カテゴリ:思索・読書
年始に「今年は仏教を学びたい」と書いた。 私は宗教は好きではないが、以前に比べ日本の美術や文化が好きになったせいか、 日本人に深く根付いている仏教について、ここ数年気になっていた。 日本人独自の時空への意識や美意識、死生観に大いに影響を与えている、 その思想を知りたく思った。 仏教とひとことで言っても幅は広く、奥も深く、 どこから手をつけていいのかよくわからなかったけれど、 アマゾンのレビューを参考にしたり、実際本屋でぱらぱら見たりして 初心者でもわかりやすそうな本を選んで3冊読んでみた。 ジャン・ボワスリエ「ブッダの生涯」創元社 水上勉「『般若心経』を読む」PHP研究所 中村元・田辺祥二「ブッダの人と思想」NHKブックス まず、宗教としてとか、私の好きな美術の方向から、ではなく、 人間ゴータマ・シッタータがどんなふうに目覚めてブッダとなり、 どんな行動をし、何を言ったか、をシンプルに知りたかったので まず彼の生涯を知ろうと思った。 ジャン・ボワスリエ「ブッダの生涯」 「ブッダの生涯」は、なかなか魅惑的な書だった。 仏画や仏像の写真が盛りだくさんで、見ていて楽しい。 訳者が序文で述べている通り、このフランス人研究家による書は 南方の資料による解説が中心で、北方や日本を含む東方の資料や言及が ほとんど扱われてないという傾向はあるけれど、 それにしてもここに展開されている世界は、 これまで日本史などで教わった世界とはまるで異なっていて、鮮烈で絢爛で興味深い。 仏教はインド生まれなのだから、当然ではあるけれど、 南国から出たものだということを、まるで初めて知ったかのように実感した。 仏画では、南方らしい、黄や橙や赤など暖色をふんだんに使い、 神や動物も生き生きと描かれているものが多い。 "人間ゴータマ・シッタータが・・"と先ほど書いたが、 この書は、多分に神話的な要素も強く、 彼の前世が猿だったときの物語や、女性だったという仏画や、 神と対話し地上に戻ってきたときの物語と熱狂的な仏画や、 分身の術を見せる奇跡の物語など、さまざまな物語を含んで展開されている。 少々猥雑な感じもあったりして、おおらかで豊かな、 躍動的な南方の息吹を感じることができる。 とても面白い。 水上勉「『般若心経』を読む」 まったく1から仏教を少しずつ学ぼうとは思ったけれど、 よく知られた短い般若心経については先に学んでみたいと思い、 水上勉「『般若心経』を読む」を選んでみた。 わかりやすい言葉で解説しながらも、反論し、持論を展開している。 正直な人だな、とは思ったけれど う~ん、私情が入りすぎ? 家族の不運・不遇はわかるけれど、イコール不幸と断じていいものだろうか・・ 家族は違った感じ方や見方をしているかもしれないのでは?と疑問に思った。 中村元・田辺祥二「ブッダの人と思想」 大まかなブッダの生涯や、神話的な逸話はわかったから、 今度は基本的な思想について知ろうと思い「ブッダの人と思想」を読んでみた。 こちらは人間ブッダの印象が強く、穏やかな話し方や、 門徒への優しいふるまいや言葉、賢明な態度などが伺える。 この時代、インドでも 西洋哲学の原点と近いことがさかんに議論されていたことも興味深い。 西洋でソフィストたちがたくさんいたのと同じように インドでも懐疑論や道徳否定論、唯物論などさまざまな教えを説くものがいたという。 時代が下がると唯識論というのがあって 「すべてを空と考える自分自身は空ではない」という理論などは デカルトの"我思う・・"とまったく同じではないか。 そんな中で、さまざまな形而上の問題、 「時間の有限性・無限性」「空間の有限性・無限性」 「肉体と霊魂の同一・非同一」「人間存在の死後の世界の有無」 これらにはブッダは一切答えなかったという。 しかしそれは有用性の問題で、彼なりに"言葉にできないもの"として 何か示されているものがある気がする。 他にも、人間存在における自己、我(アートマン)について 「説似一物即不中(ひとつでも取り上げて説明したら、もはや真実から外れてしまう)」 と答えており、それでいて人々に「アートマンを求めよ」と説き続けている。 アートマンについては、何度か読み返して自分なりに咀嚼してみたいと思っている。 これまで漠然ととらえていた"空"についても 少々ニュアンスが異なることがわかり、これについても考えていきたい。 初めて知ったことも多かったが、特に印象深かったのは 川の向こうに渡るのに舟は有益だけれど、 向こう岸に渡ったら舟に執着する必要はなくなるという例えを用い、 ブッダの説く教えも捨てるべきときは捨て、前進しなさいと弟子たちに説いたこと。 これこそ、ブッダが神でも宗教家でもなく、 1個の、道を指し示す道標であり、一修行者であり続けたという証であろう。 まだブッダの教えを理解したとは言いがたいが、 基本的な仏教用語や人物名に少しだけ通じたような気がする。 次に進むなら、興味深いのは龍樹の"空"の思想だ。 それから、禅の世界。 密教もちょっと面白そう。 浄土宗や日蓮宗など日本で広く信仰されている各宗派についても 余力があれば読んでみてもいいけれど、あまり気が進まない。 仏教を学ぶと言っても、手軽な本を読むだけだけど、楽しい。 これからは毎年1つテーマを決めて学ぼうかなと思った。 哲学とか歴史とか。 少しずつでも、世界が広がって楽しそう。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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