味深い。また、抑圧された"影"については太宰を思い、辻邦生の「夏の砦」を思い、二重身のところでは大岡昇平の「野火」のクライマックスを思い、「テレーズ・デスケイルゥ」への言及から堀辰雄の「菜穂子」を思い・・・10代の頃親しんだ小説が次々思い出されるような内容なので、とても不思議な気がした。ある意味、私は影ばかり見てきたと思う。社会の大きな影などではなく、自分内部の、家族内部の、或いは周囲の人や物事の、影を見てきたと思う。抑圧、インナーチャイルド、親殺し、存在の希薄感、容認への欲求、エニアグラムのことなど、以前いろいろと追求していた事柄、すでにもう解消し乗り越えられたと思っていた事柄たちが改めてふつふつと湧き上がり、人と語り合いたくなる。何故私は心理学をやらなかったのだろう?やって来なかったのだろう?不思議なくらいだ。もし哲学科ではなく、N大の行動科学科のほうに行っていたらその後がまったく違っていたのだろうか?しかしある意味、自分なりに実践的に心理学をやってきたとも言えるのではないだろうか。考察してきたことが、こうした本を読むといちいち納得がいく。無意識と向き合い、自分自身を導き、救ってきたようにも思える。そして最後の章では影と創造性の関連について書かれていて、今の自分が読むべき本だったと思えた。創造の過程について、まるで自分のことを書かれているような気がした。改めて今までの創り方でいいのだ、と思えた。